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エピローグ③ ――真相――

 二年半暮らした奥背山を出た卯月は、最低限の荷物を持って事務所に来ていた。

 元より私物が少ないため引っ越しには困らない。

 東京へ戻れば、新しい生活が始まるのだ。そんなことを考えながら、卯月は事務所の片付けのために手を動かす。時間は朝の九時。午後八時の新幹線に間に合うよう、荷物を段ボールにまとめて業者へ引き渡す予定だ。

 卯月は、がらんとした事務所を眺める。すでにデスクや椅子もない。ブラインドの隙間から零れた陽光が、ぼんやりと床に線を描いていた。

 部屋には卯月一人だ。

 時雨は所長室に引っ込んでいる。貴一は事務所内にいるはずだが、今日はまだ姿を見ていない。卯月が自宅の片付けに追われている間、応接室や給湯室の掃除を彼が請け負ってくれたと聞いているから、疲れているのだろう。

 ガムテープで最後の段ボールを閉じて、息を吐き出す。

 奥背山で発見された即身仏や石棺に関しては、歴史的に貴重なものとされた。今後、保存される方向へ動くとのことだ。保護対象には奥背山寺も含まれており、奥背山が過疎化する一方で、その歴史は記録として残されることになる。

 宝田公造は殺人未遂で逮捕後、改めて殺人教唆の疑いで再逮捕された。

 本人は娘の保険金目的に殺人が起こるよう仕向けたことを認めている。その口封じのために卯月へ手を掛けようとしたこともだ。実刑は免れないだろう。

 妻の千紘は、奥背山から引っ越すらしいと人伝に聞いたが、それ以上はわからない。知ろうとも思わなかった。

 ため息を吐いたところで、奥のドアから時雨がやってきた。

「お疲れ、卯月ちゃん。おや、浮かない顔をしているね」

「ちょっと宝田家のことを考えてたんです」

「お手柄だったね。宝田公造が宝田杏花の事件に絡んでいたなんて、誰も見抜けなかったことだ。卯月ちゃんが一般人なら、感謝状を授与されてもいいことだよ」

 卯月はすでに特殊な立場にいるため、感謝状授与の対象外だという。

 公造が殺人未遂の現行犯で捕まった日のことを思い出し、卯月は顔をしかめた。

「大人になってから、あんなに叱られたのは初めてです」

「あの剣幕はすごかったねぇ」

 他人事だと思って、時雨はからからと笑う。

 あのあと事情聴取のために警察署へ連れて行かれた卯月は、待ち構えていた染谷にしこたま怒られた。卯月としては危険を承知の上での行動だったが、結果として貴一や千紘だけでなく、集まった住民らまでをも危険に晒す可能性があった。

「……すみませんでした」

「いいんじゃない? 真実に気づいたのに、素知らぬふりをするなんて身体に悪いよ。きっと一生、後悔する。だから卯月ちゃんが今回行動を起こしたことを、私は褒めたいな」

 時雨らしい軽快な言葉に、卯月は苦笑した。

 卯月が公造に対して不信感を抱くようになったのは、梅原から直接話を聞くことで、彼が公造に対して尊敬と感謝の念を抱いていることを知ったときだ。

 梅原のトリガーである『マザコン』という言葉は、公造から杏花に伝わったと考えることができる。

 卯月はこれまでの情報をまとめ、退院と同時に独自に調査を始めた。そうして当時の事故を調べるなかで、杏花が公造の子どもではないという事実を知る。そこに杏花の生命保険で、公造が工場の再建を目指していると聞いたのだ。

 証拠はなかった。だから鎌をかけた。宝田夫妻を怒らせることになっても、公造が本当に犯人なのか――それとも違うのか。それを確認したかった。

 たとえ今回の結末を杏花が望んでいなかったとしても、罪は償うべきものだ。

「私もね、立ち止まるのは止めようと思うんだ」

 時雨を見ると、自信ありげに口の端をつり上げる。

「気持ちの区切りがついたよ。もう咲良のことで過去にこだわるのはやめる。……いや、きっと咲良がこの世にいないことは、すでにわかってたんだ。私は、前に進むきっかけが欲しかったのかもしれない。咲良は前向きな子だったからね。私が立ち止まっていると、もどかしい思いをするだろうし」

「所長」

 なんと声をかけていいかわからず、控えめに時雨を呼ぶ。

「というわけで、私は今後、やりたいことをやろうと思う。そういうの、人生では大事だよね」

「勿論です。やりたいことはやるべきですよ」

 拳を胸の前で握りしめて、声に力を込める。

 時雨が嬉しそうに破顔した。

「そう言ってくれると思ったよ。じつはね、これまで作るだけで満足するようにしてた趣味の範囲を、広げようと思って。やっぱり、着てほしいよね」

「着てほしい?」

 踵を返した時雨が部屋から出て行き、両手にフリルがふんだんにあしらわれたロリータドレスを抱えて戻ってきた。

「さっき完成したんだ。いやぁ、ありがとう。卯月ちゃんに理解があって助かるよ。趣味の充実は心の余裕に繋がるからね」

 そっとロリータドレスを差し出される。とっさに受け取った卯月はドレスと時雨を交互に見たあと、ドレスの肩部分を持って広げてみた。

 どこかで見覚えがある。というか、以前時雨から見せてもらったカタログのなかから卯月が選んだ服だ。

「あの、もしかしてこれ」

「着替えは給湯室を使ってくれていいよ」

「私が着るんですか? こういうのは、もっと小柄で可愛いタイプの人が似合う――」

 再び勢いよく奥のドアが開き、貴一が入ってきた。

 卯月は助けを求めて彼を見て、その場で硬直する。

 貴一は、ピンクのチャイナ服を着ていた。しかもスリットが入った女性用のものだ。腰の辺りで締めた帯が身体のラインを強調しており、女形のような色っぽさがある。

「なんですかその格好! めちゃくちゃ似合ってるじゃないですか!」

 思わず叫んだ卯月に、貴一がふんと鼻で笑う。

「元モデルを舐めるな。妹の夢を叶えるためとはいえ、僕は全力でモデルをやってきたんだ。着ぐるみだろうと、着こなしてやる」

「そ、そうですね。すみません、失言でした」

 卯月は両手に持つロリータドレスを見て途方にくれる。

 自分は貴一ほど着こなせないことは明白だ。見ないようにしているが、時雨が期待のこもった視線を向けてきている。

「卯月くん、新しい世界に飛び込むには勇気がいる。今後の生活における練習だと思えばいい」

 貴一の手が、卯月の肩をたたく。もはや着るしか選択肢がない。

 卯月は決意を固めて、ロリータドレスを掲げた。

「少し怖いですけど、新しい世界へ進んでみます」


 終


閲覧ありがとうございました。

かなり長い話だったかと思います(約15万字)。

ここまでついてきてくださった方に、心からの感謝を。


文章や構成を始めあらゆるものが未熟ですが、書きたいものをひたすら書かせて頂きました。

かなり重めのテーマゆえ、なるべく軽快な登場人物たちに補ってもらおうと思ったのですが…それでも重い。

今後更なる精進に努めたいと思います。


なろうにUPするにあたり、タイトル間違えちゃったよ。

怨霊特別対策班です、ただしくは。

(でもこのまま変えずにいます、そのうち全編削除するかもなので)


重ねてとなりますが、本作はフィクションです。

登場する人物・団体・事件等はすべて架空であり、実在のものとは関係ありません。

また、作中の思想・行為は作者の思想や価値観を示すものではありません。

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