03 ついでにもう一人助けてしまった
翌日、私はまた山に向かった。昨日浮かんだアイデアを実行に移す為。
この山に自生するポル茸は滋養強壮効果がある。これに私が光魔法増し増しにしたら、どうだろう?
食べたら、元気にならないかな?普通のポーションだって、作る時に光魔法を加えると、効果が倍増するってお父さんが言っていた。
特に今の時期のポル茸は効果が高いと言うしね。
家から持ってきたカゴに見つけたポル茸を入れながら、キョロキョロとポル茸を探していると、目の前にポル茸を載せた手が差し出された。
「これ。」
見上げれば昨日の男の子が立っていた。
「あ、おはよう。」
「あ……お、おはよう。」
子供のくせに眉間に皺を寄せている。美形は得ね。そんな顔までかっこいい。あ、でも私も顔立ちは良いんだった。すぐに忘れるけど。
関わらないでおこうと思ったのに、会っちゃうなんて、不思議な気分。
「マリア、さん。」
え?さん付け!この子の雰囲気なら呼び捨てだと思ってた。
「は、はい。」
「頼みがある。昨日の回復魔法を俺のじいにもかけてくれないか?」
「いいけど?」
「良いのか?こっちだ。案内する。」
「う、うん。」
私は男の子に手を引かれたと思ったら、目の前の景色が変わった。小さな木の小屋で、中から変な匂いがする。
窓の無い小屋を開けると、その匂いが外まで溢れてきた。何かが腐っているような匂い。
匂いで吐きそうになるので、とりあえず腐敗解消の魔法を男の子仕様でかけると、吐きそうな匂いが落ち着いた。
何でか男の子の顔が泣きそう。
「入っていい?」
「うん。頼む。」
小屋に入ると全身瘡蓋だらけの人が木の床に薄い布を引いて寝てた。痩せて骨だらけで苦しそうに息をしている。
こんなに病気の酷い人は初めてで、上手く治せるか分からないけど、私はしゃがんで男の人に回復魔法をかけた。
徐々に魔法が染みていくのが分かる。大丈夫。私の魔力にはまだまだ余裕がある。もう少し増やして、この人の体力回復にも魔法を回して……
瘡蓋が勝手にポロポロと落ちて、男の人の呼吸にゼイゼイと言う音が混じらなくなった。
でも、まだ。
「じい!」
「まだ!!」
男の子が泣きながら近づこうとするから、私はそれを手を挙げて止めた。何故か男の子は近づかせてはいけないと思ったから。
まだ男の人の体の中心に赤黒いものがある。それは体の中でぶるぶると震えながら、消えようとしない。なんだろう。意思がある感じ。とても嫌な感じがする。
生意気よね。よし、パワーアップ!!!いっけぇ!!!!
赤黒いものが一瞬膨らんだかと思ったら固まって消滅した。ふ、勝ったわ。私の勝ち。
「勝ったわ!」
「勝った?何に?」
「え、ええと、もう大丈夫って事。」
「ありがとう。」
う、眩しい。美形の涙を浮かべた嬉しさ爆発の笑顔って、なんて綺麗なの。
「じい。」
「坊っちゃま。」
「助かって、良かった。」
「坊っちゃま。」
その時に私は気がついた。坊っちゃま。この子っていい家の子だったんだ。でも、昨日は薄汚れていたよね?どうして?
「マリア、さま。」
おうふっ。さまづけに昇格したよ。
「本当にありがとう。俺の一生をかけて、あなたに尽くすから。なんでも言って欲しい。」
「い、一生?!」
お、重い。重すぎる。なんか、なんだろう、逆に不安?
「い、良いって。大した事ないから。じ、じゃあ、帰るね。」
そう言って彼に背を向けて、はたと、気がついた。ここどこ?
「家まで送る。」
「あ、ありがとう。」
彼が少しだけ微笑んだ。その笑顔についつい私の顔にも笑顔が浮かぶ。美形の笑顔って凄いわ。
「でも、家じゃなくて山に戻ってくれる?キノコを取りに来たの。」
「さっきの?」
「うん」
「後で採ってきて届ける。」
「え?取りに行ってくれるの?」
「マリア様は俺の主だから。」
「え?」
驚いているうちに家の前にいて、もう彼はいなかった。そう言えば、まだあの子の名前を聞いてなかった。今度会ったら名前を聞こう。
彼が約束通り籠いっぱいくれたポル茸と、自分で取ってきたポル茸に光魔法をモリモリにかけてみた。
かけてみたら……金色に光った。マジで?
この体に良い……かもしれない……茸を前に、私は重要な事に気がついた。
おじいちゃんの家ってどこ?
届けられないし、遠ければ、茸は腐ってしまう。
どうしよう。なんにも考えてなかった。