第17話:道具のメンテナンス
一角ウサギ狩りの翌日になる。
今日は朝早くから、は職人街にやってきた。
目的はドワーフ族の鍛冶職人、ドルトンさんの鍛冶工房に顔を出すためだ。
「あっ、ドルトンさん、おはようございます!」
「ん、ハルクか。今日は冒険者ギルドの規則で休みか?」
「はい、そうなんです。本当は今日も依頼を受けたいですが、仕方がないですね」
冒険者ギルドの規則で仕事の翌日は、依頼は受けられない。
過労を抑えるための規則で、身体と武具のメンテナンスをさせて、生存率と成功率を上げる狙いもあるらしい。
最近は調子が良いから、本当は今日も依頼を受けたいんだけど。
「ふん。その顔じゃと、今のところ冒険者生活は順調そうじゃのう?」
「はい、昨日も一角ウサギの角を、十九本も狩れました!」
一角ウサギの角は昨日の内に、冒険者ギルドに納品して報告していた。
一本あたり500ペリカで買い取ってくれたので、9,500ペリカの収入だ。
これで所持金は約16万5千ペリカになった。
収入の内訳は、ハメルーン国主からの謝礼金が15万ペリカ。
バリン草の報酬金が22420ペリカ。
あと今回の一角ウサギの角が9,500ペリカ。
ミカエル王国からのお金は、ほぼネコババされたので含まれていない。
あと出費で、宿屋の前払い金や生活費が引かれて、所持金は約16万5千ペリカになっているのだ。
うん、悪くない感じで、着々と増えている気がする。
二日に一回の仕事しか出来ないことを、最初は心配だった。
でも何とか冒険者として生活していける気がする。
「なぁ、ハルク。そんなに金が必要なら、オヌシ、自分で武具屋を始めたらどうじゃ?」
「えっ、ボクが武具屋を。どうしてですか?」
「オヌシの武具は、異様なまでの高性能になる。武具屋を始めたら、間違いなく注文は殺到。大金持ちになれるぞ」
ドルトンさんは急に、ボクのことを褒めてきた。
いきなりどうしたのだろう。宝くじでも当たって機嫌がいいのかな?
「いえ、武具屋になるつもりはないです。今のボクの夢は人の役に立つ、一人前の冒険者になることですから! あと、武具作りは好きですが、仕事として大量生産する毎日は、ちょっと嫌な思い出がありまして……」
ボクはミカエル王国にいた時、毎日のように王国のために道具を作ってきた。
先代の王様に恩があったから最初は苦ではなかった。
でも息子の今の国王になってからは、本当に苦通の毎日だった。戦争のための武具の製造を強要されたからだ。
お蔭でボクは鍛冶師としてスランプに陥る。ミスリル武具を作っても、満足に仕上げることが出来なくなってしまった。
そのため国外追放を言い渡され、今日に至るのだ。
「でも今は楽しいんです! 困っている人のために修理したり、冒険のために試行錯誤して武具を作ったり、ビックリするぐらい面白く作れるんです!」
ハメルーンの街に来てから、まだ数日しか経っていない。
でもボクは毎日が充実していた。
「あっ……なんか、すみません。せっかく仕事を勧めてくれたのに」
「ふん。気にするな。ワシも似たような人生を、歩んできたからのう。今は一人で、ここでコツコツと生活道具を作って、酒代を稼ぐ人生が、楽しいからのう」
ドルトンさんは意味深なことを言って、小さく笑みを浮かべる。
そう言われてみれば、ドルトンさんも不思議な職人だ。
これほど大きな工房があって、前は十人くらいの職人さんを雇っていたのであろう。
鍛冶の腕も間違いなく高い。
その証拠に“あの冒険王ハンス”に、武具を作ったことがあるのだ。普通の鍛冶職人ではあり得ない栄誉。
ドルトンさん仕事を選らばなければ、もっと仕事と弟子は増えて、裕福な仕事が出来るはず。
でも今こうして語るドルトンさんは、素敵な表情をしている。
きっと後悔はない人生なのだろう。
「なんかボクたち少し似ていますね? 一人でコツコツ物作りが好きな職人同士……みたいな感じで?」
「ふん。オヌシのような規格外の男と、同じにするな! ワシはあくまで普通の鍛冶師なんじゃ!」
「はっはっは……面白い冗談ですね」
ドルトンさんはたまに訳の分からないことで、ボクのことを言ってくる。
たぶんドワーフジョークなのであろう。ボクは笑って流すことにしていた。
「あっ、今日も工房の端を貸してください」
「ああ、もちろんいいぞ。新しい武具の製造か?」
「いえ。冒険で使った道具の整備をします」
【収納】に入れてある《持ち運び鍛冶場》でも、一応は武具道具の整備は可能。
でも本格的な整備は、ドルトン工房の方がやりやすいのだ。
「よし、それじゃ。まずは草刈りの鎌を整備するか……」
「ん。“草刈り鎌”じゃと。薬草の採取でもしたのか?」
「はい、バリン草を狩る時に重宝しました。出しますね……【収納】!」
ブォン!
作業台の上に《獄大鎌》を出す。
腰を曲げずに、足元のバリン草を刈れる、便利な道具だ。
「な、なんじゃ、その異質な大鎌は? この“全てを斬り刈る禍々しさ”は……もしや、上級魔族“死神”の呪いの大鎌か⁉」
何やらドルトンさんは目を見開いで、勘違いをしている。
「いえ、これは薬草や草を刈る、普通の採取用の鎌です」
「な、なんじゃと⁉ はぁ……相変わらずというか、宝の持ち腐れ、というか……」
相変わらず、ドルトンさんの反応はおかしい。
きっとドワーフジョークだと思うので、放っておこう。
「よし、次は《円錐螺旋》を出そう……【収納】!」
次に作業台に出したのは、温泉を掘る時に作った掘削機器。
あまり使う機会は少ないと思うけど、道具のメンテナンスは欠かせないのだ。
「ん⁉ つ、次のコレは何じゃ⁉ この地獄の岩盤すら貫通しそうな、恐ろしいドリルは……⁉」
またもやドルトンさんは変な反応をしている。
気にしないで次にいこう。
「最後は弩を……【収納】!」
三つ目は昨日、一角ウサギを狩る時に使った弩。
手で持てるお手頃サイズの弓だ。
「な、なんじゃ、この巨大で禍々しい攻城兵器は⁉」
「えっ、これは手に持って、小さな獣を狩る弩ですよ」
この弩は“少し”大きいけど、ボクは片手でも扱える軽量タイプだ。
「な、な、こんな大きな物を、オヌシ、手で持って打てるのか⁉ この構造だと反動も半端じゃないだろうが⁉ あと、どうやって弦を引くのじゃ、これほどものを⁉」
「えっ? 重さは普通でしたよ。反動もそれほど無かったです。あと弦は普通に手で引きます。こんな感じで」
ドルトンさんが不思議そうにしているので、実際に弩の弦を引いてみる。
うん、ボクのような非力な体格でも、簡単に引けた。
たぶん普通の冒険者なら、誰でも扱うことは可能だろう。
「………………ふう……」
ん?
ドルトンさんが深いため息をついている。
どうしたんだろうか?
「いや、何でもない。オヌシは鍛冶師として普通ではないと思っていたが、まさか身体能力も、ここまで規格外だと読めなかった、ワシ自身の修行不足を嘆いているのじゃ……」
「うーん? そうなんですね。なるほどです」
ドルトンさんは哲学的な難しいこと言っている。意味はよく分からないので、とりあえず頷いておく。
「それじゃ、整美しますね」
「ふう……ワシは奥で休んでくる」
疲れ果てたドルトンさんを見送りつつ、ボクは整備作業に入る。
道具に感謝しながら、丁寧に整備をして綺麗にしていく。
「よし、完了。思っていたよりも、早く終わったな」
まだ午前中で、他の予定はない。
さて、どうしたものか。
「あっ、そうだ。冒険者ギルドに行って、明日の依頼を探してこようかな」
好条件の依頼は、冒険者同士で奪い合いになるらしい。
そのため早めに目をつけておいた方が、何かと便利なのだ。
「ドルトンさん、それじゃ、ありがとうございました」
挨拶をして工房を後にする。
そのまま街の中央広場にある冒険者ギルドに向かう。
あっ、そうだ。
この時間帯だとけっこう混んでそうだから、裏口から入った方がいいかな。
冒険者ギルドが見えて、そう思った時だった。
「ん? 何だ、あの人だかりは?」
冒険者ギルドの前に、やけに人だかりがある。
どうしたんだろう?
気になったボクは存在感を薄くしながら、コッソリ野次馬に混ざることにした。




