21 魔石
吸引と排気。これは別のことにも使えたりする。
川に左の袖口を突っ込み吸引。まだ容量がないので五リットルくらいしか溜め込めないが、畑の水やりには充分だ。
六回ほど畑に散水すれば朝の畑仕事は終了。次は洗濯だ。
まあ、洗濯と言っても量はそんなにない。そんなに服があるわけじゃないし、毎日着替える習慣もない。だが、汚いのはオレが許さないので下着は毎日代えさせてます。
また左の袖口から下着を吸引。水を一リットルを吸って異空間でウォーターサイクロン! 三分ほどして排水。また水を吸引してウォーターサイクロン! それを三回やれば頑固な汚れも一殺よ。そして、風を吸引して脱水と乾燥。十五分で洗濯終了です。
「ふぅ~。疲れた」
ちょっと一休み。五歳児に家事はキツいぜよ。
シルバーに椅子になってもらいながらクッキーをポリポリ。疲れた体に沁みるわ~。
「カァー! ゴブリン! 三匹来る!」
このまま昼までのんびりしていたいが、この世界はそれを許してくれない。山を見張っている三丸がこちらに向かって来るゴブリンを告げてくれた。
「ヤレヤレ。忙しいこった」
ねーちゃんが山に入らないからゴブリンは増える一方だよ。
「今日もホブくんか。最近多いな。山でなにが起きてんのか?」
まあ、オレにしたらホブじゃなくモブ。いや、デフォルトか? なんにせよ通常運転だ。
「ガウ!」
「シルバー、ちょっと待った」
さあ、今日もやったるか! と意気込むシルバーを止める。
「ガウ?」
「今日はオレがやるよ。実験したいことがあるんでな」
ちょっと攻撃手段を思いついた。ホブくんならちょうどいいだろう。でも、ダメだったらすぐに助けるんだぞ、シルバーよ。
まだローブの性能はよろしくないし、万が一のときもある。慎重丁寧今日もご安全に、いくぜ。
オレが前に出ると、ホギャホギャと下卑た笑いをするホブくん。多少なりとも知恵はあるようだ。今までは確認する前にねーちゃんがぶっ殺してたから考える余地もなかったぜ。
今回のホブくんもフル〇ンではあるが、太い枝を棍棒のようにしていた。
「それなりに生存競争を勝ち抜いて来たんだな」
まあ、どんな生存競争かは知らんが、魔物も生きるには大変な様だ。同情はしないけど。
左の袖口から土を吸い込み、圧縮してから右の袖口から発射する。
「ホギャー!」
ショットガンをイメージしたのだが、単に目潰しになっただけだった。
「今の段階ではこれが精々か」
魔力もイモ三個分だ。それじゃ大した威力にはならんだろう。
「まあ、一応、効いてるのは効いてるし、手段を変えるか」
今度は空気を吸引。手頃な石を右の袖口に入れる。
「石弾!」
で、発射。ホブくんの息子さんにクリーンヒット。泡を噴いて気絶? してしまった。
前世男だった者としては哀れに思うが、今生は女。容赦する理由はなにもない! 食らいやがれ!
「──なっ!? なんつー生きモンだよ! 女の敵め!」
せっかくなのでよく鑑定したところ、こいつらは女を攫い、アレやコレやをしたら最後に食ってしまう鬼畜だとわかった。
この事実を知ったからには捨て置けない。より一層殲滅に心がけねばならんな!
「……でも、疲れたから休憩だ……」
さすがに魔力を使いすぎた。魔力回復薬を飲んでお昼寝……ではないな。まだ午前だし。仮眠だな。昼まで仮眠しよう。おやすみ……。
で、復活! お腹空いたぜ。
朝に作ったシチューを温め直し、シルバー用の雪ウサギの生ハンバーグを作っていると、久しぶりにグルメじーちゃんがやって来た。お久です。
「久しぶりじゃの。元気にしておったか?」
おう、元気にしてだぜ。と頷きます。
ってか、今日は人が多いね。荷物を背負った野郎四人に護衛のねーちゃんが二人と旅の途中かい?
「すまんが、まずは食事を頼む。人数分はあるかの?」
お金を落としてくださる方にノーとは言えない。すぐに御用意いたします。
「ガウゥ~」
文句言わないの。あとで作ってやるからよ。
雪ウサギのハンバーグを焼きに焼いてお出しする。副菜は蒸かしイモで許してちょうだい。え? シチューも食べたい? しょうがねーなー。お代は弾んでよ。
「相変わらずお前さんの料理は旨くてしょうがないよ」
と、銀貨二枚もいただきました~! ありがとうございま~す!
食ったら帰るのかと思いきや、グルメじーちゃんが横の男になにかを指示を出し、男は荷物から小箱を取り出した。
「これを」
と、グルメじーちゃんが小箱をオレに差し出した。土産か?
受け取り中を見ると、なんか緑色の石? 豆? なんだかわからんものがいっぱい入っていた。
「魔石じゃ」
なぬ? 魔石とな?
「魔物から取れるものじゃ」
え、そうなの? ゴブリンも狼からも出なかったけど?!
「ゴブリンから出なかった」
不可解なことに思わず尋ねてしまった。
「それはたぶん、若いからじゃろう。若い魔物は弱いからの」
あ、弱かったんだ。だから幼女でも倒せた……のか? ねーちゃん、首ちぎってたけど。
「この辺は比較的平和なところじゃからな。他の土地だと魔物の被害が酷いんじゃよ」
毎日ゴブリンが現れる土地が比較的平和なんだ。神様、ちゃんと優遇してくれてたのか?
「これでミュード酒を交換してくれるかの?」
ハーイ、喜んでー!
オレがなにより欲しいもの。それは魔力だ。それが手に入るなら蜂蜜酒など全部放出するわ! 持ってけじーちゃん!
「ホッホ。こりゃ大漁じゃ。また買いに来るんでたくさん作っててくれよ」
おう、任せとけ! と頷く。
フフ。オレの時代がやって来た予感だぜ!