40 マーレ
「──早まるんじゃないよ!」
と、間髪を容れずにばーちゃんが飛び込んで来た。なんや!?
「アホかい! この子のことはわたしに任せろと言っただろうか! 死にたいのかい!」
ジジイを叱るババア。なんやの、ほんと?
「いや、挨拶だけでもと……」
「そう言うのがダメなんだよ! いいから下がってな!」
スゴい剣幕で追い出されるジジイ。哀れすぎる。
「ったく。すまないね、驚かせちまって」
まったくだ。驚いたのはあんたに、だけどよ。
「今のはここの主だ」
それを怒鳴りつけるあなたは何者なんですか? そっちのほうが気になるわ。
「そう」
ばーちゃんの怒鳴りがスゴすぎて興味も涌いて来ないよ。
「まあ、いいや。よく来たね。今、お茶を出すよ」
お構いなく。なんて日本的なことを言っても通じないのでうんと頷いておく。
「失礼します」
と、開け放たれたドアからそれなりに着飾った十三、四の少女が盆にお茶を載せて現れた。
「ありがとう」
礼を言ってお茶をいただく。ササのお茶じゃないな? 微かに甘い。なんやろ?
「マイロってお茶だよ。隣の国でよく飲まれてるものさ」
隣の国か。そりゃあるんだろうが、生きるのに必死で考えもしなかったわ。
「口に合ったかい?」
「まあまあ」
飲み慣れてないからかもしれんが、あれば飲むくらいのものかな? 一時を楽しむならササ茶のほうがいいな。
「まずはお前さんの話を聞こうじゃないか。なんだい?」
カップを戻したところでばーちゃんが聞いて来た。
「シルバーの登録。教えて」
報酬にベリーワイン(小樽)をどうぞ。アイテムボックス内で熟成させたもんだよ。オレはまだ飲めないので味は知らんけど。
「前に言ってたアレかい」
「うん。ベリーワイン。飲んで」
あと、感想をいただければ今後の製作に役立てることができると思うので、よろしくお願いいたします。
「今、飲んでもいいかい?」
ハイ、どうぞどうぞ。
テーブルに置かれた呼び鈴を鳴らすと、先ほどの少女がやって来た。
「マーレを呼んでおくれ」
はいと返事して下がった。マーレって誰や?
「うちの娼婦で一番の酒利きだよ。酒はそいつに任せているのさ」
娼婦にもそんな特技の持ち主がいるんだ。ただ体を売るだけじゃないのかな?
で、やって来たのは黒髪のおねーさんだった。
黒髪とは珍しい。ここら辺の人じゃないな。麻色が多いし。まあ、歳を取ると白髪になるみたいだけど。
ちなみに、オレの髪はピンク。それも濃いピンク。ねーちゃんやかーちゃんは薄いピンクなのに。この髪色、マジで勘弁だわ。
……髪の色変えたいけど、いきなり変わるのも不味いので今は我慢です……。
「これがマーレだ。マーレ。こっちはリンだ」
「へ~。この子がミレンの子なんだ。可愛い子じゃない」
オレの横に座り、やたらと触れて来るおねーさん。
なんだろうな。男の記憶があるのになぜかそんなに嬉しくない。と言うか化粧の臭いがキツい。体に悪いもの使ってんじゃないのか?
「化粧、臭い。変なもの混ざってる」
>っと鑑定したら軽い毒がある白粉をつけていた。よくこれで肌荒れとかしないな? 仕事のときだけつけてんのか?
「本当かい!?」
「軽い毒。ずっとつけてると肌を悪くする」
今まで気がつかなかったのか? 肌は商売道具だろうに。
「マーレ! 皆を叩き起こして来な!」
「わかったわ!」
なにやら大惨事な予感。だが、逃れられる空気ではない。なので流されま~す。
「リン。悪いね。あとで報酬を出すから売り子たちを見ておくれ」
まあ、報酬がいただけるのならオレに異存はありませぬ。ばーちゃんとは仲良くやっていきたいしな。
で、集められたおねーさんたちは二十八人。結構いるんだね。大店なのか?
「魔石ないと無理」
魔力量は少なく見せておきたいし、技術料と材料費は別途でお願いしますぜ、ばーちゃん。
「ジム。ジム! 来ておくれ!」
と、呼ばれて来たのは先ほどのジジイ。主じゃなかったっけ? 扱い酷くないか?
「なんじゃい、大声出しおって?」
「魔石だよ。急いで集めておいで。早く!」
蹴り飛ばされるジジイ。ガンバレ。強く生きろよ。あとで酒でもプレゼントするからよ……。
「来るまで二人は見れる」
「マーレは風呂に入って来て化粧を落としな。フィオ。見てもらいな」
なにか一番よい寝間着を羽織ったおねーさんがオレの前に来た。
「内締め。なんなのよいったい? この子はなんなの?」
説明はばーちゃんに任せて>っと鑑定。
「肌はいい。もしかして、かーちゃんのクリーム使ってる?」
やけに肌艶がいい。まるで魔法がかかってる様に。
「かーちゃん? もしかしてミレンの娘かい?」
「そう。リン」
やはりかーちゃんと繋がりある人か。あ、娼館に友達がいるとか言ってたな。このおねーさんか?
「どう言うことだい、フィオ? なんかミレンにもらってたのかい?」
「恐い顔しないでよ。ただ、肌にいいって言うクリームを分けてもらっただけよ」
宿屋の仕事がハードじゃなくて分けてたから消費が早かったのか。
「バカたれ! そう言うことも報告するんだよ! 道理で肌が綺麗だと思ったらそんなわけかい!」
「フィオずるい! やっぱりなんかしてたんじゃない!」
「なにもしてないわけないと思ったわ!」
ちょっと、子どもの前で女の諍いとか止めて欲しいんですけど。
「お止め!」
ばーちゃんの一喝で急速鎮火。アレはないけど股間がキュッとするわ~。
「リン。そのクリームは売ってもらえるのかい?」
「ある分なら」
そんな大量に使うもんじゃないから、四つか五つくらいしかなかった様な気がする。
「作ることはできるのかい?」
「無理。材料がない。春と秋に生るもの必要」
手のひらの創造魔法を使えば創れるが、美容関係は小出しにしたほうがいい。大量に創ると厄介なことになるからな。
「そんな~」
「客の受けが悪いってのに……」
娼婦に取っては死活問題か。華やかの様で厳しい世界だね。
「リン。なにかないない? 金は出すからさ」
さすがのばーちゃんもこの場を収めないと大変だと感じてる様だな。
「風呂で使うものならある。効果はクリームよりないけど」
ゴルフボールくらいの塊をアイテムボックスから出す。
「お湯に混ぜて入れば肌と髪は少しよくなる。これなら作るの簡単。銅貨三枚」
回復薬から作るから大した手間ではない。
「あるだけ買うよ!」
と言うので二十個ばかり渡した。まあ、お試しな感じで。使ってからまたお買い上げくださいませ。
「長く入っても無駄。何人も無理。二人か三人が精々」
回復薬みたいなもの。効力を示したらなくなるのは当然。それほど都合の良いもんじゃない。
「疲れた。今日は帰る」
シルバーのことがあるが、まだお昼寝を必要とするお年頃。健やかに育つために欠かせないのです。また明日~。




