「パラレルワールド!?」48
超常現象を理解は出来ない。あくまでも漫画やゲームなどの世界で知っているだけだ。それを実際に目の前でやられてしまうと対応のしようがない。昴はつまらなそうに立っている相手を見やる。自身の本気の一撃をその身に受ける事すらしなかった。
「何だよ防御障壁って……どうすんだよ……」
思考回路をフルに回転させる。現時点で持っている知識をどうにか使えないものだろうか。まず、当てられない事にはどう頑張ろうと勝利は無いだろう。手を付いた地面には棘のような硬い感触。小石か何かだろう。悟られないようにそれを右手の内に隠す。
すると、座り込んでなかなか立ち上がらない昴の横へ膝を折るレイセス。
「あの、手を貸して貰っても良いですか?」
「ん? あ、ああ……こんな感じで良いか?」
右手には隠した小石があるので左手を差し出す。レイセスはそれを包み込むように優しく両手で握る。そして目を閉じ、口の中で何やら呟く。聞き取れない程の小声である。柔らかい感触に少し驚いてしまうが、勘付かれないように目を逸らす。
数秒後、握られていた左手が微かにだが熱を帯び出した。それは女子に触られているからという初心な理由などではなく、痛みを感じる程だ。何事かと視線を自身の手元へ。握られている左手。今やレイセスの柔らかい手の感触など何処へ行ってしまったのかと思う程に強烈な痛みと熱さが感じられる。それだけではない。微かな光がそこから漏れているのだ。
「あと少しだけ、我慢してくださいね……?」
汗のうっすらと浮いた顔に、上目遣いでそう言われて頷かない人間は居ないだろう。勿論そのような事は口に出そうともしない。心の中に仕舞っておこう。輝きが次第に収まっていく。完全に消えた頃、昴の体に異変が。レイセスの手が離れる。それと同時。全身を駆け巡る鋭い痛み。脈動する筋肉。体が異常なまでに熱い。まるで内側から燃やされているようだ。吹き出る汗。堪らず昴はネクタイを外して投げ捨て、その激痛から逃れようとする。
「このっ……!」
痛みを押して立ち上がる。すると燃え上がるような痛みが嘘のように引いていくではないか。その奇妙な現象に目を丸くする。
「ごめんなさい……でも、こうするしかなくて……」
背後では申し訳無さそうに俯くレイセスの姿。そして何故か沸き上がる他の生徒たち。感覚が鈍くなっているのか、それらが上手く聞き取れない。まるでトンネルの中に入った時のように圧が掛かっているようだった。
「何だか分からないけど……多分、大丈夫だ。もう痛くないし」
口の中もカラカラに乾いている。だがそれでも、ここでレイセスを心配させるのは間違っているのではないだろうかと一言放つ。それによって少しは軽減されていると良いが。待たせたなと言わんばかりに再びフェノンと対峙する。今、自分の体は先程よりも万全のような気がしていた。理屈は分からないが、奥底から力が湧いてくるような感覚。何でも出来そうな錯覚。ならば、試してみるのが一番だ。
「こいつを――!」
本当は隠して不意打ちにでも使おうかと思っていたのだが、物は試し。実行するのが手っ取り早い。肩を大きく後ろに引き、振り被る。手には数個の小石。勢いを殺す事なく、全力で。相手が普通の人間ならば怪我は避けられないはずの攻撃だ。しかしたった二度、衝突してそれだけで恐怖にも似た感情を持たせてきた相手に卑怯もへったくれも無いだろう。




