ご近所さん
古びた、それでいて新築の様な邸。
生気を感じさせないそれは、時から取り残された様だった。
ただ一人、邸の前に立つ、生きた人間を除いて。彼女もまた、時を超越する存在だったのだが。
「失礼するわ」
無駄に響き渡る、ノックの音。
古い造りの扉を、器用に音を立てずに開ける。
得意の空間把握能力で邸の主の居場所を感じ、音も無く階段を上る。
辿り着いたのは、いつもの書斎。
再びノック。
「失礼するわ」
「どうぞ」
読んでいた本を閉じた少女は、揺り椅子から立ち上がった。
「お久しぶり、咲夜」
「久しぶり」
棚に本を戻したレイラは、机の引き出しから便箋とインク、ペンを取り出した。
「紅魔館でライブの依頼?」
さらさらとペンを走らせ、便箋にメモしていく。
「ええ。次の満月の日の午後三時、紅魔館前でお願い出来るかしら」
「観客は? 他にも来るの?」
「ええ。門番の決闘の余興だから」
美鈴はよく、人間の武道家から決闘を申し込まれる。時折レミリアも観戦しているのだが、その際、プリズムリバー三姉妹が呼ばれる事もあるのだ。
「成る程……なら、チケットは要らないわね」
チケット印刷の依頼の為に出した便箋を、再び引き出しに戻す。
プリズムリバー邸には印刷設備は無いので、外注している。
「何曲お望み?」
「二時間分」
「二時間ね…」
更にメモする。
咲夜は、持ってきた小包を机に置いた。
「お代はここに。今回も前払いよ」
ドシャッという、かなりの金額が入っている様な音。
「……前よりも多い?」
時間当たりの金額が、前回の依頼よりも多い。
「お嬢様は、楽団の演奏をとても気に入っておられるわ。美しさには相応の対価を、それがお嬢様の考えよ」
少し多過ぎる、そう思っていたが、メイドは何も口出ししなかった。
「姉達が聞いたら、きっと喜ぶわね。伝えておきましょう」
そっと微笑んで、レイラは顔を上げた。
「三人は、自分の演奏が素晴らしいと、もう知っているでしょう?」
「ふふっ、そうね」
くすくすと笑った直後、急に静かになる二人。
その時二人は、邸の外に、何者かの気配を感じた。
声を潜める。
「……貴方の所のメイドさん?」
「……そうみたいね」
どうやら、メイド妖精達が数名ついて来たらしい。
「全く、あの子達は……」
帰ったら殺す、そう思いつつ、メイド長は溜め息をついた。
「私の用件は終わったのだけれど、そちらは何かある?」
「ええ、まあ」
用と言えば用だが、大した事ではない。少し話せれば、位の事だ。咲夜は忙しいのではと訊こうとしたレイラだったが、
「時間の心配ならしなくて良いわ。いざとなったら、時を止めれば良いもの」
と、咲夜が先に言った。
「お茶、淹れるわね」
笑いながら席を立つ。
慌てる必要の無い彼女達の談笑は、まだまだ続いた。




