第33話:決戦
ミカエル軍の本陣を、ボクたちはかく乱攻撃していた
「ハルク君。ハメルーンの街の方から、何か接近してきます!」
サラの指した方向から、こっちに突撃してくるのは完全武装の騎士団。
ミスリル武具を装備したミカエル騎士団だ。
「あの虹色の武具は……ハルク、奴らの武具は、もしや……?」
「はい、ドルトンさん。前の仕事で、ボクが作った物です。今まで言えずに、ごめんなさい……」
ボクがミカエル王国にいたことは、まだハメルーンの誰にも言っていない。辛い過去だったので、ドルトンさんも言えずにいたのだ。
「謝る必要はないぞ。鍛冶師たるもの、こうことは必ず起きる。武具の使い手は、自分では選べないからのう」
「ドルトンさん……はい、ありがとうございます!」
熟練の鍛冶師のドルトンさんに言われて、急に心が軽くなった。とても深い言葉だった。
もしかしたら、この人も鍛冶師として、過去に色んな辛い経験をしてきたのかもしれない。体験談からくる深い重みの言葉だった。
「それより、ハルク。奴らの装備の詳細は、どうなっている?」
「えーと、鎧には“防御力向上”と“状態異常耐久”が。武器には“攻撃力向上”を。あと馬には“速力向上”が、かかっていると思います」
ミスリルで作った武具には不思議なことに、特殊な能力が付与される時がある。
ミカエル騎士団の装備品にも、実験段階で色んな能力が向上していたのだ。
でも、ここだけの話。ボクの中では、あまり上手く作れた方ではない。
「それは厄介じゃのう。敵に回すと、これほど危険な武具か、ミスリルは。さて、どうする、ハルク?」
「見たところ、彼らが軍の主力です。ここで無力化します!」
ミカエル王国で、ボクは沢山の武具を作ってきた。
でもミスリル製の武具の数は、それほど多くはない。
数的に接近してくる騎士団の装備品が、ミカエル王国が所有するミスリル武具のほとんど。
つまり彼らを倒して回収しておけば、今後のミカエル王国の脅威は、格段と低くなるのだ。
「『ミスリル武具の騎士団を無効化する』か。簡単に言ってくれるな。む、来るぞ、ハルク!」
移動していると、前後からミスリル武具の騎士団が接近してきた。
軽量なミスリル武具と、馬具の速力向上で、通常の騎馬隊以上の速力を相手は出せるのだ。
これはマズイ状況。
こままでは挟み撃ちにあってしまう。
さすがにミスリル武器の突撃をくらったら、“ハルク式荷馬車《改》”でも無事には済まないだろう。
ミカエル騎士団は段々と迫ってきた。
……「ヒャッハー! このまま押し潰せ!」
……「絶対に逃がすなよ!」
……「あの変な荷馬車の魔獣を、討伐するぞぉお!」
耳の良いボクには聞こえていた。
挟撃に成功して、相手は勝利を確信している。
このままではマズイ。
だがミスリル防具の効果で、麻痺ポーション弾や催涙弾も効きづらいだろう。
何か策を講じないと……あっ、そうだ!
すぐさま実行に移す。
「ドルトンさん、次のポーション弾は四番って書いてあるのを、お願いします!」
「四番じゃと? これか……セット、完了したぞ」
「よし、サラ。次弾は思っきり、手前に発射をして」
「手前に? 分かりました! 発射!」
キュイーーン、ドーーン!
サラが引き金を引いて、ポーション弾が発射。
ハルク式荷馬車《改》のすぐ目の前で破裂する。
シュワーーーーン!
直後、目の前が白い煙で被われる。
一瞬にしてミカエル軍の本陣は、煙幕に覆われていく。
ボクが指示した四番弾は“煙幕ポーション弾”。
鉱山にいた煙を吐く害虫の素材から、サラに作ってもらったものだ。
「ハ、ハルク君⁉ 前が見えないです⁉」
「おい、小僧⁉ このままでは、ぶつかるぞ⁉」
「いえ、大丈夫です。ボクに任せてください」
ボクは運転しながら目を閉じ、耳を澄ます。
周囲のミカエル兵の金属音を、集中して聞き分けていく。
キーン、ガチャ、ガチャ、ドチャ、ドチャ……
「――――よし、見えた! このルートだ!」
ボクはハンドル操作して、煙幕の中をハルク式荷馬車《改》を走らせていく。
「お、おい、大丈夫なのか、ハルク? ――――オ、オヌシ、目を閉じているのか⁉」
「あっ、はい、そうです。でも金属の音で、周囲の把握はしてあるので、見なくても大丈夫です!」
煙幕で視覚が無くなり、ボクが頼りにしたのは自分の耳。
兵士たちが身につけている武具や、服の金具の金属音を聞いて、ミカエル軍の全ての位置情報を把握。
把握した位置情報で運転していた。
昔から金属の音を聞き分けるのは、ちょっとした特技なのだ。
そしてボクが向かった先は、ミカエル軍の本陣の中心地。
キッ、キキーー!
急ブレーキをかけて、中心地で車体を止める。
周囲を確認。手元のスイッチに手をかける。
「よし、いくぞ……【全方位ミスリル電導索】!」
スイッチを押した直後。
ヒューーーン、ドン。
車体から十二本のミスリル製の電導索が、全方位に発射される。
「ミスリル・モーター出力、解放!」
ボクの叫びと共に、ミスリル線に稲妻が走る。
稲妻は周囲にも放電され、全てのミカエル兵に襲いかかる。
ビリビリ、ビリビリ、ビリビリ、ビリビリ、ビリビリ、ビリビリ!
ハルク式荷馬車《改》の周囲が、強烈な光に包まれる。
まるで陽の中のように、周囲が明るくなる。
しばらくして何事も無かったかのように、光は消えていく。
「ハ、ハルク君……今の光は……?」
「何じゃ今のは? なっ――――ミカエル軍が⁉」
「えっ⁉」
周囲を見渡し、サラとドルトンさんは言葉を失う。
何故なら煙幕が風で晴れ渡った後、広がっていたのは異様な光景。
戦場にいた全てのミカエル兵が、その場に倒れ込み昏倒していたのだ。
先ほどのミスリル武具の騎士団も、うめき声を上げながら馬から落ちている。
戦場で無事な者は、誰もいない状態だった。
「ふう、良かった。無事に成功したな」
「ハルク、今のはいったい……?」
「はい。これは【全方位ミスリル電導索】と言いまして、前の魔物退治用の“ミスリル電導索”を、人用に改造した兵器です!」
“ミスリル電導索”は最近、ボクが作った魔物採取用の道具だ。
鉱山時代に収集していた魔石は、特殊な機器を使うと“痺れる光”を発生する。
ミスリル・モーターを回している動力エネルギーと同じだ。
今回はそれを兵器として対人用に、“痺れる光”として強化。
ボクが押したスイッチによって、全方位にミスリル製の電爆線を射出。
放電効果もあって広範囲の、ミカエル兵を痺れさせたのだ。
今回はハルク式荷馬車《改》のメインモーターを回している、大きめの魔石を使った。
出力は大きいが移動中は発動できないのが、【全方位ミスリル電導索】の唯一の弱点だ。
「なっ……⁉ 説明を聞いて、よく理解はできないが、とにかく、とんでもない兵器じゃな」
「たしかに、そうですね。ボクもここまで広範囲の威力があるとは、思ってもみませんでした」
予想以上の広範囲威力だった。
見たところ、動けるミスリル兵は一人もいない。
かなり広範囲まで放電されていたのだ。
だが死人が出た感じは、今のところはない。
予想以上の攻撃力だったけど、予定通り死人は一人も出さずに、相手を戦闘不能に出来た感じだ。
「ん? あれは?」
そんな戦場で、一人だけ動く人がいた。
ハルク式荷馬車《改》のすぐ近くにいた人だ。
おそらく近すぎて、放電攻撃をあまり受けなかったのだろう。
かなり服はボロボロだが意識はあるようだ。
「あれ……あの人は……?」
動いている人に、見覚えがある。
一人だけ豪華な鎧とマントを着た、小太りな中年男性だ。
「あれは……ミカエル国王だ」
一人で逃げようとしているのは現ミカエル国王。
ボクを追放した本人であり、今回の戦争を引き起こした調本人だ。
こうしてボロボロになった独裁者と、勝者となったボクは再会するのであった。




