第17話 闇の勇者と支店長の戦い
激しく息をしながら、剣の柄のみを持ってへたり込むアイリーンに、ベレートが話しかける。
「どうする? まだ続ける? ボク的にはもう少しウォーミングアップしたいんだけどね」
「まだまだ!」
「やめておきなさい」
滴り落ちる汗をぬぐうおうともせず立ち上がるアイリーンを止めたのは、意外にもミノタウロスだった。
その鍛え上げられた巨大な肉体は、魔王との会見の時にいたミノタウロスに違いなかった。
その様子にカイルとノアールもアイリーンに駆け寄る。
「なんだよ、バララム。邪魔しないでよ。この子がまだやるって言うんだったら、ボクは付き合うよ」
「支店長はちょっと黙っててください。お嬢さん、はっきり言って、この人は化け物です。もしもあなたが、この人と戦って強くなりたいと考えているなら、やめておいたほうが良い。つぶれるか、逆に変な癖がついて弱くなりますよ。もしも、強くなりたいとお考えなら、私が適切な相手をご紹介します。そちらで訓練を積まれることをお勧めしますが、いかがでしょうか?」
「……わかりました」
その巨躯に似合わず、紳士的で柔らかな言葉に、アイリーンは素直に従った。
そしてあからさまにがっかりするベレート。
「えーこれからどちらかが潰れる寸前まで、やるんじゃなの? まあ、お姉さんが潰れるんだけど」
「だから止めているんです。客人を潰すなと魔王様から言われているのです」
そう言って、紳士のミノタウロスは、やんちゃな猫獣人からアイリーンを守るように闘技場から引き上げさせた。
「あ~なんか、不完全燃焼だったな。まあ良いか。メインディッシュが残ってるから……カイルは最後までやってくれるよね」
そう言って笑ったベレートの目は笑っていなかった。
「カイル。無理しちゃ駄目よ」
「……大丈夫です」
カイルはそう言いながらコンバットスーツを身につける。
「カイルは手加減いらないよね。カイルも手加減する必要ないからね」
ベレートはそう言いながら、ぴょんぴょんと軽くジャンプをする。
「ナビちゃん、フル戦闘サポートをお願い」
『了解です。武器の使用制限はどうしますか?』
「シールドとレーザーブレード、レーザーガンまででお願いします」
「おーい、準備できた? そろそろ、やろうよ」
ベレートは待ちきれないと言う風にカイルに手を振る。
「いつでも良いですよ」
「じゃあ、始めよう!」
その言葉を背中に残し、ベレートがカイルに襲いかかる。
先ほどアイリーンに襲いかかった連撃。
無形の連撃。
ベレートの身体能力と気まぐれさからくり出される拳と蹴り。
ナビちゃんの予想とカイルの反射神経で避けて、受けて、カウンターを繰り出す。
「やっぱり、カイルは面白いね!」
「まだ余裕ですか。それなら!」
カイルはベレートの腕を取ると、投げようと引っ張る。
「手数勝負の次は、力比べかい? いいよ」
ベレートがカイルに対抗して力を込めると同時に、カイルは引っ張られるままにジャンプをして、ベレートの頭上を飛び越える。
「え!?」
ベレートは自分の力を利用されて、ぶん投げられ、壁にぶつけられ土煙が舞い上がる。
「やった! さすがカイル!」
観客席からノアールの歓声が上がる。
しかし、カイルは油断なくレーザーガンを握りしめて、土煙の方を見ていた。
先ほどアイリーンに放たれた炎の玉が複数、カイルに向かって飛んできた。
反射的にシールドで受けるが、あっさりと割れてしまう。
しかし、ベレートは容赦なく炎の玉を放って来た。