01
辺りはもう暗くなっている。僕は家に向かって歩いていた。
「新作早く読みたいなぁ」
人気のミステリー作家の新刊が出て、やっと手に入れた。その事が嬉しくて、ついつい声を出して、そんな事を言ってしまう。
「どんなトリックだろうか」
なんとなく、どういう事件が起こるのか、あらすじを読んで知っていた。そこからすでにいろいろな妄想をして、新刊が手に入らない時間を過ごした。やっと、どんな事件で、どんなトリックが使われるのか、楽しむ事ができる。
ミステリー小説という物は、最高の読み物だ。自分の推理が当たった時の快感は、癖になる。外れたとしても、それはそれで楽しめるのだから、その評価は妥当だろう。
「早く青にならないかな」
僕は横断歩道に差し掛かって、足を止める。赤になる前に、走ってわたってしまおうかと思ったけど、やめておいた。そこを渡ったとしても、帰り時間がそれほど速くなる訳ではない。
後から来た何人かの人たちが、横断歩道に並び始める。視界の端にトラックのライトが見えた。僕は少し後ずさる。なんとなく大きいトラックだったから、心理的に怖かった。すると、背中に何かが温かみを感じる。誰かが背中に触れたらしい。思った以上に後ろの人との距離が短くて、その人が咄嗟に手を出したのだろう。僕は謝らないといけないと、後ろを振り返ろうとする。すると。
「あっ」
僕は振り返りかけた変な体勢で、道路に飛び出してしまう。一瞬何が起こったか、わからなかった。でも迫るトラックが目に入り、それがスローモーションに見えて、妙に頭が冴えて、理解してしまった。僕は後ろから押されたのだ。
変な体勢だったせいで、すぐには動けない。いや、ちゃんとした体勢だったとしても、たぶん動けなかった。僕は押した人間に視線を送る。暗くてよく見えない。通り魔だろうか、それとも顔見知り。動機は何だろう。恨まれていたか、ただの快楽殺人か。どっちにしても、この状況では、事故に見える可能性がある。証拠を。殺人とわかる物的証拠を残さなければ。嫌に冷静にそこまで考えて、僕の意識は途切れた。
※
「……あれ」
僕は目が覚めると、真っ白な場所に居た。真っ白というより、光が溢れている場所という方が、正しいだろうか。
「こんにちは」
僕が視点を定められずにいると、そんな声と共に、誰もいなかったはずの場所から、女性が現れた。
「え?! なに?!」
僕は身構えて、突然現れた女性に、そう問いかける。女性は優しく微笑んで口を開いた。
「峰武屋 縁、あなたは死んでしまったのです」




