↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/77

第31話:ハメルーン軍 VS ミカエル軍

 《ハメルーン国の第三王女マリエル視点》


 ハメルーンの街の囲む城壁の上に、マリエルは立っていた。

 東の方角から土煙を上げて、こちらに向かってくる大集団が見えてくる。

 隣国であるミカエル王国の騎士兵士団だ。


 先日、戦を前に、ミカエル国王は使者を送ってきていた。

 ミカエル国王からの手紙の内容は、次の通りだった。


 ――――◇――――


 ・全面降伏をしなければ、すぐさまハメルーンを攻め落とす。


 ・全面降伏をしてもハメルーン国主と親族、家臣団は責任をとって全て処刑。またハメルーン市民は奴隷として、全ての財産を欲衆。


 ・また全面降伏をしなければ、ハメルーンの街は全て焼き払い地図上から消す。


 ――――◇――――


 この内容を聞いて、もちろんハメルーン国主と家臣団は激怒。

 残る市民や民兵にも伝えられて、市民も怒りをあらわにしていた。


 両国は歩み寄ることなく臨戦態勢へ。

 そして今、ミカエル軍とハメルーン軍の戦いが、幕開けとなったのだ。


 ◇


 戦は既に始まっていた。

 ミカエル軍の先陣の歩兵部隊が、押し寄せてきたのだ。


「敵を城壁に近づけるな!」


 数で圧倒的に劣るハメルーン軍は、籠城戦を選択している。

 街の周囲を取り囲む城壁の上に、兵の多くを配置。

 弓矢と投石で応戦する戦法を取っていたのだ。


「父上、矢の補充を持ってまいりました!」


「おお、マリエル。だが無理はするな!」


 第三王女マリエルも甲冑を着て、最前線の東の城壁の上にいた。

 彼女は幼い時から武芸の稽古もしてきた。微力ながら後方支援をしていたのだ。


「むむ? きたな。よし、今だ! 放てぇ!」


 一番の激戦地、東の城門を指揮していたのはハメルーン国主。

 小国であるハメルーンは、国主ですら前線に立つ必要がある。


 また多勢に無勢の戦いのため、味方の士気を上げるため、国主が先頭に立っていたのだ。

 その甲斐もあって、東の城壁の守備兵は奮闘していた。


「殿! 敵の第一陣を退けましたぞ!」

「よし、でかしたぞ!」


 ハメルーン防衛隊は敵の先陣を退けた。

 押し寄せる敵を、弓矢と投石で追い払ったのだ。


「ふむ。奴らはかなり強行軍で、ここまで来たのだろう。攻城兵器がまだないのが幸いだな」


 国主の言葉の通り、ミカエル軍には城を攻める攻城兵器がなかった。

 今は騎馬の騎士団と歩兵だけ。


 いくら多勢とはいえ攻城兵器さえなかったら、ハメルーン軍は何とかしのげるのだ。


「お父様、あとは近隣の都市国家からの援軍や、ララエル殿の動きまで、耐えられたら……ですね」


「ああ、そうだ。猛攻さえ耐え切れば、ハメルーンの勝ちだ!」


 開戦を前にしてハメルーン国主は、いくつかの策を放っていた。

 まずは近隣の都市国家に、援軍の要請を出している。


 ……『ミカエル国王は欲の強き者。ハメルーンが落とされたらなら、次は貴国がターゲットとなるだろう。その前に協同してミカエル軍を挟み撃ちにするべし!』という要請だ。


 おそらくは何カ国かは、援軍に応じてくれる計算。

 ハメルーン軍が二週間ほどしのげば、援軍が挟撃してくれる予想だ。


 あと、もう一つの策は女騎士ララエルによる、王都での反乱。

 国主は彼女が去る前に、資金や軍馬の援助をしていた。


 上手くいけば一週間以内には、王都で何か動きがあるはず。

 そうなればミカエル軍は戦どころではなく撤退していくのだ。


「とにかく街の城門さえ守れば、我らの勝ちだ! 兵は少ないが補給物資は多い。この戦、必ず勝つぞ」


「「「うぉおおおお!」」」


 国主の言葉を聞いて、周囲のハメルーン兵士は雄叫びを上げる。


 彼らは専門の騎士や兵士もいるが、その多くは市民兵だ。

 練度は高くはないが、家族を守るために士気は誰よりも高かった。


 そんな時、見張りの兵士が“何か”を発見する。


「敵の第二陣が来ます! ん? なんだ、アレは?」


 見張りが疑問に思うのも無理はない。

 迫ってきたのは騎馬だけの部隊。

 普通は城攻めには騎馬部隊は、あまり向かないのだ。


「よし、矢と投石の準備をしろ! 奴らを歓迎するぞ!」

「「「はっ!」」」


 ハメルーン軍は再び迎撃の体勢にはいる。

 今度はハシゴや大盾を、もたない騎兵だけ。上から一方的に攻撃するだけの、簡単な作業なのだ。


「ん? お父様……あの騎馬隊……何か、変ですね?」


 最初に違和感に気がついたのは、目が良い王女マリエル。接近してくるミカエル騎馬隊が、何かがおかしいと。

 一切の回避行動もせずに、無策に直進してくるのだ。


「あまり気にするな、マリエル。よし、そろそろ発射するぞ。奴らに矢と石の雨をプレゼントしてやれ!」


 シュン、シュン! シュン、シュン! シュン、シュン! シュン、シュン! 


 国主の合図で、無数の矢と投石が放たれる。

 放物線を描いで、一直線に迫ってくる騎馬隊に襲いかかる。


 ――――だが異変は直後に起こる。


 カン、カン、カン、カン、カン、カン!


 矢と投石の攻撃が、全て弾かれてしまったのだ。

 まるで子どもの弓矢と軽石のように、不自然な動きで相手の鎧に、跳ね返えされてしまったのだ。


「な⁉ 第二射、急げ! 嫌な予感がする!」


 国主はすぐさま次の攻撃を指示する。

 先ほど以上の量の矢と投石が、相手を攻撃していく。


 カン、カン、カン、カン、カン、カン!


 だが、またもや全て跳ね返されてしまったのだ。


「まさか、アレがミスリル武具か⁉」


 そこで初めてハメルーン国主は気がつく。

 向かってきた騎士団が身につけていた甲冑が、総ミスリル製なことを。


 女騎士ララエルから話は聞いてはいたが、本当に実在していたとは。せいぜい一人か二人程度だろう、と高をくくっていた。

 あそまでの数の騎士団とは、半信半疑だったのだ。


「くっ……だが、相手は騎兵だ。登ってくる術はない。後方のハシゴを持った歩兵に注意しろ!」


 武人である国主は、すぐに作戦を変える。

 ミスリル武具の騎士団はあえて無視。登ってこない限りは、こちらに害がないと予想したのだ。


 ――――だが次の瞬間、国主の予想は大きく裏切られる。


 ドッ、ガーーーーン!


 自分たちが乗っている城壁に、地震のような振動が走る。


「キャーーー!」


 戦慣れしていないマリエルは、思わず悲鳴を上げてしまう。

 しゃがみ込んで、転倒しないように必死になる。


「今の地震ですか?」


 振動が落ち着き、マリエルは周囲を見渡す。

 まさかこんなタイミングで地震が来るとは、思わっていなかったのだ。


 同時にミカエル軍が今の地震で、撤退してくれたらいいのに、とも心の中で願っていた。


「えっ? ミカエル軍は……?」


 だが遠目に見えるミカエル軍は、驚いたことに平然としていた。

 自分が立っているのがやっとの地震の中でも、何事もないようにゆっくり前進していた。


「マリエル……今のは地震ではないぞ」

「えっ、お父様⁉ それなら、今のは?」


「今のは奴らの攻撃だ。先ほどのミスリル武具の騎士団が、“城壁に突撃してきた!のだ」

「えっ……そんな⁉」


 半信半疑になり、マリエルは下を覗き込む。

 そこにいたのは大槌(おおつち)や大斧で、城壁を攻撃してくる騎馬隊。

 決して薄くないハメルーンの城壁が、今にも破られそうになっていたのだ。


「くっ……『ミスリルの武器は規格外の攻撃力を有している』と聞いていたが、まさか人の力で城壁を砕けるとは……」


 同じく覗き込む国主は、顔を青くしていた。

 ミスリル武具の騎士団は防御力だけではなく、攻撃力も規格外だったのだ。


「そうか……『ミカエル軍は攻城兵器を持って来られなかった』じゃない。『必要がないから、ワザと持って来なった』のだ! くそっ!」


 悪知恵の働くミカエル国王は、事前にミスリル武具の性能をテストしていたのだろう。

 ミスリル製の大槌(おおつち)や大斧で、城壁を破壊できることを確認していた。

 ハメルーン軍を油断させるために、ワザと攻城兵器が無しの編成をしてきたのだ。


「くっ! 下の騎士団を優先して攻撃しろ! このままだと城壁が破られてしまうぞ!」


 城壁の上のハメルーン軍に、国主は急いで指示を出す。

 焦った守備兵は弓と投石で、真下のミカエル騎馬隊に攻撃をしかける。


 カン、カン、カン、カン、カン、カン!


 だが相手は完全武装のミスリル製の防具。

 馬まで装備しているために、ハメルーン軍の攻撃は一切通じない。相手は攻撃を気にせずに、ひたすら城壁を破壊していた。


 その光景を目にして、マリエルは思わず口を押える。


「ああ……このままで、この悪魔のような連中が、街の中に……」


 その後、どうなるか予想すら付かない。

 相手はこちらの攻撃は、一切通じない悪魔の騎士団。

 しかも中身は、残虐非道な傭兵崩れの荒くれ者たち。


 街の中で隠れている市民は、どんな酷い仕打ちを受けてしまうだろうか。

 またハメルーン城の中にいるマリエルの家族や、侍女たちはどんな酷い恥ずかし目に合うのか。


 きっと地獄絵図のような光景になるのだろう。

 感受性が強いマリエルは、思わず涙を流してしまう。


 そして真下にいる荒くれ者共の叫びが、マリエルの所まで聞こえてきた。


 ……「ヒャッハー! あと一撃で、壁に穴が開くぜぇ!」

 ……「まずは城に行って、財宝を奪おうぜぇ!」

 ……「それならオレは城の女どもを頂くぜ! 一回、お姫様っていうのを犯したかったよなぁ!」

 ……「おお、いいねぇ! それならオレは街の女たちにするぜぇええ!」


 耳を塞ぎたくなるような、(けが)れた叫びの数々。

 だが城壁の上にマリエルにとっても、悲劇は他人事ではない。


 何故ならミカエル軍の本隊も、ゆっくりとこちらに向かってきている。

 城壁に穴が開いたのを契機に、一気に攻め落とすつもりなのだ。


 王女であるマリエルには、もはや逃げ場などない。死よりも辛い仕打ちが待っているのだ。


「ああ……誰か……」


 思わず助けの祈りを、口にしてしまう。

 武家の娘としてではなく、心が折れかけた一人の少女として、天を仰ぐ。


「ハルク様……」


 そして一人の専属騎士の名を口にする。

 命を助けてもった時から、密かに慕っている男の名を、祈るように口にした。


 ――――その時だった。


 ドッ、シャーン!


 ハメルーンの街から……職人街のある南の区画から、城壁の外に“何か”が飛び出す。


「えっ?」


 マリエルは視線を思わず向ける。

 信じられないことに、その“何か”は透明だった。


 透明な“何か”は土煙を上げて、凄まじい速度で弧を描いで移動している。

 向かう先は敵陣。

 ハメルーンを攻め落とそうとする、大軍であるミカエル本陣だ。


「なんだ、あれは⁉」

「おい、念のために、本陣に戻るぞ!」


 その異変にミカエル騎馬隊も気が付いていた。

 城壁の破壊を中止。急いで透明な“何か”の迎撃に向かう。


 高速移動する“何か”を見つめながら、マリエルは思わず言葉を発する。


「ああ……あれは、もしや、ハルク様? ハルク様だわ!」


 マリエルの直感的な予想は、見事に的中していた。


 ◇


 ◇


 ◇


 《ハルク視点》


「ドルトンさん、無事に街の外に出ましたよ! あっ、あれがミカエル軍の本隊です! この雰囲気だと、どうやらギリギリ間に合った感じですね!」


「おい、ハルク。ここまでギリギリになったのは、オヌシがコイツの微調整に、戸惑ったせいじゃぞ!」


「いやー、面目ないです。ん? ここは土煙が酷いな……よし、“光学迷彩ミスリル・カモフラージュ”、オフ!」


 ビヨン!


 ドルトン工房からここまで、市民に見つからないように、“光学迷彩ミスリル・カモフラージュ”で認識を阻害してきた。


 だが激しい戦闘中になったら、どうせ“光学迷彩ミスリル・カモフラージュ”は発動できない。


 ボクは乗っている“ハルク式荷馬車(チャリオット)”の姿を、思い切って戦場の全ての者たちに公開する。


「さて、少し遅くなったけど、ミカエル軍を止めないと!」


 こうして総ミスリル製の荷馬車“ハルク式荷馬車(チャリオット)《改》”を駆けながら、ボクたちはミカエル軍の本陣へと突撃していくのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「ハメルーン国王」に「殿」と呼びかけるのはおかしいよ。 日本や日本っぽい国じゃあるまいし。 「陛下」でしょ。
[気になる点]  ・全面降伏をしなければ、すぐさまハメルーンを攻め落とす。  ・全面降伏をしてもハメルーン国主と親族、家臣団は責任をとって全て処刑。またハメルーン市民は奴隷として、全ての財産を欲衆。…
[気になる点] 全ての財産を欲衆。→全ての財産を没収。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。