80 リン・ザ・インパクト
カイヘンベルクから死霊が溢れた──と言うより攻勢に出た、のほうが正しいと思う。
リリーは邪神の揺り籠を駒と言った。なら、邪神によって動かされると言うこと。その場に止まることはないからだ。
「ジェス。指揮は任せる。自分の思うままにやってみて。補佐はするから」
個の英雄ではなく集団の英雄になってもらうのだ、指揮力を上げてもらわなくては困る。艱難辛苦を乗り越えて万を率いる英雄となれ、だ。
「わかりました! 皆、グランディール傭兵団の力を見せつけるぞ!」
おおっ! 二十数名が応え、死霊の群れへと突っ込んでいった。
今回も武器は水鉄砲。締まらないとは言わないでね。まだ切り札を見せるときではないんだからさ。
「リン! あたしは倒していいんだよね!」
「いい。好きにして」
新たに創った暴食の剣──ではなく聖なる剣で呪いを吸い取ってもらいます。
ねーちゃんは好きにさせておくのが一番。目立ってくれたらオレへの目が少なくなってくれる……といいな~くらいの気持ちです。これからやることはどんなもんだしな……。
ただの死体となった野望の糧をチマチマとアイテムボックスへと回収する光景は、どんな風に見えるだろうな。
なんて気にしてもしょうがない。どう解釈されようが良い方向に持っていくだけ。今は目の前に集中するだけだ。
「リン。他の傭兵団が混乱してるわよ。このままだと崩壊するんじゃない?」
ったく。回収に集中もさせてくれんのかよ。役立たずどもが。
「ジェス。他の傭兵団がヘタってる。いつ崩れるかわからない。ダメと思ったら奥の手を出して」
と、無双するジェスにつけてる万能偵察ポッドに声を飛ばした。
「わかりました!」
ねーちゃんは……いいか。ジェス以上に無双してるしな。
「死霊が溢れたのは西門だけ?」
カイヘンベルク内にいる者たち(万能偵察ポッド通信です)に尋ねる。
「東門です。死霊は出てません」
「南門だ。死霊はいない」
「北門、出ていない」
西門だけか。確実に狙われてるな。
まあ、西門側に陣取ってるから当然と言えば当然だが、人がいるほうがわかるってことか。呪いにそんな機能があるのか?
「ジェス。三十秒後に極大爆発魔法を門前に放つ。注意して」
西門からワラワラと出て来る死霊ども。無駄に出て来るんじゃないよ。その肉一欠片までオレのためになるんだからよ!
西門まで二百メートルあるが、あの爆発なら充分な距離だ。まあ、二百メートル先まで飛ばすのがちょっと大変だけど、そこは魔力任せでぶっ飛ばします!
この極大爆発魔法は発動まで時間がかかるだよ、って感じに両手を真上に掲げる。誰がどこで見てるかわからないからね。
ゆっくり三十秒かけて紅蓮の炎を大きくさせ、一メートルくらいの球にする。
エク……はなんか倫理的にアカン気がするので、リン・ザ・インパクトにするか。これと言って拘りないし。
「リン・ザ・インパクトー!」
で、紅蓮の球を撃ち出す。
時速にしたら百キロ? な感じで二百メートルを翔る。
西門の横、壁に激突。極大な爆発が起こる。
あ、ヤベー。極大すぎた。
と思った時にはすでにお寿司。ものの見事に吹き飛ばされました。
……オレ、魔法の才能ないのかな……?
何十メートルも吹き飛ばされたが、防御力絶大なローブのお陰でかすり傷一つナッシング。でも、目が回ったわ~。
「ふぅ~。もっと攻撃魔法の練習せんといかんな」
雑なレベルアップだから加減がわからんわ。
「シルバー。生きてるか?」
探すと、土まみれなシルバーがこちらへとやって来た。
「ガウ~。ガウガウ!」
ハイ、ごめんなさい。気をつけます。
「あ、ジェスたちは大丈夫かな?」
オレらより前にいたから酷いことに……はなってないようだ。
シルバーと同じく土まみれながらケガした者はいない。さすがオレが創ったスーツです。
「ガウガウ?」
「ん? リリーは、だって?」
辺りを見回すと……いませんね。リリー、軽いしね。そりゃ飛んでいきますわね。
「まあ、大丈夫だろう。オレと同じローブ着てるし」
仮にも守護天使。あのくらいでは死なんやろ。死んだらそれまでの天使ってことよ。
「ガウゥ~」
鬼や~、とか失礼な。オレはちっぽけなただの人間さ。ふっ。
「そんなことより死霊だよ」
>っと千里眼で見回す。
「……倒れてるな……」
イオ〇ズンのときも思ったが、もしかして神の力には邪神の力を打ち消す力があるのか?
神や邪神にかんすることは鑑定できない。推察でしかないが、これはあると見るべきだろう。なら呪霊にも効くってことだ。機会があれば検証しておこう。
「リン様! 無事ですか?」
「無事。問題ない。ジェスたちも問題ないなら死体を回収して。ビジューナーになられたら厄介」
「わかりました。皆、やるぞ」
ジェスたちを見送り、他の傭兵団がどうなったかを確認しに向かった。




