110 魔石
今さら、でもないが、魔石は魔物と呼ばれる生命体から取れる。正確に言うなら邪神の揺り籠から生まれる生命体からだが。
ただ、生まれたばかりのものには魔石はなく、つめ先くらいになるまで数年はかかると、鑑定さんが教えてくれた。
魔物から魔石が取れる。
これは一般的な常識であり、それを取る──いや、採る者がいて、それを売買することが当たり前となっている。
じゃあ、なぜ採るかと言えば需要があるからだ。
なにを当たり前なことだとお思いでしょうが、なにかに使われる前にオレが使っていたからその先を考えるにはいたらなかったのだ。
「……これが魔道具……」
テーブルに置かれた魔道具、コンロを出したのはサルバートのおっちゃんを仲介したカーゴン商会のハインだ。
このおっちゃんーーってかじーちゃんは、ベルホンで魔道具を扱っているそうだ。その関係でサルバートのおっちゃんに仲介を頼まれたそうだ。
「はい。帝国で作られたもので大変優れております」
サルバートのおっちゃんを仲介しただけではなく自分も売り込む。商人としてはやり手なんだろう。
ただ、魔道具はいらないかな~。
だって手のひらの創造魔法があれば大抵のものは自分で創れるし、もう必要なのは創ってある。今さら買うものなんてない。魔道具より鍋が欲しいくらいだ。
「魔道具は帝国でしか作れないの?」
>っと鑑定したところ、魔道具と言うより魔法陣的な要素がほとんどだった。
そう言えば、魔法の技術がどれほどのものかも知らんな。あまり魔法的なものを見ないし。あ、今思えばランプは魔道具だったのかもしれん。煤とかなかったし、灯りが火とはなんか違ってたしな。
「いえ、自由貿易都市群でも作れますが、やはり魔道具発祥の地だけあってこちらは二つ三つ遅れております」
帝国が発祥なのか。それだけで帝国の力と前の転生者の偉大さがわかると言うものだ。まったく、どう上手くやったのかご教示を受けたいわ。
「カーゴン商会は魔道具の職人を抱えてる?」
「はい。何人か抱えております。ただ、帝国の職人と同じに思われては困りますが」
「わかってる」
二つ三つ遅れているんだからな。
「職人を一人──ううん。二人、うちに貸し出して欲しい。そこで学んだ知識はカーゴン商会で好きにしていいから」
欲しいものがないなら欲しいものを作らせたらいいじゃない、だ。
「二人と言わずうちで抱える者をすべてでも構いませんよ」
即決即断かつ計算も早いか。帝国と取引している者は厄介だぜ。
「そちらが問題ないと言うなら」
「はい。問題ありません」
ただまあ、無能な者やバカを相手するよりはいい。賢い者は想定しやすいからな。
「なら、衣食住はこちらで持つ」
「いえいえ。そこまでしていただいてはカーゴン商会の名折れ。せめて費用の半分はこちらで持たせてください」
囲い込みはさせてくれないか。まあ、オレは作って欲しいものさえ作ってくれたら儲けなどくれてやるさ。富の独占をすると漏れなく厄介事がついてくるしな。
「わかった。半分出して」
「はい。喜んで」
居酒屋か! なんて突っ込みを飲み込む。
「準備に三日ほどいただけますか?」
「一月後でいい。こちらも住む場所を用意しなくちゃならないから」
職人が何人いるかわからんが、これからを考えて飯場的なものを作るとしよう。いろんな職人を集めるんでよ。
「でしたら、こちらで職人を集めて、住む場所も造りましょう。なに、最近仕事がなくて職人が余っているので喜んでいきますよ」
がっつり食い込もうとしてんな。まあ、それならそれでがっつり食い込ませて逃れられないようにしてやるまでだがな。
「リンのいるところは町の外。それでも構わない?」
「ご安心を。ダリアンナの町とは仲良くやりますので」
オレと町の繋がりはちゃんと調べてるか。できる商人は頼もしいよ。
「わかった。よろしくお願い」
「はい。お任せを。状況は逐一報告しますので、なにかあれば連絡員にお伝えください」
なんてことを満面の笑みを浮かべて言い、大口契約を得たサラリーマンの如くペコペコしながら帰っていった。
「いいの? あの人、リンを利用する気満々よ」
「構わない。こちらも利用する気満々なんだから」
世の中持ちつ持たれつ。むしろオレを利用するヤツがもっと来て欲しいくらいだ。
じーちゃんももっとグイグイ来てくれたらいいのに、政治家だけあって適度な関係を保っているんだもんな~。
「そりゃ、あれだけ痛い目にあってれば利用してやろうなんて思わないわよ」
痛みも和らぐ利を与えたんだから文句を言われる覚えはありません。
はぁ~。帝国に生まれてたらもっと楽に生きられたのに。神はそんなにオレが憎いのか?
「期待してるからここに生み落としたんでしょう」
チッ。神からの期待が重いぜ。




