75 シンプル・イズ・ベスト
「──ただ、お前さんたちのことで文句を言っている者がおる」
「そう。どこかに捨てておいて」
問題なら丁寧に対処するが、文句なら聞くに値しない。不法投棄しないで捨ててくれればいいよ。
「いや、そうも捨ておけんのだよ」
「リンには関係ない。町の外の者。町の法には縛られない。縛ると言うならグランディール傭兵団の仕事はこれまで。あとはそちらで勝手にすればいい」
できるのならやるがいい。とばかりにじーちゃんを見る。
「いや、まだ依頼の途中だよ。破ることになるが?」
雇い主様が追従するが鼻で笑ってやる。
「違約金を求めるのならいくらでもどうぞ。どうせ皆死ぬ。死んだあとに取りに来ればリンの懐は痛まない。それどころか懐が膨れ上がる」
誰もいなくなるが、金や物資は残る。オレにしたら感涙するくらいの幸せな未来だぜ。
「リンを、グランディール傭兵団を敵にすると言うことはそう言うこと。敵に慈悲をかけてやる必要はない」
ハイ。恐喝です。脅しです。恫喝です。お好きなのを選んでください。オレは否定しませんから。
「リンは誠意には誠意で答える。人との約束は守る。でも、ケダモノには暴力で答える。だって話が通じないんだもの」
人でないものにかける慈悲など一ミクロンもない。いや、無慈悲をくれてやるよ。
「じーちゃんはどっち? 人? ケダモノ?」
これまで人として接して来た。人としての行動をして来たから。もし、違っていたら──。
「──人じゃよ! まごう事なき人じゃ!」
冷や汗をかきながら人であることを宣言してくれた。うん。オレの目に狂いはなくてなによりだ。
「あなたは人? それともケダモノ?」
雇い主様にも尋ねる、言葉にして訊くって大事だからね。
「……も、もちろん、人だよ……」
ぎこちないながらも人宣言。うんうん。ケダモノじゃなくてなによりだ。
「リン。人は好き。だから人の味方」
カップを出し、そこに呪いをよせつけない聖なる水を注いだ。
「カイヘンベルクを放置すれば呪いは溢れる。ううん。もう溢れ、ここにも届いているかも。抵抗力のあるリンたちにはわからないけど、明日になればわかるかもしれないね」
勧める前にカップへと手を伸ばし、聖なる水をいっきに飲み干してしまった。せっかちさんなんだからぁ~。
「こ、これは、まだあるのか?」
「うん。あるよ」
優しく笑うと、引きつった顔を見せるじーちゃん。どうしたのかな?
「……ゆず──いや、売ってもらえるかの? なるべくたくさん」
う~んと困った顔を見せる。
「……ダ、ダメかのぉ……?」
「ううん。ダメじゃない。ただ、たくさんとなると時間がかかる。邪魔されたり酷いこと言われたら気が散ってもっと時間がかかるかもしれない」
だってリン、繊細だしぃ~。悪口とか言われたらやる気とかなくしちゃうかもしんないなぁ~。
「……うぐぐ……」
ヤダ。じーちゃんったらどうしたの? そんなに歯を食いしばったりして。もう歳なんだから歯は大切にしないといけないよ。
「……うっ、あっ……」
なにかを言いかけて、無理矢理飲み込むじーちゃん。
フフ。さぞや罵詈雑言を吐きたいことだろう。吐きたいなら吐いてもいいんだぜ。これまでの関係を終わらせたいのならな。
なんて、調子に乗るのはこのくらいにしておくか。大事なビジネスパートナーなんだからよ。
「四日で創る。けど、じーちゃんが急げと言うなら二日で創る。それをどう活かすかはじーちゃん次第。恩でも裏取引でも好きにしたらいい」
政治的材料と使うなり、味方を増やすために使うなり、そこはじーちゃんに任せるよ。二日もいただければ物資回収も捗るだろうからな。ムヒヒ。
「まずは在庫で四樽渡す。呪いは人の憎悪を糧とする。心穏やかに、こまめに聖水で身を清めて」
じーちゃんの手腕をオレに見せてくれ!
「……まったく、わしはとんでもない者とかかわってしまったよ……」
呪詛、ではなく、苦笑いを浮かべて天を仰ぐじーちゃん。
利用しようとしたら利用されていた、なんてよくあること。恥じる必要はないさ。持ちつ持たれつ、と考えれば心は軽くなるもんさ。
「リンが幸せなならじーちゃんも幸せ。じーちゃんが幸せならリンも幸せ。難しく考えない。お互いが幸せになればいいだけ」
不毛な戦いはケダモノどもにやらせればいいの。人ならば幸せになるために戦え、だ。
「……そう、じゃな。難しく考えすぎか」
そうそう。難しく考えるから人は間違うのだ。
シンプル・イズ・ベスト。難しいことを引いていけば大事なものだけが残るもんさ。
「リンはじーちゃんのために頑張る」
「では、わしはお前さんのために頑張るとしようか」
ニヤリと笑い合うオレら。それを不可解な目で見る雇い主様とリリー。幸せを求める人はときとして神をも凌駕するのだ。




