149 ハピネス編2
なにはともあれ今日の寝床を創りましょうか。
皆さんが設営したテントがありますが、もうここがわたしたちの故郷であり、街であり、家である。野営などしてられません。
シスターリンと同じ能力──手のひらの創造魔法で整地し、聖騎士団本部をドカンと建てた。
なんとも殺風景な場所に豪華な聖騎士団本部を建てるのもシュールな気もしないではないが、まあ、これからと言うことで納得しておきましょう。
「ハリュシュ。ここを聖騎士団本部としますが、神殿ができるまではウェルヴィーア教の本拠地とします」
「……え? は? え……?」
シスターリンで非常識に耐性がついてると思いましたが、どうやらまだまだのようでしたね。もっと小さいのからやるべきでした。
まあ、やってしまったのはしかたがありません。神の奇跡で押し通しましょう。
我に戻ったハリュシュに部屋決めを任せ、その間に厨房へ向かった。
「誰か料理をできる人いるかしら?」
護衛の二人に尋ねる。
わたしの記憶にはシスターリンが料理をしている記憶しかない。と言うか、シスターリンはなぜ自ら作ってるのかしら?
わたしの元であるのにわたしには理解できない。なにか混ぜているワケでもなければ餌付けしてるワケでもないのに?
「いえ、いつもリン様がしていたので、誰もできないと思います」
「アイテムボックスに弁当も入ってますから」
用意周到なのか、わざと料理をさせないようにしてるのか、本当になにを考えているのかわからない。どんな意図があるのかしらね?
まあ、わたしはわたしの考えでやるしかないわね。聖都グランディールを任されているのだから。
遊撃隊の子らもいるので、順番に料理をしてもらうよう取り決めた。もちろん、手のひらの創造魔法で料理を覚えさせましたよ。
「……結構時間がかかるものなのね……」
暮らしを整えるだけなのに、今日決められたことは料理の取り決めだけ。お風呂に湯も張れなかったわ……。
「ハピネス様。湯加減はいかがですか?」
シスターリンが設置した湯船に浸かって今日の疲れを癒していると、わたしの世話役となったサシュが尋ねて来た。
「とてもいい湯加減よ。ありがとう」
肉体強化されて生まれて来たのに、お湯が気持ちいいと感じるのだから不思議よね。ふぅ~。
「……綺麗な星……」
わたしがわたしになる前にも星は見ていたのに、肉体を通して見る星は心に響くものがあった。
しばらくぼんやりと眺めていたら、周りの音がなくなり、なにか空気が変わった。
……な、なに……!?
「バリューサ! サリッサ!」
仕切りの外にいる二人に呼びかけるが、二人からの返事はない。邪神側からの襲撃?!
「──いいえ。主からの接触よ」
目の前の空間が歪み、そこからシスターリンの肩にいるリリーが現れた。
「……なぜ、あなたが……?」
リリーはシスターリンの守護天使のはず。
「はず、ではなく正真正銘守護天使よ。変なところばかりリンに似るんだから。魂は違うのに」
……魂が違う……?
「あなたの魂はリンたちと同じく主に呼ばれた者の一人よ。まあ、前世の記憶はないけどね」
わたしが神に呼ばれた一人? とても信じがたいことではあるけど、神がウソを言うとも思えない。そうだと言うならそうなんでしょうよ。
「……わたしになにか用なの……?」
「神に選ばれし戦士には力を一つ、授ける決まりなの」
決まり? それは邪神との、ってこと?
「あなたはどんな力を望む?」
答える気も否定する気もない、か。まあ、知ったところでわたしにはどうにもできないか。気にしないでおきましょう。
「……わたしにはシスターリンの力があるのに、ですか……?」
「それはリンが与えた力。主が与えた力ではないわ」
自分が決めたルールには逆らえないとか、神も融通が利かないものなのね。と言うことは、神と邪神は平等(対等かしら?)なのね。
「では、あなたのような守護天使を願います」
わたしの望みにキョトンとするリリー。想定外だったようね。フフ。
「……リンの遺伝子って下手な病原菌よりたちが悪いわね……」
守護天使に病原菌以下と言われるシスターリン。言われるシスターリンが哀れなのか、そんな存在を守護しなくてはいけないリリーが哀れなのか、それとも生み出されたわたしが哀れなのか……うん、あまり考えちゃダメな問題ね。軽く流しておきましょう。
「どうかしら?」
「──主のお許しが出たわ。ハピネスに守護天使を与えます」
リリーが出て来た空間から光の玉が現れた。
「名をつけてあげて」
名前、か。シスターリンは適当につけたけど、わたしはじっくり考える。これから一緒にいる仲なんだからね。
「……妬ましいわ……」
守護天使に妬ましいと言わせるシスターリン。悪魔かしら?
「うん。木蓮に決めた。わたしの好きな花の名前よ」
シスターリンの記憶ではない。おそらく、わたしの魂となった者の記憶でしょうね。
「姿はあなたの好みにして」
光の玉を両手で包み込み、好みの姿を思い浮かべる。
「……あなたの名前は木蓮。さあ、姿を現してちょうだい……」
わたしの願いに光の玉が弾け、オカメインコが現れた。
これも魂となった者の記憶でしょう。この姿がラブリーと思えるのだ。
「わたしがあなたの守護天使。これからよろしくね、ハピネス」
恨みがましい目を向けるリリーは無視して、木蓮を頬擦りして愛情を示した。




