第24話 ノアールとカタリナの再会
旧ノラリス兵を加えた、新生アイリーン軍はクーリエ領へ侵攻し始めた。
旧クーリエ兵に紛れるようにアイリーン兵がいるため、それは第三者から見るとただのノラリス軍凱旋であった。
指揮官およびその周辺の騎士が違うだけ。
そのような状況ため、ノラリス領の警備隊はノアール達の侵攻とは気がつかず、あっさりとアイリーン達を通過させたのだった。
そこは広い広い穀倉地帯。
しかし、どことなく領民の元気がなかった。どこか疲れて、諦めたような目をした領民達だった。
アイリーン達騎士団を見ると、おびえるように目線を落とし、どこかに隠れるように離れていったのだった。
「私達が侵攻していることに気が付いたのかしら?」
ノアールはあたりの様子を気にして、馬車の中から顔をだし、アイリーンに話しかけた。
「大丈夫です。領主殿、ここの領民はいつもあんな感じですよ。領主の無理難題や重課税で領民は疲れ果てているのですよ」
元ノラリス軍の小隊長がアイリーンの代わりに答えた。
その言葉は後悔とこれからの希望が混じった言葉だった。
その言葉を聞いてノアールは小隊長達を励ますように答えた。
「じゃあ、早々に解放してあげないとね。一気に本丸を叩くわよ」
そして、ノアールはそう言うと気を引き締めるように自分の頬を軽く叩いた。
そのノアールを元気づけるようにカイルはノアールの肩に手を置いたのだった。
カイルの手に自分の手を重ねるノアール。
「ありがとう、カイル」
そんな決意を胸に秘めたノアール達は農地を抜けて、街の入り口近くへとやってきた。
「ここからは私たちは街を抜けてクーリエ家を占領します。あなたたちからすれば同胞と戦うことにもなります。同胞と戦いたくない者はここに残ってください。なるべく被害は少ないように気をつけますが、逆らう者は容赦するつもりはありません」
ノアールはここまで付いてきた旧ノラリス兵への配慮だっった。
「私は同胞を説得するためにもついて行きます。それにあの豚どもに目に物見せてやりたいですからね」
先ほど領民のことを説明してくれた小隊長はそう言ってにやりと笑った。
その言葉を皮切りに他の騎士達も同意の声を上げる。
「分かりました。しかし、この人数で動けば、スピードが落ちます。少数で行きます。アイリーン、選定をお願いね」
「はい、お嬢様」
「それと……」
ノアールはここにまでに考えていた作戦をアイリーンに話した。
「え!? お嬢様」
「これが一番、被害が少なくてすむと思うのよ。それには彼らの協力が必要なのよ。お願いね」
「……分かりました」
ノアールの意向に沿うように、アイリーンはすぐに編成し直して街に入ったのだった。
貧民街を抜けてどんどんと富が真ん中に集中するクーリエ家領を見ながら、ノアールは眉を細めた。
「ウチみたいに下から上まで貧乏なのも悲しいけど、ここまで貧富の差が激しいのも悲しいわね」
目を覆うほど趣味の悪い豪華絢爛なクーリエ家の前で、一行は立ち止まった。
私兵と思われる警備兵に止められたのだ。
「止まれ! 何のようだ」
「私は小隊長のトーマスだ。オーデリィ男爵領攻略について閣下へ報告に参った」
トーマスは兜を取って顔を見せた。警備兵はそれを確認すると続けざまに質問をした。
「ノラリス将軍はどうした? それにその馬車にいるのは誰だ?」
「ノラリス将軍は闇の勇者との一騎打ちによって負傷され、旧オーデリィ男爵領で養生中だ。馬車の中身は逆賊ノアールとその従者だ。生け捕りに出来たのでノラリス将軍の指示で閣下の御前へと連れてきた次第だ。閣下にお目通り願おう」
警備兵は馬車の中を見ると縛りあげられたノアールとカイルの姿が目に入った。それを見て納得したように警備兵の一人が屋敷へと消え、しばらくするとノアール達は庭へ案内された。
ノアールとカイルは縄で縛られたまま、馬車から出され、庭の芝生の上に直接、座らされたのだった。
しばらくするとあの悪役令嬢を絵に描いたような醜く太ったクーリエ伯爵令嬢カタリナが姿を現した。
その隣にはただ、カタリナの性別を変えただけかと思うほどそっくりな醜く太ったクーリエ伯爵がいたのだった。