第30話:対策作業
ハメルーンの街を守るため、ボクは王女マリエルの専任の臨時騎士になる。
ミカエル王国の大軍を迎え撃つために、ドルトン工房に向かう。
マリエルには後合流することを伝えていく。
「ハルク君、私も何かお手伝いできませんか?」
城から街に戻る道中、サラが助力を申し出てきた。
彼女にとってハメルーンは生まれ故郷。ボク以上に、街を守りたい気持ちがあるのだろう。
「ありがとう、サラ。それなら作って欲しいポーションがあるんだけど。あっ、でも戦に使うには、規模的に難しいかな?」
「それはたしかに……あっ、分かりました! ハルク君が私の抽出器を、もう少し改造してくれたら、たぶん何とかなると思います!」
「ボクが抽出器を改造? そのくらいならお安い御用だけど」
提案を受けて、サラのポーション抽出器を改造することにした。
《マーズナル魔術屋》に立ち寄って、ボクの【収納】で抽出器とポーション作成の材料を一式しまう。
今は時間が惜しい。
せっかくだから広いドルトン工房で、サラもポーション製造をしてもらうことにしたのだ。
「えっ……あんな大きな抽出器と材料を【収納】できた⁉ ハルク君、あなたは一体……」
「よし、それじゃ工房に向かおうか!」
サラが何か驚いていたような気がするけど、今は時間がない。
サラのお婆ちゃんに置き手紙を書いて、ボクたちはドルトン工房に向かう。
「あっ……もう市民の避難が始まっていているのか」
大通りは避難民でごった返していた。
ミカエル騎士団が接近していることは、すでに国主によって通知されている。
戦えない市民は、反対側の西の集落に避難しているのだ。
逆に市民兵は武装して、ハメルーン城に向かっている。
大事な家族を守るために、男衆は残虐なミカエル騎士団に立ち向かおうとしていたのだ。
「戦争のことは、よく分からないけど……この市民たちは、絶対に守らないと!」
女騎士ララエルさんの話では、迫ってくるミカエル騎士団は、傭兵崩れの荒くれ者の集団。
もしもハメルーン軍が負けたら、死ぬよりも辛い残虐な未来が、市民を待っているだろう。
だからこそボクは決意していた。
弱き者を守るために、今は自分の技術の全てを使おうとしていたのだ。
そんなことを思いながら駆けていたら、職人街に到着。
職人街には、いつも以上に煙が上がっている。
きっと戦のために武具屋、必需品を急ピッチで製造し始めたのであろう。
「ここだよ。サラ」
そんな職人街の中に端にある、ドルトン工房に到着。二人で中に入っていく。
「ドルトンさん!」
工房の奥でドルトンさんは仕事中。いつものように生活必需品を作っている。
「ふん、小僧か。ん? それに後ろの青髪は誰じゃ?」
「この子はサラといいます。今回のことで、色々と手伝ってもらおうと思って」
「ミカエル王国が攻めてくる件か? もしや、抗うつもりか、ハルク? だがオヌシに人を殺す覚悟はあるのか?」
ドルトンさんは厳しい目つきで、ボクに問いかけてきた。
自分の国の民を守るために一番簡単なことは、相手を殲滅することだ。
ドルトンさんはボクの覚悟を確かめている。
……『ハメルーン国を守るために、ミカエル騎士団を皆殺しする覚悟はあるか?』と。
「いえ、違います。ボクは敵国でも相手は、なるべく一人も殺したくないです。でも戦は止めたいです。すみません、矛盾と綺麗ごとばかりで」
これはボクの本音だ。
例え自分たちを守るためとはいえ、敵でも殺したくない。
特に今回の相手は、ミスリル武具を手に入れたことで、ハメルーンに攻めてきた。
彼らを戦に駆り出した原因は、ボクにも多少はあるのだ。
「ふん。それだけ強大な力を持ちながら、甘ちゃんだのう。だが、ワシは嫌いではないぞ、オヌシのような不器用な生き方は。工房は好きなだけ使え」
「ドルトンさん⁉ はい、ありがとうございます!」
まさかの工房主から許可が出た。ボクは頭を深く下げて感謝する。
「ふん。ところで、どうやって戦を止めるつもりじゃ? 噂によれば相手は、ミスリル武具の騎士団が大勢じゃぞ? 一人二人、打ち倒したところで、相手の軍勢は止まらないぞ?」
熟練の老鍛冶師であるドルトンさんは、戦場の怖さも知っているのだろう。
鍛冶師に出来ることは少ないと、心配してくれた。
「はい、たしかに、そうです。だから今回はサラにも協力してもらって、一人でも多く相手を“止めたい”と思います! それじゃ、サラ。今、抽出器を改造するから、少し待っていてね」
「はい、分かりました。私は調合の準備をしておきます」
ボクは【収納】からポーション抽出器を取り出す。
中を開けて“少し”だけ改造していく。
「ん? その抽出器は? まさか、あの嬢ちゃんは、マーズナルの孫か⁉」
取り出した抽出器を見て、ドルトンさんは声を上げる。
「はい、《マーズナル魔術屋》の孫娘さんですが? 知っているんですか?」
「そうじゃのう。あの女に、その抽出器の大枠を作ったの、このワシじゃかなら」
「えー、そうだったんですか⁉」
まさかの繋がりの事実に、作業しながらボクは思わず声を上げてしまう。
魔術街で偶然に見つけた店とはいえ、まさかドルトンさんのお客さんだったとは。
「まぁ、あの女の孫なら、多少は期待できるかもな。どれ、ワシも手伝ってやるぞ、ハルク」
「えっ⁉ はい、ありがとうございます! それなら、そっちをお願いします」
まさかのドルトンさんからの協力の申し出。
猫の手も借りたい、今の状況では本当に有り難い。
二人で抽出器を改造していく。
「よし、出来た。サラ、それなら、この種類のポーションを頼んだよ!」
「はい、分かりました!」
改造した抽出器は、“少し”だけ性能は上がっているはず。
ボクが必要なポーションを書いて、メモ紙をサラに依頼する。
後は彼女の任せておけばいいだろう。
よし、ボクは次の作業に取りかかろう。
【収納】で次の改造する品を、ドンドン出していく。
「ん? ハルク……これを全部、改造していくのか?」
「はい。どこまで使うか分かりませんが、とりあえず改造していきます。まずは、この“ハルク式荷馬車”からいきます!」
「ふう……そうか。嫌な予感しかせんが。どれ、ワシも手伝ってやるぞ」
「はい、ありがとうございます! それなら、まずは、ここを、こうして……」
「はっ⁉ 本気か、オヌシ⁉ ああ、じゃが、悪くはないな……いや、凄まじい発想だな……」
「あと、次はここを、こうします!」
「な、なんじゃと⁉ もう、こうなったら、破れかぶれじゃ、ワシも!」
この日から急ピッチ作業が幕を上げる。
ドルトン工房で数日間に渡り、作業が続けられていく。
三人で交代しながら仮眠。ひたすら作業を続けていった。
◇
「よし、出来た!」
そして全ての作業が終わった。
三人で協力して、何とか予定通り完成したのだ。
寝不足と疲労で、三人ともクタクタになっていた。
サラの作ってくれた疲労回復ポーションで、何とか動けるまで回復する。
カーン! カーン! カーン!
その時だった。
ハメルーンの街中に警鐘……戦の鐘が鳴り響く。
「ふん、どうやら客が来たようじゃのう」
「客……ミカエル騎士団、ついにですね」
こうしてハメルーンの街の目前に、ミカエル王国の大軍が押し寄せてきたのだった。




