半霊のいる日常
人気の無い、湖畔の邸宅。
しかし、人でない無邪気な者達には、格好の遊び場だった。
「ほら、誰もいないでしょ?」
「ほんとだー、へんなのー」
その時、羽の生えた彼女達の耳に、頭を刺す様な音が。
咄嗟に耳を押さえるが、音は止まない。
むしろ、段々と強くなる。
「何よこれぇ!?」
「もう行こ!」
バタバタと帰っていく妖精達を眺めながら、長女は溜め息をついた。
「全く、何度言ってもあの子達は」
「まあまあ、いつも同じ子とは限らないし、しょうがないじゃん」
トランペットから口を離した次女が笑ってたしなめる。
数日に一度、ここプリズムリバー邸には妖精が訪れ、何か楽しそうな物を探す。妖怪や人間なら様子見をするが、妖精が何かするとろくな事にならないので、三姉妹が必ず排除する。
この繰り返しも、もう長い事続けているが、妖精が学ぶ様子は無い。住人は既に諦めている。
少し落ち着こうとした矢先、建物の外から戦闘音が聞こえた。
明らかに、妖精よりも高度な術の使い手の音。
誰かが表を窺う前に、邸の門が開かれた。
一人? いや、違う、一匹と一人。そうでもない、半人と半匹だ。
この奇妙な気配に、住人全員が来客の正体を知った。
レイラが、ラップ音で誘導する。
四姉妹が見守る中、彼女らのいる部屋の扉が開いた。その前には、緑衣の庭師。
「お久し振りです」
「お久し振り。歓迎するわ。そこの椅子、どうぞ?」
レイラが勧めるまま、一脚の椅子に腰掛ける妖夢。
部屋を見回しながら「変わりませんね、ここは」と言う彼女の目は、本当に好奇心に満ちている様だった。
「変わらない存在が手入れしてるからよ。疲れるんだから。誰も手伝ってくれないし」
「で、今日は何の用で?」
レイラの口が始まりそうな気がしたので、リリカは話を進めた。
「はい。いつもの、定期点検みたいな物です」
妖夢は幽々子に命じられ、定期的に、冥界の外、幽々子の管轄外にいる魂を訪ねて回っている。定期点検とは言っても、実質、ただ訪問して、談笑して帰るだけなのだが。
「じゃあ、私達はライブがあるから。レイラ、お願いね」
「分かったわ。いってらっしゃい」
妖夢に一礼し、ルナサ、メルラン、リリカが邸を後にする。
騒霊三人がいなくなった静かな部屋に、幽霊と半霊。
「紅茶、飲む? セイロンかアールグレイ」
「じゃあ、セイロンを」
レイラはにっこり笑うと、台所へと姿を消した。
部屋の扉が閉まる。
———幽々子様も、中々不思議な事を仰る。
残された妖夢は一人、思考に耽っていた。
『時折、プリズムリバーの邸に向かいなさい。そうして、彼女に、自らの存在を思い出させるのよ』
レイラの目には、妖夢は、ただの監視に見えているのだろうか、それとも、友として映っているのだろうか。確認した事は、まだ無い。
『死後の強い自覚さえあれば、彼女は、その存在を保ち続けるでしょう。もし霊体としての自覚を失えば、力も、実体も失い、そのまま悪霊と化すわ。その時には……』
自らが亡き者だという自覚は、そんなに大事なのだろうか。既に半分死んでいる妖夢には、分からなかった。
再び扉が開いた。その向こうに立つレイラの手には、セイロンティーのポットと、手作りのクッキー。
「お待たせ。今回は、上手に入ったと思うわ。すぐ注ぐね」
「ありがとう」
そう笑う庭師の顔をチラリと窺う幽霊。
彼女とて、妖夢が来る目的は分かっている。監視でない事は明らかだ。彼女と三姉妹が束になってかかれば、妖夢でも制圧は難しい。それが目的ではないだろう。ならば。
そんな仕事じゃなくて、普通に友達として来てくれれば良いのに。そう感じずにはいられないレイラだった。