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ロンドン  作者: 東堂 アカリ
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ありがたいことに、メアリー様はわたくしを慕ってくださいました。現在の立場はわたくしの方が上ですが、メアリー様を尊重する気持ちを忘れたことはございません。ヘンリー様は、跡継ぎには是非とも男の子を、とお考えですが、わたくしはメアリー様が後を継いでも良いのではないかと思うのです。そのようなことを考えてしまうのは、わたくしには行き過ぎたことなのでしょうが。

 心満たされる穏やかな日々はあっという間に過ぎ、ある日、わたくしは腹部を細い針のようなものでつつかれるような違和感を感じました。近くにいた者たちが急いで医者を呼び、すぐにお産の準備が始まりました。

 「怖がることはありません」「息をしっかりと吸ってください」と言われ、痛みがだんだんと強くなってきます。やがて強い痛みの間隔がどんどんと狭くなっていき、何も考えられないほどの痛みがやってきました。

 どのくらい時がたったのでしょう。わたくしが苦しさから解放されることはなく、痛みが身体じゅうの力を奪ってゆきます。最初ははっきりと聞こえていた周りの声も、だんだんと音がしているとしか感じられなくなりました。痛みに耐えるためにきつく目を閉じているため、今いる場所がどこなのか、忘れそうになります。わたくしは、永遠にこの痛みや苦しみから逃れることは出来ないのかと思い、諦めていたところ、突如、身体からなにか熱くて大きなものが離れたのを感じました。

 気がつくと、ずっとそばにいてくれた侍女が、嬉しそうに「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」と教えてくれました。わたくしは嬉しさとほっとした気持ちで深い眠りに落ちたのです。

 しばらくしてから、わたくしは誰かが激しく言い争っている声で目を覚ましました。お産の疲れで思うように身体が動かないなか、何とか頭を動かしてそちらを見ようとしました。

「まだ、とても動かせる状態ではありません。3日もかかって出産したのですよ。まだ休ませなくてはなりません。」

「でも、決まりなので是非出席していただかなくてはなりません。これは私が決めたことではなく、陛下が決めたことなのですから。」

 二人の言い争いは続き、わたくしは再び睡魔に襲われました。そして、意識を手放す直前に気づいたのです。あの二人はわたくしのことで言い争っていたんだわ、と。


 次に目を覚ましたのは、誰かがわたくしを呼んでいるような気がしたからです。耳元で呼びかけてくれていたのは、お産を手伝ってくれた産婆でした。彼女は心配そうに言いました。

「お妃様、体調はいかがですか。この三日間、ほとんど意識がなかったのですよ。本来ならば、もっとゆっくりとお身体を休めていただきたいのですが、王子さまの洗礼に出席していただかなくてはならないそうです。」

「・・・」

「私は御止めしたのですが、決まりだからと王様に言われてしまいまして・・・どうかお許しください。ただ、私たちもお傍にいて、お妃様の体調を見守りますので。」

彼女は申し訳なさそうに何度も謝るので、こちらが気の毒になるほどでした。わたくしはゆっくりと頷きました。周りにいた者たちも、安心してほっと息をしたのが分かりました。ある者は、急いで飲み物やスープを用意してくれました。

 冬だというのに、わたくしの部屋は春のように暖かいです。決して狭くはないこの部屋を、ずっと暖め続けてくれたのでしょう。わたくしは感謝しながら、久しぶりにゆっくりと食事を取りました。

 その後も、相変わらず寝たきりの生活が続きました。医者からは極力動かないようにと言われていたので、体調の良いときに息子であるエドワードを連れてきてもらいました。綺麗で可愛らしい赤ちゃんを見て、また涙が出そうになります。神様に、こんなに素晴らしい子を授けていただき、感謝の気持ちでいっぱいになりました。以前のように元気になったら、エドワードと一緒に、神への感謝の祈りを捧げなくてはと思いました。

 また、ヘンリー様もお越しになり、王子の出産を大変喜んでくれました。

 しかし、別れ間際に言われた言葉に、わたくしは凍りついてしまいました。

「早く元気になってくれ、妃よ。エドワードだけでなく、もっと子を産んでもらわなくては。」



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