94 角猪
やって来たのは黒いアイパッチをした初老の男がいた。
体格、目つき、雰囲気から元傭兵だろう。小さい子ならマッハで泣き出すぞ。
「グランディール傭兵団の代表、リン。よろしく」
オレ、ちゃんと挨拶できる七歳児です。あなたはちゃんと挨拶できるお歳かな?
「……わたしは、傭兵会館の館長、ハイルだ。歓迎する」
なにかを察したのか、出そうになった言葉を飲み込んで挨拶を返してくれた。
「部屋で話そう。他は会議室で待機しててくれ」
「おっちゃんとロッシュニーはついて来て。残りはしっかり休んでて」
特にイビスはしっかり休んでおきなさいよ。話がついたら狩りにいくんだからさ。
そう目で言いつけると、イビスは肩を竦めて答えた。
そんでもって連れて来られたのは応接間的なところで、中には三十前後の男と先ほどのおねーさんがいた。
「座ってくれ」
と言うのでオレとおっちゃんが座る。ロッシュニーはオレの背後で立ってます。
「角猪を狩りたい。許可ちょうだい」
単刀直入にお願いする。別に話すこともないしな。
「グランディール傭兵団としての仕事がしたいと言うことか?」
「仕事になるなら仕事としてやる。けど、グランディール傭兵団としては肉確保が主。肉を渡すことはできない」
駆除したらお金がいただけるのなら受けたいが、狩った証拠として肉を渡せと言うのは了承できない。オレは肉が欲しいんだよ。
「肉が欲しいと言うなら持ってっても構わないし、狩った証に体の一部を持って来れば一匹につき銀貨四枚を払おう」
「それで町としての利益はある?」
「傭兵としては仕事がなくなるのは痛いが、町としては被害がなくなることが得だ。余計な出費を出さなくていいんだからな」
まあ、そうだと言えばそうだろうが、いかにもお役所仕事って感じだな。角猪を活かそうとしないんだからよ。
「なら、仕事として受ける。ただ、狩り尽くす勢いでやるけど、構わない?」
角猪が邪神の揺り籠から生まれたものなら邪神の揺り籠も狩る。これまでのことからして大量発生したときは邪神の揺り籠がある、と思う。
「……狩り尽くすか。素早いぞ、角猪は……」
「問題ない。その方法はあるから」
イビスだけじゃなくエルフたちも負けてないからな。神の与えし武器パネー!
「そ、そうか。まあ、そちらのやり方に文句を言うつもりはない。が、なるべく穏便に、被害を出さないように頼むぞ」
ヤダ。狩りをするだけじゃない。なにを心配してるのよ。精々畑が荒れるくらいじゃない。
「挽肉はいらない。肉のまま持って帰る」
「あ、ああ。是非ともそうしてくれ。マルレインをつけるのでなにかあれば彼女に言ってくれ」
おや。おねーさんをつけてくれるの。悪いね。
「感謝する。これはお礼」
アイテムボックスからベリーから作ったブランデーをテーブルに置いた。
「おねーさん、よろしく」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
表情からなにも読み取れないが、雰囲気からはやや不満の色が見て取れた。
まあ、亜人の傭兵団に、しかも七歳児につけとか不本意マックスだろうよ。
「角猪を狩るための拠点が欲しい。どこかない?」
さすがに宿から通うのも大変だし、解体するなら町の外のほうがいい。まあ、解体は帰ってからでもいいんだけどね。
「カルフェ地区に広場があります。そこなら拠点によろしいかと思います」
と言うのでそこへいってみることにする。ってか、その格好でいくの、おねーさんや?
「身を守れる術はあるのでご心配なく」
オレの視線におねーさんがそう口にした。
そうなんだ。人は見かけによらないもんだ。って、オレが言うセリフではありませんね。失礼。
ロッシュニーに皆を呼んでもらい、おねーさんを先頭にカルフェ地区とやらに向かった。
町から出て三十分くらい。林の中に広場があった。
「ここはなんのためにあるの?」
「傭兵団の集結地として使われてます」
あ、カイヘンベルクもそんな感じだったな。なんか都合のいい場所にあるな~とは思ってたんだよ。
「自由に使っていい?」
「構いません。ただ、火には注意してください。薪の保管所があるので」
へ~。ちゃんと備えてるんだ。ベルホンの為政者は優秀なのかな?
「わかった。ロッシュニー。野営の準備をして」
「ボス。周辺の探索に出たい。構わないか?」
「構わない。角猪いたら狩って来て。どんなか見てみたいから」
「イエッサー、ボス」
さて。オレは万能偵察ポッドを四十個放ち、周辺地図を製作する。
完成する間に竈を二つ創り、いつでも食べれるように野菜たっぷりのシチューとお肉たっぷりのシチューを煮込み、作り置きのマッシュポテトをアイテムボックスから出す。
いい感じに煮込まれたので、ちょっと早いがお昼とするか。
「おねーさん、野菜シチューと肉シチュー、どっちがいい?」
所在なさげに立つおねーさんに尋ねる。
「……肉シチューで……」
肉食系ですね。食べられないよう注意しないと。キャッ。
「皆。お昼にしよう」
ハーイと元気よく返事をする皆さん。美味しい料理は人を童心に変えるのだ。
皿を持って並ぶ皆に野菜シチューを盛ってやり、これから頑張ってもらうためにワインもつけてやる。
……エルフって酒豪なんだよね。見た目からわからないけど……。
「いただきます」
オレの号令で昼飯開始。あ、おねーさんもワイン飲む?
「え、ええ。いただくわ……」
おっ。おねーさんイケる口だね。オレが大人になったら一緒に飲もうよ。
なんてピクニックでもしてるかのように昼を過ごした。




