71、プロポーズのような
「ここはいつ来ても綺麗だな」
「そうね。冬は、あまり花がないかもしれないけれど」
以前グロリアがソムヌスに教えて花畑に2人で来ていた。敷物に並んで座ってぼんやり花を見ていると、ソムヌスの声が聞こえた。
「グロリア」
「……なに?」
ソムヌスの真剣な声に、グロリアはドキリとする。そちらを見ると、ソムヌスの金の瞳がこちらを見ていた。
「結婚は、早くしたいか?」
「え……」
フラマの話を引きずっているのか。ソムヌスからの質問に言葉を失っていると、ソムヌスが頬を緩めた。
「結婚の話がでたとき、羨ましそうだっただろう」
「そうだった?」
全く顔に出ていた自覚はない。しかし、ソムヌスには気がつかれていたらしい。グロリアは少し考えたあとに口を開いた。
「結婚。そうね。憧れはあるけれど、早くしたいかは分からない」
「そうか」
ぼんやりと視線を花畑の方に戻したソムヌスを真似て、グロリアも花へと視線を戻す。しばらくの沈黙の後、ソムヌスの低めの声が心地良く聞こえてきた。
「結婚を今すぐしよう、とは言えない。いろいろ準備もいるだろうし、考えることもあるだろうから」
「うん」
また話を始めたソムヌスの方を見る。
穏やかな口調で彼は続けた。
「それでも、結婚をするなら君が良い。グロリア、君以外は考えられない」
それだけ言って、満足げに笑ったソムヌスを見てグロリアは言葉を失った。
まるでプロポーズ。しかし、ソムヌスはそれを意識していないのか、平然としている。どうせならもう少し照れた様子で言ってほしかった。照れた顔のソムヌスが見たい。いや、それは置いておくとして。
ソムヌスに限ってこんな大事な話が冗談ということはないだろうが、感情が追いつかない。これに返事をすると、プロポーズを了承したことになるのだろうか。断るつもりはないけれど、どっちなんだろうとグロリアの心中は混乱を極めた。
ソムヌスは何事もなかったかのように、近くの花にそっと手を伸ばしている。その花を傷つけないように優しく触れているのを見ながら、グロリアは口を開いた。
「ソムヌスさん。これって、プロポーズ?」
「え……?」
きょとんとしていたソムヌスが急に口元に手をあてた。自分の言葉がプロポーズに近いことを気がついたのだろう。
紫の髪をかき上げたソムヌスが軽く首を振った。
「いや。ただの宣言だ」
「そうなの?」
グロリアとしては少し照れた表情を見ることができた。じわじわと赤くなってきた顔を覗き込んで、グロリアは微笑んだ。
「私もソムヌスさんと結婚したい」
「……ありがとう」
柔らかい笑みを浮かべたソムヌスがグロリアの右手をとった。そのまま、グロリアの右手を自分の口元へともっていく。
優しく口づけられて、心臓の音がはやくなる。ぶわりと頬の温度が上昇し、心が落ち着かなくなる。
「愛しているよ、グロリア」
「私も、愛してる」
ソムヌスがグロリアの手を解放した瞬間に、彼に抱きついた。それを受け止めてくれたソムヌスの耳元で囁いた。
「プロポーズ、いつでも待っているから」
「それは責任重大だな」
少しソムヌスの声が強張った。緊張を含んだ声が聞こえてくる。
「グロリア、希望はあるか?」
「ソムヌスさんが、私が好きそうなものを考えて。たくさん私のことを考えて」
グロリアのことを考えて、たくさん悩んでほしい。グロリアはソムヌスのことで頭がいっぱいなのだから、ソムヌスもそうなってほしい。
「普段からグロリアのことを考えているが」
「もっと」
「……分かった」
少し困ったような声だが、了承はしてくれる。その言質をとって、グロリアはソムヌスから離れた。
「これからも、記憶消し屋と魔法書専門店で働かせてね」
「いいのか? 店で働かなくても、いつでも会いに来ていいんだが」
「お店にいたいから」
記憶を消すことも、魔法書の発注する書籍を選ぶこともグロリアにはできない。それでも、グロリアはソムヌスの助けになりたい。
ソムヌスの持つものを半分、わけてほしい。
ソムヌスと同じ時間を共有して、同じものを見たい。
グロリアはソムヌスに微笑みかけた。ソムヌスも笑みを返してくれる。
幸せだ。自信をもってそう言える。これからもこの幸せが続くことを強く祈った。




