第28話:お誘い
駆け出し魔術師の青髪の少女サラと、ハメルーン城内の王宮にやってきた。
そんな時、第三王女マリエルがやってくる。
「む? ハルク様……そちらの青い髪の子は、どちら様ですか?」
ボクの隣にいたサラを見て、マリエルは急に頬を膨らませてしまう。
どうしたのだろう?
あっ、そうか。
もしかしたら城に潜入した不審人物と、サラのことを勘違いしているのかもしれない。
「えーと、この子はサラ。ボクが最近、回復ポーションを買いに行く《マーズナル魔術屋》の孫娘さんだよ」
「えっ……《マーズナル魔術屋》のサラ? もしかして、貴女、“あの”《美容ポーションの匠サラ=ラジュアル》なの⁉」
サラの名前を聞いて、マリエルはかなり驚いている。
《美容ポーションの匠サラ=ラジュアル》というのは、どういう意味なんだろう?
「あっ、ハルク様。見苦しいところを見せて、申し訳ありません。実はハメルーンの街で最近、とても話題の魔術師がいるのです。それが《マーズナル魔術屋》のサラ=ラジュアルという名。彼女が作る美容ポーションは、ハメルーンの街の女性を美しくしている!、と、王宮内でも話題なんです!」
かなり興奮した様子で、マリエルは説明してきた。
美容のことは分からないけど、この様子だとかなり話題になっているのだろう。
とりあえずサラ本人に確認をしてみよう。
「もしかしてサラのことなの?」
「はい、ハルク君。私の名前はサラ=ラジュアルですが、そんなことになっているとは、知りませんでした……」
サラは基本的に自分の店と、裏の家から外出しない。
美容ポーションの販売も、仲介する商人と祖母の仕事。
だから街で話題になっていることを、当人のサラは知らなったという。
「そう事情だったの。でも話題になっているということは、やっぱりサラは凄い魔術師だったんだね!」
最初に彼女がポーションを作っている姿を見て、ボクは感じていた。
サラ本人は駆け出し魔術師を名乗っているけど、大人の魔術師と同じくらいの能力があることを。
少なくともミカエル王国の近年のダメな宮廷魔術よりは、よっぽど魔術をしっかり鍛錬してきた少女なのだ。
「い、いえ、ハルク君、誤解です。私は普通の駆け出し魔術師です。美容ポーションが話題になっているのも、たぶん“ハルク君のお蔭”です」
「えっ、ボク? ボク、なんかしたってけ?」
いきなり名指しされたので、思わず聞き返してしまう。
自分とサラの接点は、たまに回復ポーションを買いにいくくらい。
あと最初の時に、ポーション抽出の魔道具を修理したくらいだ。
特に何もしていないはず。
「やっぱり、自覚がないんですね。実はハルク君が修理してくれた後から、私のポーション抽出器が異常なまでに、高性能なポーションを作り出すようになったんです」
「えっ、あの後から⁉ でも、ボクは何もしていないよ? 普通に修理しただけだよ?」
「はい、たしかにそうです。あの後に私とお婆様でも、抽出器の中を確認してみました。でも外見的な変化や、魔術的な付与の痕跡は、特に発見できませんでした。お婆様が発見できなかったので、それは間違いないと思います」
サラのお婆ちゃんはハメルーンの街でも、かなりの高位の魔術師だという。
彼女が見つけられない痕跡は、それほど多くはないらしい。
「それならボクは、やっぱり関係がないようだけど?」
「ここだけの話は、私、小さい時から“見える”んです。ハルク君の修理した抽出器には、“何か”が宿っていました。上手くは説明できませんが……」
「なるほど、そういう力もあるんだね、サラには」
そういえば老鍛冶師のドルトンさんも、最初に何か言っていたような気がする。鍛冶の“加護”とか、何とか言っていていような。
もしかしたらサラの見えた“何か”と加護は、関係があるのかもしれない。
「あのー、二人で盛り上がっているところ、恐縮なのですが、ハルク様?」
「あっ、マリエル⁉ ごめんごめん! えーと、手紙をくれたんだよね?」
王女であるマリエルを、会話の外に置いたままにしていた。
急いで謝って、話を聞くことにする。
「はい。実は王宮の入り口の、この扉の調子が悪くて、ハルク様に手紙を出したのです!」
「ん? これ? たしかに、蝶番の部分が、摩耗しているね……よし、直ったよ!」
扉の不調は簡単に修理できた。
部品を変えるまでもなく、修理器具だけ直せた。
でも、不思議だ。
こんな簡単な修理は城の職人さんでも、修理できるはず。
どうしてマリエルは手紙を出してまで、ボクを呼びだしたのだろう?
ふと、疑問に思う。
「ありがとうございます。ハルク様! あと、時間があるなら、良かったら私とお茶をしませんか? あっ、《美容ポーションの匠サラ=ラジュアル》もぜひ一緒に! 納品の品の説明も聞きたいです!」
そんな疑問に答えるかのように、マリエルは強引にお茶会に誘ってきた。
「えっ、お茶会? まぁ、ボクは大丈夫だけど……サラはどうする?」
「お、お茶会……本に書いてあった、あの夢の……はい、喜んでお受けします、マリエル様!」
お茶会と聞いて、サラの顔が急に明るくなる。
もしかしたら女子にとって、お茶会は特別な存在なのかもしれない。
「では、こちらの中庭へどうぞ」
マリエルの案内で王宮の中庭に向かう。
綺麗な花が沢山ある、優雅な庭園だ。
白いテーブルと椅子もあり、マリエルのお気に入りの場所だという。
三人で椅子に座ると、侍女たちがお茶とお菓子を持ってくる。まるで最初から準備していた流れだ。
「それではお茶会を始めましょう、ハルク様、サラ!」
「べつにいいけど、何をすればいいのかな、ボクは?」
「ハルク様の話を聞かせてください! その様子では冒険者として日々を!」
「それ私も聞きたいです、ハルク君!」
「話を? それぐらいなら、別にいいけど。えーと、まずは……」
それからボクは自分の話を、二人にむかってする。
冒険者ギルドでのことや、鍛冶工房のことなど。
あと休日の過ごし方など、なんの変哲もないことを。
「それは凄いですね、ハルク様!」
「ハルク君、それから、どうなったの⁉」
でも二人とも目を輝かせながら、話を聞いてくれた。
彼女たちは今まで、自由に外に出かけられなかった身。
だからボクの何の変哲もない採取の話でも、こうして楽しそうに聞いてくれるのだ。
「それじゃ、次はマリエルとサラの話も、聞かせてよ?」
ボクの話だけと単調なので、二人話も聞きてみることにした。
マリエルの王女としての日々の暮らしの話。
サラの幼い時から魔術師としての、不思議な日々の修行の話。
互いに別世界の住人だったので、三人で興味津々に話をしていく。
そんな感じで、あっという間に時間が経っていく。
「マリエル様、そろそろ、お時間です」
侍女が声をかけてきた。
王女であるマリエルは、習い事の時間になったのだ。
今日のお茶会は、ここで解散になる。
「それでは城の正門まで見送りいたします、ハルク様。サラ!」
「あっ、そういえばマリエル様!」
サラとマリエルは、いつの間にか仲良くなっていた。
同世代であり、互いに狭い世界で生きてきた似た境遇。
親近感から、一気に距離が縮まったのだろう。
三人で話をしながら、城の正門まで歩いていく。
「それではサラ、またお茶会の誘いの手紙を、店に出しますね。ハルク様も修理の依頼を、またギルドに出します」
「うん、分かった」
もしかしたら今回の修理の依頼も、お茶会に誘う口実だったのかもしれない。
まぁ、ボクも楽しかったから、あまり深く考えないようにしよう。
さて。
マリエルに見送られながら、サラと街に戻るとするか。
――――そんな時だった。正門の所が、何やら騒がしい。
「ん? 不審者かな?」
正門で騒いでいるのは一人の女性と、門番たち。
女性が何やら騒いでいて、門番に止められている。
ボクも念のために警戒しながら、正門を通り過ぎていこうとする。
「ん? あの人は?」
だが不審者の顔を見て、ボクは思わず足を止める。
何故なら見覚えがある顔だったのだ。
「ララエルさん?」
揉めていたのは、ミカエル王国の女騎士ララエル。
先代の時からの忠臣の騎士。
現国王からボクのことを庇ってくれていた、数少ない優しい一人だ。
でも今は騎士時代とは、別人のような格好。冒険者のように旅人の服を着ていた。
「なっ⁉ ハ、ハルク⁉ どうして、ここに⁉」
ボクを見て向こうからも反応もあった。間違いなく本人だ。
暴れるのを止めて、門番から離れて、こっちに駆けてきた。
「えーと、実は色々あって、ハメルーンに引っ越してきて、今は冒険者をしています。今日は城でお姫様とお茶会をしていて」
「そうだったのか……キミも色々あったのだな。ん? お姫様とお茶会をしていた、だと⁉ それならハメルーン城の者に伝えてくれないか! ミカエル国王が、この国に向かって出兵していると! ミスリル武具の恐ろしい騎士団が、この国を滅ぼそうとしているのだ! 門番に伝えても話を聞いてくれないのだ!」
「えっ……あの国王が、このハメルーンに進軍を⁉」
こうして国同士の問題に、ボクは巻き込まれることになった。




