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ロンドン  作者: 東堂 アカリ
12/15

 ヘンリー様とアン様の結婚は、突然終わりを告げました。


 皆いろいろな噂をしておりましたが、アン様が流産してしまったことが原因ではないかという話は、あっという間に広がりました。さらに、流産したお子様は男の子だったという噂も聞こえてきました。子供、特に男の子への執着が異様に強いヘンリー様は、アン様を見限ったようでございます。我が家に、内々に婚約の打診が来ました。打診といっても、要は命令でございます。わたくしに拒否することは許されません。そして、その返事をした次の日、アン様は姦通の罪によって投獄されることになったのでございます。


 アン様がヘンリー様との結婚を望み、その隣に立つと言うことは、おそらく神に許されない罪深いことだったのでしょう。ですから、あんなにも短く、妃という称号すら奪われて最後を迎えてしまった。

 しかし、わたくしはどうでしょうか。ヘンリー様の隣に立ち、キャサリン様のように民を守ることが出来るのかと問われれば、その覚悟すら無いとしか申し上げられません。わたくしは、ヘンリー様の考えに従って動き、議会や国民が願っていることを淡々とこなしていくことで精一杯でしょう。そういった意味では、わたくしはアン様と何ら変わらない、愚かなひとりの女でございます。


 アン様が処刑され、すぐにわたくしたちは結婚いたしました。わたくしは盛大な結婚式をすることを断り、その控えめなところが良いと王を喜ばせました。わたくしは、ただキャサリン様を差し置いて妃というものになることに引け目を感じていただけですのに。

 結婚してからすぐに、王はわたくしに政治への介入を禁じました。そのため、わたくしの親族が出世する手助けをすることは出来ませんでした。最初の頃は、家族から出世を口添えするよう手紙が来ておりましたが、王から政治への口出しが禁じられていることを伝えると、やがて、そのような連絡は途絶えました。

 わたくしは、公の席で、やや後ろにいる父や兄たちを見ては微笑みかけるのです。


 どうですか。わたくしはあなたたちの言う通り、望みもしない妃という立場になりました。あなたたちは、己の私利私欲のためにわたくしを差し出しましたが、望み通りのものが手に入りましたか。わたくしは、これからもここからあなたたちを見ていることでしょう。皆が望む、浪費しない敬虔なカトリック教徒の妃として。ですから、どうかいつまでも、その場所で見守っていてくださいね。


 やがて、わたくしはヘンリー様との子を授かりました。医者からの報告を聞いた時、ヘンリー様は「お腹の子は男の子だ」と確信されたようでございます。わたくしは、子供を授かったことにほっといたしました。本当は、子供の性別なんて関係なく喜びたかった。しかし、それはわたくしの立場では許されないことでございます。どうか男の子でありますように、との祈りは出産まで続きました。

 わたくしの出産が近づいてきたころ、実家から悲しい知らせが届きました。父が亡くなったということです。わたくしは静かに涙を流しました。あんなにも地位や権力に固執し、兄たちをヘンリー様に仕えさせ、娘は王妃にまでなったのに、結局、自分は何も手に入れることが出来ないまま神のもとへ行ってしまった。せめて、わたくしが子を産んだ後であれば、その子が男の子であれば、「次期国王の祖父」として葬られたものを。

 最後まで地位にこだわり、権力というものに降りまわされ一生を終えた父のことを思うと、神はそれを赦されるだろうかと思い、わたくしは静かに祈りを捧げるのでした。


 わたくしが妃になったとき、どうしてもやらなければと思っていたことがございます。それは、キャサリン様の忘れ形見である、メアリー様の立場をしっかりとしたものにすることでございます。メアリー様は、本来、王の第一子として様々なことを担わなくてはならないはず。しかし、アン様による様々な嫌がらせにより、今は息をひそめるようにして暮らしておいでです。わたくしも掛け合い、ヘンリー様の出した条件をのむことで、メアリー様と再び交流することができるようになりました。ヘンリー様とメアリー様、そしてわたくしの3人で出かけることも多くなりました。メアリー様に、キャサリン様の面影を感じるたびに目頭が熱くなったものでございます。キャサリン様をお慕いしていたものの、最後までお仕えすることが出来なかった。せめてメアリー様だけでも、これから幸せになっていただきたいと思うのでございます。


 



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