↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/76

28、思惑

 アエラスの屋敷へと帰る馬車の中。がたがたという音が響く、アエラスとルースの2人だけの空間。アエラスは窓の外を見ていたが、ふとルースを見るとその緑の瞳が自分を見つめていることに気がついた。


「お父様」

「なに?」

「どうして、フラマさんの秘密をわざわざ暴くようなことを? それにちょっとフラマさんに怒っていましたよね?」


 そのルースの宝石のような目に見つめられて、アエラスは口元に笑みをのせる。


「君は何でだと思う?」


 アエラスは、ルースが気がついていることに応じて伝える範囲を決めることにした。だから問いを返す。

 ルースが緑の瞳をアエラスから外さないまま、口を開いた。


「フラマさんが()()()()()()()だから、ですか?」

「流石ルース。正解」


 ルースは聡い子だ。アエラスがあの場を自身の思い通りに動かそうとしていたのに、理由まで予想しながら止めることはしなかった。


 何にも興味がない、と評されることも多いアエラスだが。アエラスにとって、弟のソムヌス、幼なじみのフィニス、息子のルース、そして幼なじみであり、愛した相手のエリーのことは別だ。身内として扱う彼らに対しては、自身の何を使っても守ろうとする。名誉、命、心。全てをアエラスは守ろうとしている。命を懸けてでも。

 

 国王、フィニス・テンペスタス。アエラスの2歳年上の幼なじみ。


「ソムヌスが言っていたでしょう? 何で彼が国王直属の部下なのかって」

「はい」


 ルースはアエラスの言わんとすることは分かっているのだろう。それでもアエラスは口にする。


「そう思わせる行動はだめだ。絶対に」


 フラマ・ヴァラトスが、自分を偽ってソムヌスと親しくなろうが、ソムヌスに害がないなら、放っておいただろう。さほど興味はない。しかし、今回は別だ。国王直属の部下というのを明かした上でした行動なら、話は変わってくる。


「ソムヌスだったから良い。ちゃんとフィニスのことを理解しているから、国王の目を疑うことはない。でも、他の人なら?」

「国王、フィニス・テンペスタスの人を見る目が疑われるから、ですよね?」

「そういうこと。だから、フラマくんには自覚させる必要があった」


 フラマの行動は、彼が自分を偽っていることに気がついてしまったアエラスから静観するという選択肢を奪った。

 

「彼自身は優秀だ。それでも、自分のままぶつかってソムヌスと仲良くなれる自信がなかったんだろう。だから、演じた。そして良くも悪くもそれはうまく行った。結果的にソムヌスに名前を覚えさせたんだから」


 優秀だったからこそ、ソムヌスのフラマを疑うような発言が不可解だったのだ。そしてフラマの様子をうかがうと、いつもとは違う。職場じゃないから、どころの違いではない。明らかに作っている表情だと気がついた。

 

「じゃあ、最後に囁いたのは?」


 ルースに問われ、アエラスは口元に笑みをのせた。

 

()()()()()()()()()()()()()、暴くことはしなかったのにって」

 

 アエラスが問題視したことは国王(フィニス)の直属の部下だと明言したことに尽きる。仮に自身の名を勝手に使ったとしても、怒ることも注意することはなく、見て見ぬふりをしたことだろう。むしろ、ソムヌスのことを本気で考え、向き合おうとし、手を伸ばそうとしたフラマの手助けをしたかもしれない。

 

「ソムヌスの気を引きたいのなら、私の名を出せば良かった。演じるのなら、演じきらないと」


 アエラスは口の端を持ち上げるようにして笑う。そんなアエラスを見つめていたルースがぱちりと瞬きをした。

 

「お父様がそこまで気にするのは、『救国者』の方が上に見られる可能性があるからですよね?」

「そうだね。フィニスの評判を少しでも下げるくらいなら、私の評判が下がった方がいい」


 フィニスの助けになるために『救国者』という責を負ったはずなのに。それが逆に国王の地位を下げることになるのなら。アエラスは躊躇なく自身の名を落とす覚悟はある。


 国王、フィニス・テンペスタスの能力が疑われるような火種を残さない。

 そのためだけにアエラスはあの場を掌握した。


 もちろん全てが上手くいったわけではない。そんな力はない。アエラスは息を吐いた。


「まあ、こういう計画も後輩指導も私の得意分野じゃないからね」


 基本的にアエラスは魔法の力で押し切れる、と思っている。だからこそ丁寧な計画など自分で立てようと思えない。

 

「フィニス陛下は得意そうですね」

「うん。フィニスならもっと上手くできた」


 救国者だとか言われているアエラスだが。それはフィニスの道具としてだ。アエラスはフィニスの言った通りに動き、言った成果を出した。ただそれだけ。

 アエラスが自分で策を考えるのなんて稀だ。今回のような誘導も、後輩への指導も、ほとんどやらない。いつもならその必要がないから。

 アエラスはフィニスの臣下(どうぐ)に徹することをとうの昔に決めている。

 

 慣れないことをするものではない。アエラスはスカイブルーの髪をくしゃりとかきあげた。


「もっと上手く誘導できたら良かったんだけど。あまりに強引だったかもね」


 そう言ったアエラスに、ルースが何かが気になったようで動きを止める。時が止まったようにアエラスを見つめた。すぐに目を見開く。ルースから出た声は震えていた。

 

「いえ。違う。違いますよね? お父様。わざと強引にしましたよね? そうした方が、フラマさんがお父様の意図に気がつくから」


 アエラスは返事をせずに笑みを浮かべた。そこまで伝えるつもりはなかったが、ルースには気がつかれてしまった。

 本当ならフラマだけが気がつく程度の強引さにしたかったが。グロリアやソムヌスも疑問に思っていただろう。そういう意味では成功した、とまでは言えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。