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「ではお疲れ様でした」

「うむ」


 宰相のクラウス・シグムントが今日の仕事の終わりを告げて辞していった後、ソファに座ると「ふう」と大きく息をすると、やや冷めた紅茶を一口。すると、コンコンとノックの音がする。


「入れ」

「失礼します。食事の用意が整いました」

「わかった。すぐ行く」


 自分の母親ほどの歳の侍女に首肯するとあとについて食堂へ向かい、家族とともに夕食。それを終えると湯浴みして柔らかなベッドへ。


「そろそろこの生活も四十年か」


 長いようで短かった、と言う感想はない。さすがに四十年だからな。

 そう、四十年前まで、俺は日本で暮らす、これと言って特徴のないおっさんだった。




「ん?ここは?」


 気付くと俺は真っ白な空間にいた。

 ここはどこだろうとキョロキョロしていたら、すぐそばに光が集まり、女性の姿になった。


「岡本勝巳さん……あなたは死にました」

「はあ」


 50過ぎていたし、不摂生がたたったかな。会社の健康診断で要精密検査とか通り越して「生活の指導が必要です」とか書かれてたし。


「大変申し上げにくいのですが」

「はい?」

「実は、岡本様の死は予定外でして」

「へ?」

「岡本様が死ぬのはもっと先の予定だったのです」

「えー、どういうことですか?」

「あまり詳しくはお教え出来ないのですが……申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げられたけど、それでどうしろと言うのだろうか。


「そこで、お詫びと言っては何ですが」

「はい」

「元の日本に戻ることは出来ないのですが、他の世界への転生を、と」


 どっかで聞いたことがあるな。異世界転生だっけ?


「ええと……詳しく教えてください」

「ええ。まず、転生する先の世界ですが、剣と魔法のいわゆるファンタジーな世界です」

「ファンタジーですか」

「はい。転生するにあたっては、転生後の生活をサポートするために色々と便宜を図らせていただきます」

「色々と便宜ですか」

「はい。もちろん「さすがにそれは」という限度は御座いますが、極力ご希望に添うようにと考えております」


 なるほどね。


「この手の定番だと、すごい魔法が使える、とかそういう系ですか?」

「はい。さすがに世界を破壊するほどの威力の魔法は使えませんが、降りかかる火の粉を払うくらいは容易(たやす)い魔法が使えるようにすることは出来ます。魔法をお望みですか?」

「あ、いや……そうだな。じゃあ」


 微妙に曖昧で所々具体的な要望は、その神様っぽい人的にはかなり意外な内容だったらしいが、それでも最後は、


「ま、色々チートてんこ盛りよりマシか」


 と言う一言で全て叶えられた。

 こうして俺は、マリンフェ王国の第一王子として転生したのだった。




 マリンフェ王国を一言で言うと、のどかな国。地理的な事情もあるのだが、これと言った特産品があるわけでもなく、裕福でも貧乏でもない微妙なラインのおかげで他国が攻めてくることもない。最後に戦争らしい戦争があったのは数百年前らしく、王国の騎士団が主に相手にするのは村を襲う魔物とか盗賊がメイン。

 盗賊がいると言っても、騎士団が向かえばすぐに討伐されるし、魔物が出ると言っても、デビュー二年目くらいの冒険者が数名で向かえばどうとでもなるレベルばかり。発生頻度は高いが危険度が低く、その割に魔物素材がよく手に入るので稼ぐにはいいらしく、冒険者の数も質も高いので、安心して任せておける。

 そう、あのとき聞かされたように、この世界は剣と魔法の世界で、魔物がいるし、ダンジョンだってある。そして、魔物を狩ったり、ダンジョンを探索したりする冒険者がいて冒険者ギルドがあって、と言う世界。

 そんな世界への転生で俺が願ったのは一言で言えば、平和で穏やかな生活だ。

 具体的には衣食住に困ることなく、日本にいた頃と比べてあまり生活水準が落ちないことを願った。

 その結果が、第一王子としての人生。

 極端な金持ち国家でもなく、今にも傾きそうな貧乏国家でもないというマリンフェ王国の第一王子だ。そして俺の暮らす城には日本人が好みそうなタイプの大浴場があり、トイレも一応は水洗。食事もウマい。米もあるし、味噌醤油もあり、実は少しだけど海に面していて新鮮な魚が獲れて、刺身も食える。

 さらに言うなら国王という立場上、複数の女性を(めと)るのが当たり前で、第三王妃までいて、息子と娘が二人ずつ。幸いなことに後継者争いみたいな事は起こっていないので、このまま行けばあと数年で俺は引退し、第一王子に王の座を譲ることになるだろう。そうしたらあとは悠々自適。




 まさにあの神様は俺の願い通りにしてくれたというわけだ。




 ただ一つ、たった一つだが不満がある。

 これは、俺が要求した穏やかな生活を実現するために、比較的温暖な気候帯のマリンフェ王国でも、時期によっては……と言う奴だ。




 石造りの城ってさ、夏は暑さがこもって、冬は底冷えするんだよ。

 靴下を重ね履きして、毛布を三枚重ねているのにベッドの中でも凍えるほどに寒い。

 国内はもちろん、世界を見渡してもトップレベルの質の高い建物でこれだから不満を口にしたところで解決しない。たった一つ、これだけが不満なんだが、ラノベで転生した連中、こう言うのは気にならなかったのかね?

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