108 帝国の商人
……なんかこのまま貿易都市ができそうな賑わいだな……。
キャンプ地にできた屋台群に都市ができるきっかけを見たような気がするぜ。
まあ、昨日ほどの賑わいはなく、オレは販売の指揮してるだけ。他のことにかかわりはない。ココアを飲みながら眺めてるだけだ。
「お嬢。ちょっといいですかい」
なんか傭兵会館の男たちからお嬢呼びされるオレ。893になった気分である。
……まあ、やってることはそれだけどね……。
「なに?」
「カーゴン商会と名乗るもんがお嬢に会いたいと来てます」
「ベルホンの商会?」
「はい。声をかけて来たのはベルホンの者ですが、会いたいのはアイカワ帝国から来た商人だと思います」
アイカワ帝国の商人、ね。こんな田舎(とオレは思ってます)にまで来るとは大きいところの店なのかな?
「要件は聞いてる?」
「商売のことで、とは言ってます」
まあ、銃のことだろうな。つーか、それしかないわ。
「わかった。会う。連れて来て」
なにはともあれ会ってからだ。
客を迎える場所ではないので、四人用のテーブルと椅子を出し、お茶と菓子を出す。
で、傭兵会館の男が連れて来たのは四十代と思われる男と二十歳くらいの男。赤毛からしてこの二人がアイカワ帝国の者だろう。
「初めまして。ベルホンで貿易の仕事をしておりますカーゴン商会のハインと申します」
ハインと名乗った五十代の男が右手を胸に当てて恭しくお辞儀する。
「グランディール傭兵団の代表、リン」
こちらは座ったまま答える。無知な子どもと見せるために。まあ、なんの情報もなしに会いに来たとは思えないけどな。
「こちらは当方と商売をしているアイカワ帝国の者でサルバートと申します」
「初めまして。アイカワ帝国の商人、サルバートと申します。連れは息子のヨシュアです。どうかお見知り置きを」
親子か。あまり似てないな。
「わかった。座って」
立ち話もなんなんでな。
「お茶と菓子は適当にやって」
マルレインおねーさんも販売をやってもらってるので秘書的存在がいないのだ。
「では、わたしが」
とは息子さん。お茶汲みに抵抗はない、か。親父さんの教育かな?
「失礼ながら、年端もいかぬ少女が傭兵団を率いていると聞いたときは耳を疑いましたが、こうして向かい合っても信じられませんな」
だろうね。オレも前世で取引で七歳の少女が出て来たら顔をしかめるくらいやっちゃう自信があるわ。
「自分が異常なのは自覚してる。気持ち悪いと思うのも拒否するのも好きにしたらいい」
逆によく受け入れられてるなと思うよ。まあ、魔女伝説(仮)がかかわっているとは思うのだが、誰もそのことを語らないので謎のままである。
「いやいや、異常だろうが理知的でいられるのなら受け入れられる存在さ」
理知的なのはこの男だ。こんな異常な少女を商売相手と見定めるんだからな。
……まあ、厄介な存在ではあるがな……。
「そう。それで、なに?」
「銃を売ってもらいたい」
「売ってるけど」
規制はしていない。金か魔石を持っていれば悪党にだって売っている。買ってくれるなら皆神様だ。おっと、リリーさん。黙々と殴るの止めてくださいませんかね。無計画に異世界に放り込むヤツよりオレのために金を出してくれるほうが有難い存在だわ。
「銃の権利を売って欲しい」
権利? なんのだよ? わざとわかり難く言ってるのか?
「真似たければ好きに真似たらいい。それをどう売るかはそちらの勝手。リンには関係ない」
マスケットまで作り出した帝国なら真似るのもそう難しくないだろう。まあ、銃がどう作られるか知らんけど。
「そうではなく、銃の販売をわたしたち商会に任せて欲しいのだよ」
「渡す量はこちらで決めるし、自由貿易都市群でも売る。それを飲むなら構わない」
帝国にすべてを流されても困るし、数まで決められるのはゴメンである。オレの生存率を高めるための道具なんだからな。
「ふふ。やはり手強いな」
試された、ってことかな? まあ、こんな意味不明な存在を素直に受け売れるほうがどうかしてるわな。
「銃と弾、そちらが渡せるだけ買いたい。支払いはそちらの求めるものを用意しよう」
上限も下限も問わないか。まずは繋がりを持つ、ってことかな? いきなりディープな関係にはなれない、ってことで。
「わかった。来年、ダリアンナの町に来て。用意しておく」
「いや、ダリアンナの町に支店を出すので、そちらに連絡して欲しい」
随分と早急だな。いや、いきなりは無理だから前から計画してた、ってことか?
「リン。もしかして帝国まで知れ渡ってる?」
「いや、たまたま帝国の商人に知られただけだな」
ってことは、サルバートさんの独占ってことか。こりゃ、帝国に知れ渡ることはないかな?
「そう」
「ああ。なので是非、我々と縁を結んでもらえると幸いです」
「結ぶだけなら。ただ、先に結んだ縁があるので優遇はできない」
まだじーちゃんや孫から借りを返してもらってないんでな。
「それはもちろん弁えているよ」
まあ、その辺はじーちゃんがなんとかするんだろう。手に入れた打出の小槌は失いたくないだろうからな。
「ならいい。もうしばらく銃の販売はするから買ってって」
精々オレの懐を温めてくださいな。
「もちろん、資金が続く限り買わせてもらうよ」
ハイ、毎度ありがとうございます。




