175 予定は未定
酒で弛くなったゴミ虫──いや、野郎どもがいろんな情報を教えてくれた。
と言っても大半がどうでもいい情報で、役に立つものではない。暮しがどうの、仕事がどうのと、愚痴みたいなものだ。
だが、愚痴の中にも情報はある。オレの知らないことがある。ここで暮らしている者たちの価値観が見て取れるのだ。
……この世界を知れておもしろいな……。
野郎どもの愚痴から知れる異世界事情。まあ、この町で暮らす者の世界だから決して広いとは言えないが、世界の一つだと思えば価値はある情報だ。
「ボスは変わってるとは思ってたが、ここまで変わってるとは思わなかったよ」
いい感じで情報を得られ、酒場の近くの宿を取り、部屋で寛いでいたらイビスがそんなことを呟いた。なんやね、いったい?
「あんな臭い野郎どもに混ざって、なんの益もない話を楽しそうに聞いてるんだからな」
「やっとこの世界を知れるようになったんだから楽しいに決まってるじゃない」
生きるために何年も閉じ籠って来たのだ、外に出てはっちゃけるのも無理はなかろうよ。
「井の中の蛙大海を知らず、だよ☆」
「なんだい、それ?」
あれ? 外国にはないことわざか?
「まあ、狭い世界しか知らないで物事語ってんじゃねーぞってことわざだよ」
詳しくは勝手に調べてくださいな。
「井の中の蛙大海を知らず。されど空の蒼さをしる。スズの好きなことわざだよ」
他にも好きなことわざはあるけど、これが一番好きだな。
「詩人だな、ボスは」
別に詩人ではないが、戦争の人に理解させられるほど言葉は知らない。好きに思わせておけばいいさ。
「それより、外のお客さんはどうするんだ?」
「ゴミはゴミ箱にポイして」
今日はもうケダモノの相手をする気にはなれん。明日のためにゆっくり寝させていただきます。
「なら、わたしがやっていいな?」
あら、珍しや。ああ言うケダモノ嫌いでしょうに。
「ちょっと暴れたい気分でな」
「静かにやってね」
「任せろ」
と、ナイフを抜くイビスさん。夜な夜な娼婦を切り刻むのは止めてね。
音もなく部屋を出ていくのを見送り、汚いベッドを魔法で綺麗にしてお休みなさい──したかったのだが、銃声がそれを邪魔してきた。
「イビス、銃を使ったのか?」
「イビスじゃなくイビスが出した銃を使われたみたいよ」
戸窓を開けて外を見ているリリーが教えてくれた。野次馬か。
「どんな感じ?」
めんどいので寝っ転がりながら尋ねた。見たいと思える光景でもないだろうからな。
「イビスが嬉々としてショットガンで殴ってるわね」
ナイフ、どこにいった?
「まあ、殴るってストレス解消になるしね」
「されるほうは堪らないけどね」
ケダモノはいくら殴っても神は許すって言ってるし、問題ないっしょ。
「主を貶めるのもいい加減になさいよ」
だったらこちらもいい加減にして欲しいわ。神の当たりキツいっす。
「はいはい。ケダモノどもに神の雷がありますように。お休みなさい」
毛布(と言うのもおこがましい布)を被り、夢の世界にさようなら~。
ZZZ……。
って、夢の中にいけたのに、また銃声で起こされてしまった。今度はなによ?
「仲間を連れてきたみたいね。ジェスも混ざってるわ」
なにやってんのよ? 抗争か?
「そんな感じね。柄の悪いのばかりだし」
マフィアか? なら、天に召されても問題ないね。神も喜ぶだろうよ。
「悲しむわよ」
それはいいことを聞いた。なら、遠慮なくケダモノを天に召してやれるぜ。
「はぁ~。ここまで大騒ぎになると面倒だな」
町には警士なる者がいるとか。事情聴取とかになって時間を取られるのも嫌だし、さっさと町を出たほうがいいだろう。
「予定通りとはいかないもんだ」
「予定通りに動かない張本人がなにを言ってるのやら」
「予定は未定だよ☆」
なら、思うがままに動いてみるのも一興だ。きっと素敵な出会いと冒険が待ってるはずさ!




