41 ネイリー
ハイ、テイクツー!
今日、オレは町にいく!
あ、いけね。町にいくじゃなく町に出ますだった!
なんて茶番をやっても突っ込んでくれる人はなし。急募、リンちゃんの相方を募集してます。我こそはと言う方は異世界ウェルヴィーアに転生してください!
さて。呼びかけに答えてくれる勇者が転生して来てくれるまでは自力でなんとかしますかね。
家から出ると、ジェスとその仲間たちがいた。おはよーさん。どったの?
「出かけるのか?」
「うん。町に」
正しくは娼館に、だけど。
「そうか。すぐ帰って来るのか?」
「わかんない」
先の見えない人生を歩んでるもので。
「なに?」
「もし良ければ、衣服を買って来て欲しいのだ。おれたちが町にいくといい顔されないのでな」
衣服? あ、ああ。だから君たち毛皮ルックなのね。民族的なものじゃなかったんだ。
「ネイリーついて来て」
約束はできんが、ばーちゃんに訊くだけは訊いてやろう。娼館なら古着くらいあるだろう。
「ネイリー。頼むぞ」
「わかった」
なにか重要なミッションでも与えられたかの様にネイリーが堅い表情で頷いてる。なによ、いったい?
まあ、なんでもいいと、ネイリーを連れて町へと出かけた。
町まで来ると、ばーちゃんといつも来る護衛兼荷物持ちのが立っていた。どうした?
「熊が来てると大変だからな」
いきなりシルバーに乗って町に入るほど非常識じゃないよ。胸張って言えないから黙ってるけど!
「そう」
何度も顔を合わせているが、おしゃべりするほど仲も良くないので娼館へと向かった。
娼館につくと洗濯していた少女がオレたちの存在に気がつき、知らせのために中へと駆けていった。
「こっちだ」
と、案内されて通された場所は、昨日と同じ部屋だった。
「……ね、ねえ、リン。わたしもいていいの……?」
「知らない」
少なくともダメだって言わないんだから構わんだろう。寄生虫にやられてから清潔にしてるし、オレと一緒なら文句は言わんだろう。イヤな顔はされるかもしれんけど。
しばらくしてばーちゃんがやって来た。なんだかやつれてね?
「良く来たね」
「顔色悪い」
「まあ、ねぇ。昨日のが効いてね、鎮めるのに苦労したよ」
深くは聞かんけど、お疲れ様です。さらに追い打ちをかける様で申し訳ないが、やると約束したのでクリームを渡した。
「……ありがとよ……」
受け取りたくはないが、受け取らざるを得ない。大変な立場にいるんだね。ご苦労様です。
「組合のこと教えて。あと、古着売って」
それを訊くのに二日もかかるとか、世界はオレを憎んでるのかと思う。
「あ、ああ。そうだったね。熊のことはなこっちで登録しておいたよ。ただ、いきなり熊に乗って町に出ることは止めておきな。騒ぎになる。まずは裏町で慣れさせたほうがいい」
まあ、確かに三メートルもある熊が町を闊歩したら騒ぎになるわな。オレだって町に見知らぬ熊がいたらびっくりするわ。
「町にいくときはうちに預けな。代わりにうちのもんをつけるから」
ばーちゃんの思惑は透けて見えるが、町の有力者がついてくれればこちらの利にもなる。無益に搦まれたり、見下されたりするのも面倒臭いしな。
「わかった」
「それで、古着だったかい?」
と、落ち着きのないネイリーを睨む様に見るばーちゃん。止めてあげなよ。ただでさえ眼力があるんだからさ。
「あるなら欲しい。ないのなら諦める」
無理にとは言わない。町になら古着屋くらいあるだろうからな。
オレの思惑を探る様な目を向けて来る。別に意図はないんだけど。でもまあ、意図はあったほうがばーちゃんも楽だろう。無償の愛とかより打算の愛のほうを信じてそうだし。
「薪」
「ぅえ、な、なんだい? 薪がどうしたんだい?」
「不足してない?」
この時代に風呂があるのは助かるが、その風呂は薪で湯を沸かす。
邪神の侵略で魔物が犇めく世界では薪を集めるのも一苦労なはずだ。
もちろん、町の周辺に樵を生業としてる者はいるが、魔物の被害で減っているはず。仮になくても他からの需要があったりと、薪の値段は上がってるはずだ。かーちゃんが薪代が高くなったと漏らしていたからな。
「……あんたの目はほんと恐いよ……」
こんな愛くるしいお目々が恐いとか失礼な。ってまあ、青い瞳とか違和感しかないがな……。
「樵にも組合はあるんだよ」
だろうね。既得権益は世の常だし。
「それは町の組合。こちらは獣人たちの組合。関係ない」
なんてことはないが、文句があるなら聞くし、仲良くやろうと言うなら仲良くやればいいし、許せないと力で来るなら力で受けるまで。少なくともオレには関係ない話だ。
「ダメなら物物交換にすればいい」
やり様はある。誤魔化し様もある。それが人の悪知恵だ。
「獣人たちに恩を売っておくべき」
転生者たちが動けば邪神もまた動くはず。世が乱れれば強いヤツを味方にしておくことは自分を守ることに繋がる。
「……な、なぜだい……?」
「生きてればそのうちわかる」
それまでばーちゃんが生きてれば、の話だけどよ。まあ、このばーちゃんなら五十年どころか余裕で百年は生きそうだな。
「するしないはばーちゃん次第」
乗っかれば利用させてもらうし、乗っからないのなら別の方法を取るまで。選択肢はたくさん用意しておかないと生きていけないからな。
「あんた名は?」
鋭い視線をネイリーに向ける。
「ネ、ネイリーです!」
「毎日薪を持って来な。欲しいものと交換してやるよ」
このばーちゃん、がめついところはあるが、商売相手としては信用できる。仲良くなって損はない。と、ネイリーを見る。
「わ、わかりました。明日にでも持って来ます」
ハイ。今日の用事終了。帰るか。




