↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/76

51、様子がおかしい

「ソムヌスさん! お久しぶりです」

「……ああ」


 ソムヌスが数日間店を休む、とアエラスから連絡があり、店の再開の連絡もアエラスから来た。


 アエラス経由だったのは、ソムヌスからの手紙だとグロリアの親が手紙を渡さない可能性があるからだろうか。

 この国で、アエラスの手紙を捨てることができるのは国王くらいだろうから、アエラスを介すのは間違いない方法だろう。


 グロリアが店へ向かうために家を出ようとしたとき、両親は複雑そうな顔をしていた。


 元々、ソムヌスのことは「店主」と説明していたから、グロリアがソムヌスの元へ行こうとしているのは気がついただろう。それでも止めはしなかった。


 そんなことを考えながら、ソムヌスの顔を見る。1週間ぶりのソムヌスだ。

 少し顔色が悪いような気がする。


「体調悪かったんですか?」

「いや、ちょっと兄さんの家でやることができて」


 だからアエラスを経由していたのか。手紙の差出人がアエラスだった理由には納得した。


 グロリアは首を傾げる。ソムヌスの様子はいつもと違う気がする。何が違うかははっきりとしないが。じっと見つめると、ソムヌスは俯いた。


「ソムヌスさん?」

「グロリア……さん」


 ソムヌスがグロリアの方を見たと思うと、そっとグロリアの頬に触れてきた。グロリアは声を出さずに固まってしまう。


「グロリア……」


 ソムヌスに名を呼ばれ、彼の方を見る。しかし、ソムヌスは自分のことを見ているだろうか。自分のことなど視界に入っていないようで、ちょっと不安になった。


「ソムヌスさん!」


 いつもより大きな声で名を呼ぶと、彼はビクッと肩を揺らす。そしてはっとしてグロリアを見た彼の目は、ようやく自分を映していた。


「どうしたんですか? 気分悪いですか?」


 やはり明らかにいつもと様子が違う。訝しむグロリアだったが、ソムヌスは首を振る。


「いや……。大丈夫だ。急に店を休みにして悪いな」

「いえ。私は大丈夫ですが」


 グロリアは、暇になっただけだから問題はない。


「ソムヌスさんは、大丈夫ですか?」


 様子の違うソムヌスの方が心配だ。そう思って見つめていると、彼は金の瞳を真っ直ぐにグロリアへ向け、絞り出すように声を出した。

 

「……君は今、幸せか?」

「え……」


 唐突な質問に意味が分からない。それでも、ソムヌスの顔は冗談に見えない。


「はい。私はソムヌスさんに会うことができて幸せです」


 金の瞳を見開いたソムヌスを見ながら、グロリアは付け加える。

 

「ソムヌスさんとの交際が認められれば、文句なしの幸せです」

「そう、か」


 そのソムヌスの瞳は、愛しいものを見つめているようで。都合の良い勘違いだろうか。それでも、そのソムヌスの瞳から、しばらく目を離すことができなかった。


 ◆


 ソムヌスの様子がおかしい。そんな違和感は、そこから一日中、グロリアを支配することになる。


「それ、重いだろう。俺が持つ」

「いえ、あの。流石にこの小さい箱、1つくらいは大丈夫です」


 少し物を運ぼうとしただけで心配してきたり。


「階段の登り降りは、気をつけて」

「え、あ、はい」


 階段の近くでは不安そうに見つめていたり。


 絶対に何かがおかしい。ソムヌスのことをじっと見つめると、優しく笑みを浮かべた。


「どうした?」

「いえ、あのソムヌスさん。何かありました?」

「……いや、別に」


 気まずそうに目をそらされ、それ以上は聞きにくくなってしまう。違和感はありながらも、その原因が分からない。そのまま閉店の時間になった。


 時計に視線を送ったソムヌスがグロリアの近くまで来る。


「家に帰るだろう? 迎えの馬車まで送っていく」

「すぐそこですよ?」

「駄目か……?」


 祈るような目で尋ねられ、グロリアは言葉を失った。その聞かれ方をされると、否定はしにくい。


「だめでは、ないです」

「そうか」


 そう言って笑ったソムヌスは、やはりいつもと違う。それを疑問に思いながらも馬車へと向かう。


 馬車まではすぐにたどり着く。グロリアは横を歩いていたソムヌスへと向き直った。


「ソムヌスさん、また明日」


 そう言うと、ソムヌスは軽く頷いた。


「グロリア」

「何ですか?」


 ソムヌスはそっとグロリアの銀の髪を手に取ると、口づけた。

 

「……愛しているよ」


 心臓がバクバクと変な音がする。しかし、顔を上げたソムヌスの顔を見た途端、その感覚は消え去った。


 世界から音が一瞬消えた。


 どうしてそんなに、悲しい顔で笑うのか。どうしてそんなに、切なげなのか。


「ソムヌスさん!」


 店の方へと戻ろうとするソムヌスの手首を掴んだ。彼の驚いた顔を見ながら、グロリアは深く息を吸った。


「私も、愛しています。何か、困ったことがあれば教えてください。お話を聞くくらいはできると思います」


 じっとグロリアのことを見つめたソムヌスがふわりと笑みを浮かべた。

 

「ありがとう、グロリアさん」


 店の方へと戻っていくソムヌスを見ながら、グロリアは首を傾げた。


 ソムヌスからの呼び方が「グロリアさん」と「グロリア」で混ざっている。一体なぜなのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。