第12話 魔王との面談
部屋の中は二~三十人は入れそうな大広間。
そこに六人の男女が座っていた。
扉に近いところから右に水槽に入った女性人魚と男の牛獣人、左に太った男と性別不明の鳥獣人。
俗に言う四天王だろう。
そして眼鏡を掛けたライオン獣人とネーラと同じ猫獣人の合計六人。
ライオンと猫の獣人の間のひときわ大きな椅子が空席になっていた。
そこに魔王が座るのだろうが、まだ来ていないようだった。その両端が魔王の右腕、左腕になるのだろう。
その六人は、カイル達が部屋に入ると一斉に立ち上がった。
その姿にノアールがあいさつする。
「歓迎ありがとうございます。ちなみに魔王様はどなたでしょうか?」
「ここだよ」
後ろにいる魔族の少年の声に、三人は慌てて振り向く。
そこには案内して貰ったそのままの、女性と見間違う中性的な少年が、にっこりと笑っていた。
「改めて、現魔王パイモニアです。どうぞ、お座りください」
そう言って、見た目が少年の魔王パイモニアはゆっくりとライオン獣人と猫獣人の間の席に座った。
「……どういうつもりですか?」
ノアールはパイモニアを睨みつける。
その言葉を聞いて、カイルはいつ、戦闘になって良いように状況を見極めていた。
「どういうつもりとは?」
「言葉のままです。案内役に扮して、わたくしたちに近づいたのはどういうつもりですか?」
「ボクは一言も案内役だとは言わなかったよ。魔王とも名乗らなかったけどね。だいたい、そこのネーラくんの態度を見てれば気がついた事だろう」
街中であれだけ喋っていたネーラがパイモニアと会った途端、借りてきた猫のようにおとなしく、黙っていたのだった。
「ご、ごめんニャ。あたいも魔王様直々に出てくるとは知らなかったニャ」
ネーラはおびえるように、うつむいたまま、ノアールに謝る。
「ふー、まあ良いです。これで、腹の探り合いをして、無駄な時間を費やす必要がなくなったと考えればよろしいのですね。それでは、改めて他の方々にも分かるように、わたくしどもの考えを言わせていただきます。わたくしたちは現国王の理不尽な要求に耐えかね、王国から独立を考えています。そのため、魔王軍にわたくしたちの後ろ盾になっていただけるよう、お願いします」
ノアールは大きく一つ深呼吸をすると、貴族令嬢の顔を取り戻し、自らの要求を話した。
「彼女はそこにいる闇の勇者の命を救うため、王国からの独立をしようとしているそうだよ」
パイモニアはあえて、ノアールが『理不尽な要求』と濁した部分をはっきりと主張した。
施政者としては考えられない判断。
その言葉に四天王と思われる四人がざわざわと話し始めた。
「あ、あのう……ちょっと聞いてよろしいかしら」
長い髪を水に濡れた美しい女性の人魚が恐る恐る手を上げた。
「なんだ、アスデウス。言ってみろ」
パイモニアの許可を得て、アマデウスはもじもじしながらノアールに聞いた。
「あなたたちは……あの、その、どれくらいの付き合いなの?」
「十五年です。生まれてからずっと一緒なので」
「え、あの、そうではなくて、恋人として、ね、お付き合いを……」
「あ、ああ。そう言えば……ねえ、カイル。あたしたち恋人だったっけ?」
「え!?」
ノアールの思いがけない言葉に、思わずアマデウスは尾ひれを跳ねて驚きの声を上げる。
「僕たちは主人と従者です」
「そうよね。でも、立場上、主従関係だけど、カイルはあたしの半身のようなものよ」
「僕にはお嬢様が全てです」
ノアールとカイルはさも当たり前のように、二人の関係を説明する。
「それって、もしかして身分違いの許されざる恋!? 魔王様! 私は断然、この二人を支持しますわ」
「ちょっと待っていただこう、アマデウス殿。あなたの個人的な感情は分かりましたが、これは国対国の話になりますぞ。私どもがお前達の独立を認め、後ろ盾になったとして、我が国にどんな利益があるというのかね?」
興奮する人魚を諭すように太った男が待ったをかけた。
両手には金や宝石の付いた指輪を付けて、いかにも成金のような姿をした男。
鍛え上げられ、引き締まった者達がいるこの場にたった一人、醜く太った男だった。
「その答えの前に、一つお聞きしたい。あなたが魔王軍はなぜ、王国に攻め入っているのでしょうか? 人族への恨みからでしょうか? それにしては、城下町には人族とおぼしき者達も多数いました。そちらの方も人族ではないでしょうか?」
「ああ、そこのべーリアルはあなたたちと同じ人族だよ。ある領地の財務大臣をしていたのだが、あまりにも優秀だったので我が軍の経理部長に引き抜かせていただいた。おっしゃるとおり、ボク達は恨みだけで王国に侵攻しているわけじゃないんだよ」
魔王パイモニアはノアールを値踏みするかのような目で、自分の言葉にノアールがどのように反応するか注視していた。
「やはりそうなのですね。それで理由を教えていただけないでしょうか?」
「簡単な話だよ。我が国の成長のためだよ。ボク達が望んでも、王国側はボク達とまともに貿易をしようとしない。ただの敵対国とみている。何の利益も生まない、ただ敵対行動だけをする国が隣国にあった場合、ボクたちが発展する障害にしかならない。だったらさっさと滅ぼしちゃって、統治した方が楽だろう」
パイモニアはその身体に不釣り合いな大きな椅子に座ったまま、困ったもんだと言わんばかりにため息交じりに魔王軍の状況を説明した。
「分かりました。それで、わたくしたちに、あなたたちと貿易が出来るほど大きな領地を手に入れろと言うのですね」
「そういうことだ。何の利益を生まないことに我々は興味が無い。我々の、お互いの利益について示して貰おう」
べーリアルと呼ばれた太った男が、ノアールにプレゼンをしろと迫った。
「分かりました。しかし、まさかわたくしたちに王国全土を手に入れろとは言いませんよね。そうなれば貴国の後ろ盾など不要となりますから……王国の四大貴族の一つの領地をわたくしたちが手に入れると言うことで如何でしょうか?」
ノアールはネーラから条件を聞いたときから考えていたことを口にする。




