「パラレルワールド!?」47
手加減などせず、勢いのままに打ち込んだはずの拳は強烈に刺さっているはずなのだ。それなのに何故、倒れない。単に打たれ強さの問題なのか。他に考えられる別の可能性。この至近距離で腕一本動かさず防いでいる方法。直撃しているのならこのまま拳を振り抜けるはずだ。なのに今は拮抗している。
筋力? 昴よりも細そうな見た目からそんな事が有得るのか。わからないのならば、もう一度試すのが早いだろう。打ち付けていた拳を引き寄せ、体を弓形に。顔が無理だと言うなら次は別の箇所を狙う。
(ボディーなら……どうだ!)
しかしここまで接近していてもフェノンは避ける気配はない。あくまでも受け止めるつもりなのか。それならば、と昴は棒立ち状態の相手の腹部目掛けて渾身の一撃を見舞う。加減は必要ないと、さっきの一撃で感じた。だからこその拳だ。そうでもなければ全く悪意の感じない相手に本気で攻撃に掛かるものか。空を裂き、自慢の右手がフェノンの腹部へと吸い込まれた。思い描いているのは直撃してもんどり打っている姿。
「ここもかよ……!」
しかし、やはりと言うべきか異常なまでに強固。昴はこれ程までに硬い人体を殴り付けた事はない。痛めた右手を庇いながら身を引こうとした。その時だった。
「お、おぉ……!? 腕が……!」
突き出したままの右腕。それが引き戻せないのだ。驚きと意味不明な状況で冷静な判断力を失ってしまう。そして、そこで初めて昴は衝撃の事実を知る事となった。
「ちょっと待て……! 当たって、ないのか……!?」
今もまだ感触の残っている手の関節部分。そこにあるのはフェノンの体の一部。そう思っていた。なのに。そこにはただの虚空。昴は自身の目がおかしいのかとまで疑った。たった数センチ、数ミリの世界だ。しかし、その程度の極僅かな隙間がある。昴の拳は届いていなかったのだ。そしてその右腕には縛り上げられるような感覚。指先がうっすらと血の気を失っているのが自分でも分かる。
「放せよ、お前……!」
「お望みとあらば」
一言、腕への感覚はなくなった。しかし、その後に感じるのは謎の浮遊感だ。一体何が行われているのか理解が追い着かない。気がついた頃には昴は背中を地面に打ちつけており、しかもレイセスの足元まで転がされていた。
「スバル! 大丈夫ですか!?」
痛みよりも疑問。更にスカートの中が見えそうになってしまったので慌てて――律儀にも――上半身を起こし、頭を振る。
「あー……大丈夫じゃないかもなぁ……こちとら全力でぶん殴ったのにさ? まさかの届いてないっていうな? プライドとかそんなものがぼろぼろ崩れそうだわ。しかも意味分からん内に地面に転がってるし」
「ごめんなさい、言ってませんでした……でも手立てはある、かもです」
「え?」
絶賛いじけモードだった昴。不意の言葉にほんの少しだけやる気を取り戻したようだ。
「あれは彼の使っている魔術障壁で、物理攻撃はおろか魔術攻撃も防いでしまうんです」
上げて落とす。レイセスは中々やり手である。しかし魔術障壁とやらは一体何なのだろうか。
「何それ無理ゲーじゃん……」
だからこそ昴はこのように頭を抱えているのである。突破出来る方法、技、そんな物を普通の人間が持ち合わせているはずがないのだ。
「で、でもですね! 昴が一方的に負けない方法ならちゃんとありますよ!」
「一方的に負けないって……」
負けたくはない。負けたくは無いのだが……。