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第2話 置き勉狂騒動

次の日の朝、私はなぜか胸がソワソワしていた。

玄関を開けると爽やかな風が私の頬を撫でた。

「いい天気だなあ。」

私は毎朝秋といつもの待ち合わせ場所の電柱に向かった。

「遅いぞ。」

秋は開口一番、そう呟いた。

今日も相変わらず不機嫌だ。

「ごめん!ごめん!」

今日も他愛もない会話をしながら学校に向かう。


私はこの時間が大好きだ。


やがて教室に着いてカバンから荷物を出した。

ふと、

「あ、教科書忘れた」

と、カバンの底を見つめながらぽつりと呟いた。

正確に言えば、学校に置き勉する教科書を家に忘れたのだ。

もちろん、今日使う教科書は持ってきている。

友達に

「っえ、ののちゃん教科書忘れたの?」

と聞かれた。

ちゃんと持ってきているので

「ううん。置き勉しようとしてた教科書を忘れただけ」

と弁明した。


しかし、事件は1時間目に起きた。

秋はさっきの呟きを聞いていたのか、始まって早々

「おい、のの。お前教科書忘れたのかよ。お前本当バカじゃねぇの?」

とぶつぶつと毒づきながら、秋の教科書を私の机にスッと押し付けてきた。

「え?あ、ちょっと秋ー」

私が慌てて呼び止めるも、秋はぱっと勢いよく手を挙げた。

そして、教壇に立っている先生に向かって

「先生。教科書忘れました。」

と言った。

先生は

「お前が忘れ物なんて珍しいな。隣の人に見せてもらえ」

と呆れ顔で言った。

秋は私ではなく、隣の席の田川君に教科書を見せてもらっていた。

この一連を見ていた私の友達の肩が小刻みに揺れている。

私は、手元の2冊の教科書を見つめて戸惑っている。

今さら「私、教科書もってるよ」なんて言えるわけがない。

秋、ごめん!と心の中で叫んだ。

この50分間が人生で一番長く感じた。


授業終了のチャイムが鳴り響いた瞬間、私は自分の教科書と秋の教科書を抱えて立ち上がった。

隣で田川君に「ありがとな」とお礼を言っている。

「あ、あの、秋・・・」

声をかけると、秋は少しだけ肩を跳ねさせた。

「んだよ。ちゃんと授業聞いてたか?お前、居眠りして俺の教科書にヨダレとかかけてねえだろうな。」

「かけてないよ!・・・じゃなくて、本当にごめんなさい!」

「は?何がだよ」

怪訝そうに眉をひそめる秋の机に2冊の教科書を置いた。

「私、置き勉しようとしてた教科書を家に忘れたの。秋に伝えようとしたけど、先生に言っちゃてて。さっき貸してもらった教科書は持ってきてるの」

「・・・」

秋は自分の教科書を手に取り

「お前・・・。持ってたのかよ」

とため息交じりに呟いた。

「うん。・・・ごめん」

秋はそのまま無言で教室を飛び出した。

「あ、待ってよ秋!」

秋を怒らせてしまった。

しょんぼりして席に座っていると、女子グループが机を囲った。

「ののちゃん、どうしたの?」

その声は優しかった。

「実は・・・」

事の経緯を話した。

すると、全員爆笑した。

「いやいや!秋君がそんなことで訳ないじゃん!」

「そうだよ!秋君は恥ずかしくてののちゃんから離れたかったんだよ!」

「え…?恥ずかしくて・・・?」

皆の言葉に頭が真っ白になった。

勝手に秋を怒らせたと思っていたけど、実際は恥ずかしさのあまり避けてしまっただけだったのだ。

「で、でも、だって…!」

秋が怒っていることを必死に弁明しようとする私を、女子グループはニヤニヤと見つめてくる。

その笑みに意地の悪さが現れていた。

「ほら、ののちゃん。秋のやつ、耳まで赤くして逃げてったよ?」

「今頃絶対、田川君とかに、かっこつけて教科書貸したら持ってた。恥ずかしすぎる!とか言ってるよ」

「そうだよ!絶対田川君に泣きついてるよー!」

すると、女子グループの中でもリーダー各の理穂が

「ねえ、これはもう、私たちが一肌脱いであげるべきじゃない?」

と言った。

「え?一肌脱ぐって、何を・・・」

嫌な予感がして身を引いた。

だが、彼女たちは楽しそうに顔を寄せ合っている。

「今日の放課後、みんなでカフェに行く約束してたじゃん?田川君たちの男子グループも誘うの」

「えっ、みんなで行くならいいけど・・・それ、作戦なの?」

「甘いなー、ののちゃん」

理穂は不敵に笑った。

「最初はみんなでワイワイ楽しむでしょ?で、途中で私たちがプリクラ撮ろ!って言って、秋君とののちゃんをわざと置いていくの。そうしたら、必然的に二人で行動することになるでしょ?」

「えー!それ不自然だし、絶対秋にバレるよ。秋、案外そういうの気づくから。」

この作戦は失敗するに違いない。

私は今までに秋に似たようなことをしたが、全部バレてしまった。

「それは、ののちゃんが分かりやすすぎるだけだよ。安心して!私たちがいるから!」

半ば強制的にその作戦を実行させられた。

早速、女子グループの美羽が田川君たちをカフェに誘った。

「田川君からオッケー出た!秋君もみんなが行くなら来るらしいよ」

「本当に大丈夫なの?」

作戦の準備が進むにつれて不安が増してきた。

「大丈夫、大丈夫!ののちゃんはいつも通り、普通にしていればいいから。ね?」

みんな「楽しみー!」と盛り上がっている。

こうなってしまった以上、女子グループの暴走を止めることはもうできなかった。


それからの授業はまったく頭に入らなかった。

お昼ご飯をいつ食べたのかすら、まともに記憶にない。

隣にいる秋が視界に入るたびに胸が締め付けられた。

さっきまで「怒らせちゃった」「嫌われちゃったのかな」とあんなに落ち込んでいたのに。

理穂たちの言っていることが本当なら、秋は怒っても私のことを嫌いにもなっていない。

秋のことを考えると、今度は私の方が秋を見る事さえままならなくなってしまった。

理穂たちが企む作戦。

不安がこみ上げる反面、少し期待する自分がいた。

この話までは前置きと思ってください。秋とののの関係についての確率論が出てくるのはもう少し先です。

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