第34話 アマデウスのサポート
美しかった湖は水中まで紫色に染まっていた。
指で穴を塞ぐも徐々に浸水するコンバットスーツの中で、カイルはナビちゃんに話しかけていた。
「ナビちゃん、修理にどのくらいかかる?」
『穴を防ぐだけで五分くらいですが、この水圧に耐えられるほどの修理ですと二十分は必要です』
そんなやりとりをしている間も、カイルはゆっくりと湖に沈んでいた。
すでに水面が遠くに見えていた。
湖底を見ると、光が差し込んでなく真っ暗だった。
「ナビちゃん、湖底まで何メートル?」
『推定距離百メートル』
百メートル! 湖底まで行ってしまうと、コンバットスーツが持つかどうか分からないし、そもそも浮上できるかどうか怪しい。
カイルは深く沈む前に思い切ってコンバットスーツを着脱して、水面に出ようか考えた。
しかし、コンバットスーツのないカイルはただのレベル1の従者である。バジリスクの毒に対する耐性など持っていない。
手詰まりで湖面を見上げていた。
太陽光で光が揺らめく。
そこに一つの影がカイルに近づいて来た。
「カイルくん、大丈夫?」
それはノアールの親友である人魚のアマデウスだった。
「アマデウスさんこそ、毒は大丈夫なのですか?」
「少し気分が悪いけど、まだ大丈夫よ。それより、カイルくん。このままだと溺れちゃおうよね。私が水面まで連れて行ってあげるね」
そう言ってカイルの手を引いて浮上し始めた。
「ありがとうございます。でも、このまま浮上しても、彼には勝てそうにないんです」
「どういうこと?」
カイルは風を操るクリスのことをアマデウスに話したのだった。
このまま、船上に戻っても先ほどの二の舞だと。
「じゃあ、そのクリスって人の魔法かスキルを使えないようにすれば良いのよね。カイルくん、その鎧で音はシャットアウトできる?」
「出来るみたいです」
「じゃあ、甲板に上がったら耳を塞いでおいて。あとは私に任せて」
そう言うと、アマデウスはカイルを連れて、急速に浮上した。
そしてその勢いのまま、水面に上がると一気にカイルを投げて、甲板へと着地させた。
あまりの速さに、さすがのクリスも矢を撃つ暇が無かった。
「まあ、いいでしょう。何度でも湖に落としてあげますよ」
「そうはさせないわよ」
そう言うとアマデウスは歌い始めた。
人魚の歌声。
その美しい歌声は、人の心を掴み。時には水中へ誘い、時には眠りへと誘う。
魔法にしろ、スキルにしろそれを使用するには効果に比例した集中力が必要になる。
人魚の魔性の歌声を聞きながら扱えるような物ではなかった。
ビビッ!! ビビッ!!
どこかで稲妻のような音が二つ響いた。
「ならば、この声の主を先に倒すのみ! 絶技、千本桜!!」
クリスの弓には数え切れないほどの矢がつがえられていた。
クリスとアマデウスの間には湖しかなかった。
カイルがその矢を防ぐには、湖に向かって飛ぶしかなかった。しかし、一度目の矢を防いだとしても、カイルはまた湖に沈んでしまう。いくらアマデウスの泳ぎが早いとは言え、今度は水面に上がった瞬間に狙い撃ちをされてしますだろう。
それでも、カイルにはアマデウスを見殺しにするという選択肢はなかった。
そしてこの戦いは意外な決着を迎えるのだった。




