96 風呂文化
「すまない。こちらの不手際だよ」
宿に帰るなり、姉ばーちゃんに謝られた。え、なに?
「部屋に忍び込んだヤツらのことだよ」
あ、ああ。そう言えばそんなことありましたね。狩りに意識を持ってかれてたから忘れてたよ。
「そう。町のことはそちらに任せる」
いただくものはいただいた。残りはそちらで処分してください。
「いいのかい? 命を狙われたんだよ?」
「命を狙われるのはいつものこと。いちいち怒ってられない」
無益なケダモノは悪いケダモノ。オレに利益を与えてくれるケダモノは良いケダモノ。ただそれだけよ。
「皆。今日は解散。朝まで自由にしてて」
寝るもよし。酒を飲むのもよし。集まってカードゲーム(前の方がトランプを広めたようで普通に町で売ってました)するもよし。プライベートに口を出さない雇用主です。
オレも部屋へと戻る。
「あ、ボス。同じ部屋で寝ていいかい?」
なんてイビスが言って来た。どうしたよ?
「安全な場所で眠りたい」
「いいの?」
誰かいると寝れないんじゃなかったのか?
「ボスの側が安全だと学んだ」
ん? 学ぶ機会なんてあったっけ?
「好きにしたらいい」
かーちゃんやねーちゃんと一緒に寝て来たし、今もしてるので誰かと一緒でも気にはならないしな。
部屋は二人部屋なのでベッドは空いてる。どっちを──と尋ねようとしたら壁によりかかるイビスちゃん。なんの殺し屋だよ。
「ベッドで寝ればいい。入られるのがイヤなら部屋を隔離空間にするし、リンと同じローブを渡す」
一緒の空間にいるのは気にならないが、銃を持って壁で寝られたら気になってしょうがないよ。
「わ、わかった」
ベッドに上がるのに、なんでそんなにおっかなびっくりなんだよ?
「……ベッドに上がるなんて、何十年振りだろうな……」
どんな暗黒街で育ったんだよ。ゾンビが溢れた世界だってベッドで寝るヤツはあるぞ。いや、映画の知識だけどさ。
「リン。風呂に入って来る。イビスも入る!」
「わたしは体を拭くだけでいい」
「強制はしない。けど、拭くならしっかり拭いたほうがいい。獣臭いから」
こんな時代じゃマシなほうだろうが、文明人としてはあり得ない。前世だったら児童虐待を疑われるレベルだろう。
「……わたし、臭いのか……?」
「ゴブリンよりはマシ」
あいつらメッチャ臭い。あれと同じなら強制的に風呂に放り込んでるわ。
「……アレと比べられても……」
「じゃあ、家畜と同じくらい臭い」
で、どうよ?
「……風呂に入る……」
どうやらダメだったらしい。表現を抑えたのにな。
なんにせよイビスの臭いが消えるのならなんでもいいと、風呂へと向かった。
「いまさらだが、この文化レベルで風呂があるって変じゃないか? ローマ時代ならまだしも近世まで風呂の文化などなかったのに」
別にないワケではないし、前世と比べてもしょうがないが、普通なら風呂の文化など生まれなかっただろうな。
「おそらく、リンたちの前に神によってこの世界に送られた者が広めたと思う」
「いるのか!?」
「少なくとも一人はいる。別の大陸に帝国を築いて、この大陸にもたくさんの文化が渡って来てる」
オレたちと同じく百人送り込まれて一人しか生き残れないとかだったら泣きたくなるけどな。せめて十人は生き残ってて欲しい。未来に希望を持ちたいからよ。
……いやまあ、だからって絶望はしてないけどね……。
風呂へといくと、娼婦のおねーさん方が立ちはだかっていた。なによ?
「一緒に入りましょう」
なんで? 娼館にも風呂があるでしょうに。ダリアンナーーコリエットには風呂があったし。
「仕事は?」
「休みよ」
そうですか。まあ、休みなら好きにしてくださいな。
「イビス、どうする?」
「入る」
入るかい。ってか、おねーさん方が入るからって理由じゃないだろうな? ジト目で見ると視線を逸らした。
……お前ぇ……。
前世の記憶があるが、男としての欲情は薄い。つーか、女としての欲情もありません。なので、ボンなキューでボンなおねーさんの裸を見てもなんも嬉しくもない。あるのはこの世界の女、無駄に胸デケーな、くらい。
だが、イビスには興味があるものらしく、オレを壁にしておねーさん方を覗いていた。
……そっち方面に走ってオレを襲わないでくれよ……。
「イビス。さっさと脱ぐ」
いつまで見てんだよ。見たけりゃ自分の……見てもおもしろくはないか。ペッタンだしな。
ローブ、上着、短パン、レギンス、下着をパッパッと脱いだ。
「綺麗な肌してるわね」
「髪も綺麗だわ」
裸になったらおねーさん方に囲まれてしまった。な、なんやねん!?
「子どもだから、じゃないわ」
「ええ。これは日頃の手入れが成せるものよ」
「しかも、いい匂いがする。カチョウランの香りに似てるわ」
や、止めろや! オレはオモチャじゃないわ!
「……う、羨ましい……」
羨ましがってないで助けろや! ちょ、いやん! 変なところ触らないで~~っ!




