157 スペイン語
さあ、夢と冒険に出発だー!
と、わくわく感はまるでなし。と言うか、夢も希望もない出発だーが正しいな。
まあ、それは言いすぎだが、観光地にいくわけでもなければ名所旧跡があるワケでもない。ましてや美味しいものを求めても自分で作ったほうが美味しいこの現実。わくわく感などありゃしないわ。
正直、いきたくねぇ~! と叫びたい。きっと面倒なことが待ってるはずだし。あ~いきたくねーいきたくねー。
「ちょっと。心の声がうるさいんですけど」
だったらこの状況を覆してくれよ! いかないでいい方法を教えてくれよ! 平和で温い人生ナメ切ったスローライフを送らせてくれよ!
「いや、自分で決めて全力で道を敷いたんじゃない」
だから口に出さないで心の中で叫んでんじゃないか!
「今さらバタバタしてもしょうがないじゃない。諦めなさい。どうせリンの人生、どこにいても同じじゃない」
違うと言えない自分の不甲斐なさ。もっと心を強く持て、オレよ!
って葛藤をしながら赤絨毯を歩いて、伝道巡回用に創り出した馬車──ではなく、なんだ? どう言うカテゴリーだ? つーか、名前も決めてなかったわ。
これから数年かけてシルバーに跨がって伝道巡回する。なんてゴメンだから家にいるのと変わらないキャンピングカー的なものを創った。
もちろん、元の世界のキャンピングカーを模したワケではなく、なんかこう豪華で荘厳で神々しい感じ? まあ、サイズはスクールバスくらいのものだ。
この世界、馬はいない。いや、アイカワ帝国にはいるらしいが、この自由貿易都市群リビランは恐竜っぽい二足歩行のトカゲだ。
まあ、便宜上、竜車と呼ばれているが、馬と同じく結構食う生き物だ。長い旅を任せるには少々心もとない。なので魔力で動くタイプにしたのだ。
道なき道をいくことも考えて飛行能力を持たせている。神の奇跡と言えば浮いてることも納得するだろう。ビバ神の奇跡。最高の説明である。
あ、運転はシスターズに交代でやってもらう。この……なんだ? やっぱり名前がないと不便やな。
………………。
…………。
……。
よし。ライジングスターと名付けよう。カッチョエー!
「命名する。神の車、ライジングスターと」
皆、このカッチョエー名前を覚えるんだぜっ!
「ボスの中でなにが起こったのか知らないが、命名するならもっと時と場所を選んでやれよ。聞いてるの、わたしらしかいないだろうが」
あ、まあ、いいじゃない。まずは身近な人が覚えてくれればいいんだよ。
横のドアからライジングスターの中に入る。
伝道巡回を快適にするためライジングスターの中は亜空間化して、リゾートホテルも真っ青な空間とした。
8LDKで風呂は二つ。サウナ付き(イビスの要望です)。トイレは三つ。あと、日向ぼっこするためのサンルームをつけたぜ。
一応、オレが乗っていることを示すためにライジングスターの後部にデッキをつけ、ここで手を振ったりする。今もデッキに出て信者に手を振っている。
わーわーと騒ぐ者。地に膝をついて祈る者もいる。なぜか泣いてる者までいる。なんの感慨もない。どころか冷めた感情しかない。
……皆、なにを信じてんだろうな……?
「それ、リンが言っちゃダメなやつ」
うん。自覚してる。だから心の中で言ってる。
「出発して」
運転席にいるシスターに伝える。あ、内線も設置してます。
ライジングスターが動き出し、竜に跨がった聖騎士が続き、何騎かが前に向かい先導に立つ。
ライジングスターの後ろにはシスターが乗る……なんだ? あー……うん。
「命名する。神の車、ビューティフルスターと」
「だから命名するなら時と場所を選べよ。で、なににつけたんだよ?」
「シスターが乗る、アレ」
「……スターになにか憧れでも……?」
シスターから連想しました。とは言わない。どこかの天使みたいにため息つかれるから。
しかし、本当に人が集まってること。教会から街道までいやがるよ。
早く中に入ってお茶したいのに、人多すぎだよ。
「だからそれ、リンが言っちゃダメなやつ」
オレの心まで侵害しないで。そこはオレのサンクチュアリ。何人たりとも踏み込むことを拒否します。
「アスタ・ラ・ビスタ」
「なぜスペイン語で別れを?」
なんとなく。映画で観た記憶が蘇ったまでだよ。
また帰る日まで壮健なれ、我が故郷よ。




