秘密
放課後、忘れ物を取りに戻った教室で、髪の長い女の子が僕の席に座っていた。
不思議に思って廊下から覗き込むと、薄暗い教室の中、彼女はもぞもぞと怪しい動きを繰り返しながら、かすかな吐息を漏らしている。
そしておもむろに床へ膝をつくと、椅子の座面を――舐めた。
何が起きたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
だが、見てはいけないものを目撃してしまったことだけは、本能が警告していた。
思わず後ずさる。
その瞬間、キュッと靴底が乾いた音を立てた。
はっと振り返ったその少女は、生徒会副会長の吉野明日香だった。
校内人気No.1と言っても過言ではない美少女。その彼女が、僕の席で……。
「あの……何か?」
彼女は澄ました顔でこちらを向いた。
(……どういうことだ? 僕の見間違いか?)
だが、確かに彼女は椅子を舐めていた。
そんな変態行為を見られた側が、なぜこれほど平然としていられるのか。
頭はパニックを起こしていたが、直感が「関わるな」と警鐘を鳴らしていた。
「……忘れ物を取りに来ただけです」
ぎこちない足取りで自分の席へ歩み寄る。
彼女は机の横に座り込んだまま退いてくれそうになかったので、遠巻きに腕を伸ばし、引き出しからプリントを取り出した。
吉野さんは僕の一挙手一投足を、じっと見つめている。
「あの……ここ、あなたの席?」
「そうだけど……」
「……っ! ゴメンナサイ……私、てっきり霧山くんの席かと……」
なるほど、そういうことか。
「……霧山の席は、こっち」
僕が一つ前の席を指差すと、吉野さんは顔を真っ赤にし、両手で口元を覆って俯いた。
「お願い……」
彼女の低く震える声が響く。
「このこと……誰にも言わないで……」
そう言いながら、彼女はそっと床に膝をついた。
視線が僕の顔からゆっくりと落ち、ある一点でピタリと止まる。
触れられてなどいない。
けれど、その濡れた瞳で見つめられた瞬間、まるで直接指でなぞられたかのような熱い錯覚が体を駆け抜けた。
僕の動揺をあざ笑うかのように、彼女の吐息が制服の布地をかすかに揺らす。
「……ねえ」
彼女が何を理解し、何を確かめようとしているのか。言葉にされない意図が空気を通じて伝わり、僕の喉がキュッと鳴る。
小さく整った唇が触れんばかりの距離まで近づき、静かに熱を帯びた息を吹きかけてくる。
「誰にも言わないって約束してくれるなら、私――」
秘められた約束の代償を示すように、彼女は潤んだ瞳で僕を見上げ、そっと唇を綻ばせた。
「……誰にも言いませんよ。だから……」
僕は彼女の柔らかい頬にそっと手を寄せた。
僕と吉野さんの、誰にも言えない秘密の関係は、こうして始まったのだ。
試作にて。
反応を見て続き書きまーす♡笑




