78 時間稼ぎ
イビスが案内役と合流したのを見届けたら、意識を本体に戻した。
「……ふぅ~。疲れた……」
汚い仕事を押しつけると言うのは気が滅入るぜ。
「リンにも良心があるのね」
「人を悪魔みたいに言うな。良心くらい持ってるわ」
ただ、必要なら冷徹にはなれるだけだ。
「それよりねーちゃんは?」
意識を移す前はいたはずだが。
「暇だからって狩りに出かけたわ。何人か連れて」
じっとしてられるのは魔力を込めるときだけか。忙しないねーちゃんだ。
「あ、おじいちゃんの使いが来て聖水を四樽持ってたわよ」
「なにか言ってたか?」
「急いでもらえると助かります、だってさ」
まあ、呪いにかかってるかもと思えばじっとはしてられないか。暴動にならないだけマシだ。
「じゃあ、ちょっと急いでやるか」
「わたしが、でしょう」
ハイ。よろしくお願いします。
リリーだけに働かすほどオレも非道ではない。オレも手のひらの創造魔法をフル稼働させて食料を創ります。
バルガドの町にどのくらいいるかわからんが、二百から三百はいると仮定して、あれやこれやと考えるとまったく追いつかない答えが出ました。
「どう言う計算よ」
あれやこれやだよ。訊くな。
獣人もイモが主食ならなんとかなるのだが、肉食だから魔力の消費が激しいのだ。
まあ、イモや穀物が食えないワケじゃないが、体を十全に活かそうとしたら肉がいいって感じなのだ。
それでもやらなければ胃は満たされない。リンちゃん頑張れ、だ。
創って創って創りまくる。集中力が切れた頃、辺りはすっかり暗くなり、テントの外から篝火の明かりが見えた。
「リリー。具合はどう?」
「足りないって感じみたいよ。外で運び人が焚き火を囲んで待ってるわ」
「何樽コピーしたん?」
「八樽よ」
少ないと思うのは貴重なものだど知らしめるため。安売りはしないのです。ちなみに樽は二百リットルくらいです。
「しかし、八樽もコピーしたら間に合うと思うんだがな? やはり横流ししてるのかな?」
横流しは織り込み済み。なので聖水には消費期間を設けさせてもらいました。聞いてないと文句を言われても知りません。この世に劣化しないものはないのだ。効果が消えないと思うほうが悪いのです。
「まっ、ここにいる分はコピーしたんだから明日は休みにするか」
「コピーしなくていいの!」
嬉しそうなリリーちゃん。そんなにコピーするのがイヤかい。
「イヤになるくらいコピーさせられてるんだからイヤになるでしょうが!」
あ、はい。すみません……。
リリーちゃんが怒るのでコピーは終了。必要分はコピーしたので終了させていただきます。運び人さんたち、今日で聖水屋は閉店だ。帰った帰った。
ハァ~。オレも休むか。働きすぎはよくないしな。
クッションに埋もれ、この世界に来て初めての安息を──。
「──リン様。グリュー殿が会いたいそうです」
……うん。知ってた。希望を言ったまでですよ……。
「入って」
クッションに埋もれたまま迎え入れる。
「すまない。休んでいるところを」
「……なに?」
すまないと思ってんなら来るな、と嫌味が出そうになるのをグッと我慢する。
「聖水のことなんだが……」
「間に合う分は用意した。約束は守った」
いくつとは約束してないが、そちらもいくつと言ってない。信頼関係のもとの約束だ。
「そ、そうなのだが、各都市からの要請が多くて断り切れないんだよ」
「リンには関係ない。リン、じーちゃんの期待には答えた」
こちらは約束を守ったことを主張し、認めさせる。のだが、雇い主様もバカではない。謝罪をしようとはしなかった。
どうしようかと悩む雇い主様に構わず、オレはクッションに埋もれ続ける。疲れて動けないとばかりにな。
「お邪魔するよ」
雇い主様が沈黙して数分くらい過ぎると、じーちゃんがやって来た。ハイ、どうぞ。
「……お爺様、すみません……」
「まあ、こうなるだろうとは思ったよ」
さすがじーちゃん。予想はしてたか。だったら解決策も用意してるんだろう?
「では、なぜ教えてくれなかったんですか!」
「お前に教えるためだ。お前がいいように使われるとな」
ふふ。年の功はおっかねーや。
「お前さんが望んでるのは時間稼ぎじゃろう」
ハ~イ、正~解~。
「時間稼ぎ。ですか?」
「そこに誰もいない町がある。富がある。このお嬢ちゃんが放っておくワケがなかろう。傭兵団を維持するにはなにかと金がかかるからのぉ」
「……だから偵察を引き受けたんですね……」
「死んだと称して富漁り。だが、数人ばかりでは大した量は集められない。故に時間を稼ぐために聖水を絞っとるんじゃろうよ」
ハ~イ、またまた正~解~。
「あと、ついでに各都市から絞り取ろうともしとるじゃろ?」
「魔石があればまだ頑張れる」
お金でも頑張れるよ。
「何日あればよい?」
「魔石次第」
ハァ~とため息をつくじーちゃん。もうバレてるなら時間じゃ靡かないよ。
「六日で許してくれるか? カイヘンベルクの情報を渡すんでな」
ムクッとクッションから起き上がる。
「やる気が出た」
「……まったく、現金な娘じゃよ……」
ハイ。現金(燃料)があればリンちゃんは頑張れるのです!




