第11話 魔王城の少年
ワイバーンは四人を乗せると、ゆっくりと空に舞い上がった。
広く青い空を、まるで泳ぐように飛ぶワイバーン。
あっという間に屋敷を遠くになり、魔王城へ向かうカイル一行。
日が暮れ始めた頃、カイルの目には大きな城が遠くに映り始めた。
「あれが、魔王城だニャ」
ネーラが指さした城は魔王という恐ろしい名前とは裏腹に、白磁で出来たような美しく壮大な城だった。
真ん中に高い塔があり、その左右に一回り小さな塔。その塔同士が繋がっており、美しい意匠を随所に施されている。
その城の周りには城下町が広がり、その外周に城壁があった。ワイバーンはその門の前に降り立った。
「このまま、城壁の中に降りないの?」
「あたいはまだ死にたくないニャ。ああ見えて、対空防御は恐ろしいことになってるニャ」
「へー、良いことを聞いたわ」
「ニャ! 何の事ニャ、嘘のニャ。空から入るのは簡単ニャ」
「ええ、ええ。そうなのね。分かったから、さっさと中に入りましょう」
「また、部長に怒られるニャ~」
泣きそうな顔をしながら、ネーラは門番に所属と社員番号を伝える。カイル達は武器の有無を確認される。
「そこの女騎士さん、武器はここで預かるので渡していただこう。帰りにはお返ししますので」
「な、敵地で丸腰になれと? そんな馬鹿な話があるか!」
「騎士団長、ここはおとなしく従いましょう。大丈夫です。僕がいますから」
アイリーンの剣は、すでにカイルの意志ですぐにカイルの手元に行くことになっている。ならば別にいま、ここで剣を手放しても問題は無いはずだった。
「分かった。丁重に扱ってくれ」
武器を門番に預けたカイル達は、魔王城の城下町へ入ったのだった。
そこは色々な種族が往来する、活気のある町並み。美しいレンガ造りの手入れの行き届いた建物達。ノアール達が暮らすオーデリィ男爵領などよりもよほど都会である。
「王都に負けず劣らない町並みね」
「それはそうだニャ。魔王軍の首都だニャ。魔王軍の都市計画部が日夜頑張ってるニャ」
そう言って、ネーラが先頭に立ち、街の説明を楽しそうにしながら街の大通りを歩いていると、城の入口が見えてきた。
そこには一人の中性的な顔つきの少年がスーツを着て立っていた。
綺麗に短く切りそろえた黒髪からは二本のツノが見えていた。
その特徴から魔力と再生能力に秀でた魔族の少年と推測される。
「ノアール様と闇の勇者カイル様ですね。お待ちしておりました。そちらの方は?」
「護衛のアイリーンです。よろしくお願いします」
ノアールの言葉にアイリーンは黙って頭を下げる。
「そうですか。ではこちらはどうぞ、皆さんお待ちかねです」
そう言って、少年はゆっくりと歩き始め、城の上層部へ四人を案内する。
「魔王都市ジュクへ来られたのは初めてですか? いかがでしたか?」
「活気があって良い街ですね。色々な種族の人達も明るく、良い街ですね。外敵からの守りも強そうですし。住人達が安心して生活しているのが分かります」
カイルは感じたままのことを素直に話した。
「そうですか、ありがとうございます」
「ところで、一つ質問をしていいですか?」
ノアールが少年に話しかけた。
「私で答えられる事であれば」
「魔王という人はどのような人ですか?」
少年は歩みを止めて、考え込む。
「そうですね。これからお三方はお会いになるのですよね。先入観を入れないようにと言われていますので、ご自分の目でご判断ください。ちなみになぜ、皆様は人族なのに、王国を裏切って私たちと手を組もうと思ったのですか?」
「え、簡単よ。あのハゲがカイルを殺そうとしたからよ」
ノアールの即答に少年は驚いた声を上げる。
「え、それだけですか? 何か、こう、政治的理由とか、大義があってとかではないのですか?」
「大事な人を守れない人生なんて何の意味があるのよ。政治的理由も大義も人を生かすための詭弁でしょう。その生かすべき人はあたしの好きな人々なのよ。嫌いな人間を生かすために好きな人を殺してどうするのよ」
ノアールは、何が悪いだと言わんばかりに胸を張って答えた。
それを見た少年は、目を大きく見開いたかと思うと笑い始めた。
「ああ、すみません。思いがけない答えだったので、驚きました。さあ、こちらです」
そう言って、少年は大きな扉を開き、三人を部屋へ案内したのだった。




