第14話 魔王軍諜報部情報収集課人間界係主任の移籍
「おーい、ベレートくん。それくらいにしておこうか。これ以上、部屋を壊されては困るし、もう満足しただろう」
破壊された部屋で涼しげに椅子に座っている少年は、はしゃいでいる猫獣人をいさめた。
その隣にいるライオン獣人は少年を守るように立ち塞がり、両手でガードしていた。
「ねえ、ねえ。ボク、この子が気に入っちゃった。この鎧もなんかかっこいいし、ねえ、ねえ、ボクが貰っちゃって良い?」
「良い訳あるか!」
ノアールがベレートのアゴを蹴り上げる。
それを片手で悠々と受け止めるベレート。
「良い蹴りだけど、それだけじゃボクを倒せないよ」
「倒せるとか倒せないとかじゃ無いのよ。あたしのカイルに手を出した報いを受けてもらうだけよ」
そう言うとノアールは、ベレートに平手打ちをした。
綺麗な大きな音が部屋に響く。
「気持ちのこもった良い一撃だね。痛かったよ……キミも気に入った! 面白いね」
「あたしは大っ嫌い!」
先ほどのカイルの攻撃にも平然としているベレートに、真っ向から文句を言うノアールを見て、カイルはハラハラしていた。
「でも、カイルに目を付けるのは、気に入ったわ。あなた、見る目があるわね」
そう言ってノアールはベレートとがっしり握手する。
それを見て、カイルはコンバットスーツを解除して、床に倒れ込んでいたアイリーンが起きるのを手伝った。
「いや~うちの支店長が悪かったね。何かお詫びをさせていただくよ」
パイモニアは全く悪いと思っていないように、笑いながら提案する。
「いえ、それよりも部屋を壊してしまってすみません」
カイルは逆にぺこりと謝る。
「ちょっと待った。お宅のトカゲ女にもまだ貸しがあるのよ。しっかり、お詫びは貰うわよ。そうね……この子をうちにちょうだい」
そう言ってノアールは猫獣人の手を取る。
「それは困るな~ウチの支店長はあげられないないな~そうだ! ネーラ、この人達と仲が良いのだろう。闇の勇者さんのところに出向しなさい」
「え~」
「え」
「ニャッ!」
パイモニアの提案に、ベレートの手を取っていたノアールが不満の声を上げ、カイルとネーラは驚きの声を上げた。
「ウチで10年も働いているベテランだ。戦闘能力はそれほど無いが、諜報能力は高いぞ。たまにドジだが……ネーラなら、我々との連絡役にも最適だが、どうかな? サラマンディーネ君」
「異論はありません、魔王様」
透明になっていたサラマンディーネが姿を現した。
部下を心配したのか、部下が粗相をしないか心配したのか分からないが、サラマンディーネはどうやら初めからこの部屋に居たようだった。
「いらないわよ、こんな泥棒お漏らし猫は!」
「まあ、まあ、暇なときはボクも遊びに行くから、今のところはこの子で我慢しときなよ」
「……あんたがそう言うなら仕方が無い。この子で我慢しとくわよ」
「あたいの意志は関係ないのかニャ? そうですかニャ」
こうして、ネーラはカイル達に押しつけられ、仲間になったのだった。