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12話 夢の症状

 この夜もまた、ライは夢を見ていた。

 夢の中での彼は、彼ではなく別の人物と一体化したかのように、数多の記憶の追体験をしていた。



 ある時の彼は偉大な冒険者として大成することを夢見る人間の少年だった。そしてその大きな夢を胸に冒険者となり、初めての冒険に出たその日にスライムに敗れてその冒険を終えた。


 ある時の彼は始まりの草原で一人で戦っていた冒険者だった。草原にも慣れてきて、草原の各所を巡るように次々と狩り場を変えていた彼は、その日は外れにある森を狩り場にするべく立ち入った。そこで遭遇したスライムに敗れてその命を終えた。


 ある時の彼は幼なじみとペアを組んで冒険者となったばかりの戦士だった。幼なじみの警告を受けて周囲の警戒をしていたものの、その上でスライムの奇襲を受けることとなってしまった。


 ある時の彼は小さな群れに所属するスライムだった。その日彼は、突如やってきて仲間たちを一方的に虐殺する人間から必死に逃げていた。だがそれも虚しく、振り下ろされた鈍器の一撃が彼を弾き飛ばす。衝撃で意識が薄れていくが当たり所が良かったのか、他の仲間たちのように即死はしなかった。意識が失われる中、湧き上がってきたのは人間に対する怒りと憎悪だった。


 ある時の彼は幼なじみとペアを組んで冒険者となったばかりの魔法使いだった。幼い頃から共に過ごしてきた親友の死の衝撃も醒めぬまま必死に逃げたが、妖精とスライムによって相棒の後を追うこととなった。


 ある時の彼は冒険者に成り立ての気弱な少年だった。冒険者となったはいいが、その気弱で臆病な性格が災いしてか、なかなか一緒に組んでくれる人が出来ず、結局一人で始まりの草原へと踏み入ることとなった。始まりの草原程度なら一人でも大丈夫とは聞いていたが、それでも魔物の住む草原を一人で歩くのは恐ろしかった。

 幸いにも魔物に遭遇することなく休憩地点である泉まで到達したが、その恐怖のせいか極度の疲れでへたり込んでいた。泉の水面を見ながら、自分は冒険者に向いていないんじゃないかと本気で悩んでいる時、背後から一体のスライムが急襲してきた。自分へ向けて襲いかかってくる魔物の存在に、思考が全て吹き飛んだ。


 ある時の彼は空飛ぶミミネズミの群れの討伐の依頼を受けたパーティーの魔法使いだった。相手は空を飛ぶ群れとはいえ所詮ミミネズミ。まだEランクの自分たちは一人前の冒険者とは見られていないが、それでもなんてことのない相手のはずだった。

 自分たち目がけて編隊を組むように飛行してくるミミネズミを見ながら魔法の詠唱を唱える。思ったよりも迫力があったがやることは変わらない。自分の広範囲魔法で打撃を与えて叩き落とし、後は仲間がとどめを刺す段取りだ。だがその時自分に向かって一匹のスライムが向かってくるのを視界に捉えた。僅かに疑問に思うも、どうでもいいかと意識を外した次の瞬間頭部に激しい衝撃を受けた。地面に倒れ、その後状況を理解できないまま更に頭部への衝撃を受けた。それを最後に、結局予定の魔法を発動することもなく意識が断絶した。


 ある時の彼は始まりの草原で多発している行方不明の調査にやってきたパーティーの魔法使いだった。遭遇したいやに強いスライム――おそらく名有りだと思われるが、それにも優勢に戦いを進めていたが、突如現れたミミネズミの群れによって一気に形成は逆転した。混乱の極地に陥った自分の前に立ち塞がるスライムに絶望に染まり、そのスライムによってそのまま死を迎えた。


 ある時は意気揚々と初めて草原へと足を踏み出す新人冒険者。

 ある時は先のフィールドから調査のために草原へ戻ってきた冒険者パーティーのリーダー。

 ある時は人間へ強い怒りと憎悪を糧に生きるスライム。

 ある時は草原での魔物狩りにもすっかり慣れて、もはや作業のように得物を振るい魔物を殺していく人間。



 次々と彼は、夢を通して多くの人物の記憶を体験していく。


 数多の夢、数多の記憶を体験する中で、ふと彼は思った。



 ――そういえば『俺』は、一体誰なんだっけ?



      ※      ※      ※



「――ライ、ちょっと大丈夫!?」


 少女の甲高い声が、夢に囚われていたスライムの意識を呼び戻す。

 ゆっくりと目を空けると、そこには心配そうな表情を浮かべた妖精の少女の姿があった。

 少女は彼が目を覚ましたことにほっと安堵の溜息を吐く。


「よかった、ライが珍しく朝になっても来ないから探しに来て、ようやく見つけたらひどくうなされてるんだもの。全然目を覚まさないし、一体どうしたのかと思ったわ」


 そんな妖精の少女の姿を見ながら、やがて彼の意識がはっきりとしていく。


「そうだ、『俺』は……ライだ」


 噛みしめるように呟くライの様子に、リースは首を傾げる。


「ライ、どうしたの?」


「少々、妙な夢を見てな」


 夢といってもその内容はリースの言っていた『経験値』による殺した相手の記憶だろう。

 リースもそれを察したようだが、その表情は固い。


「あのね、ライ。実はあれから経験値のことについて調べてきたの。経験値の影響で他人の夢を見るなんて、あたしは覚えがないし気になったから」


「それはわざわざすまないな。しかし簡単に調べられるようなものなのか?」


「まあ調べたって言ってもちょっと教えてもらっただけなんだけどね」


「教えてもらったって、誰にだ?」


 その当然の疑問にリースは視線を彷徨わせた。どうやら若干答え難いようだ。

 しかしやがて覚悟を決めたのか、深い溜息を吐くとぽつぽつと口を開く。


「これまで言ってなかったけど、実はあたしって『使い魔』なんだ」


 そう告白したリースだったが、ライの方にその言葉に対する反応はほとんどない。

 意味が分からないのだと察したリースは苦笑しながら説明をする。


「使い魔っていうのは主の手足となって動く下僕のことよ。あたしのご主人様(マスター)はちょっと引き籠もりがちで世情に疎いから、使い魔(あたしたち)を大陸中に放って情報収集をさせてるの」


 それを聞いてライは納得する。たしか彼女は初対面時に大陸中を旅していると言っていたが、その旅というのは情報収集のための旅だったのだろう。


 そんなライへ、リースは慌てたように付け加える。


「あっ、勘違いしないでよね。あたしがここに留まってるのはあくまであたし個人がライに興味あったからで、ご主人様の命令とかじゃないんだからね」


「別にそんな邪推はしていないが……でもいいのか、情報収集の仕事は放っておいている形になるが」


 リースはほっと胸を撫で下ろしながら微笑みを返す。


「大丈夫大丈夫。始まりの草原でのあれこれなんてご主人様の役に立たないだろうけど、役に立たなくても情報は情報よ。それに同じ役目の使い魔はあたしだけじゃないからその分はきっとみんながやってくれるって」


 それはあまり大丈夫じゃないのでは、と思ったが指摘しないでおく。本人がまるで問題なさそうにしているしきっと大丈夫なのだろう。


「それであたしにはご主人様に連絡を取る手段があるから、それでご主人様に教えてもらったの」


 なんにせよ、彼女の事情は理解した。彼女は使い魔であり、ご主人様(マスター)なる人物の意によって動いている。

 ならば、確認しておくべきことは一つだ。


「その『ご主人様』とやらは人間か?」


「えっ? 違うけど……」


「ならばそのあたりの話は俺にはどうでもいい」


 そのきっぱりとした返事にリースは苦笑する。


「気にするかと思って心配したんだけど、相変わらずだなぁ」


 リースは呆れたような、そして同時に安心したような笑みを浮かべた。

 だがその表情を引き締める。彼には言わなければいけないことがあるのだ。


「それで話を戻すけど、夢の話についてご主人様(マスター)に聞いたら、その夢は『前兆』だって」


「前兆って、何のだ?」


「……魂の、崩壊」


 その言葉の意味はライにはわからない。だがわからずとも、不吉な印象を与える言葉だった。そしてそれを裏付けるように、リースの表情は固いものだった。


「相手を殺すことで経験値を魂が取り込み成長してその位階(ランク)を高めるの。もともと経験値って相手の魂の一部だし、相手を殺すことによって自分の魂が相手の魂を食べているってことでもあるんだけど、ここまでは以前も少し説明しているし大丈夫よね」


「新情報を混ぜていること以外は」


 経験値が相手の魂とか完全に初耳である。リースの情報を小出しにする悪癖をなんとかして欲しい。

 リースはそんなライに構わず続ける。どうせ説明の本題はそこではない。


「でも格上狩りを続けてあまりにも多量の経験値を得た場合、経験値――魂を取り込みきれずに、自分の魂が崩壊するの」


「魂が崩壊すると、どうなるんだ」


「死ぬわ。精神が」


 さらりと告げられたその言葉にライは思わず固まった。


「魂ってその人物を形作る大事な核になる部分なの。それが壊れれば、肉体に傷一つなくても自分という存在は失われる。それが魂の崩壊よ」


 リースの表情が深刻なのもわかる。ライは自分でも知らないうちに死に近づいていたのだから。


「殺した相手の記憶を夢で見るのはその前兆。末期症状とまではいかなくても、その何歩か手前らしいわ。これまでライは割と短期間で格上の人間を殺し続けてたくさんの経験値を手に入れてきた。おかげでランクは早いスピードで上がってきたけど、それで今ライの魂は危険な状態になっているわ」


 自分が思った以上に危険な状態にあるらしいことを知り、ライの表情も深刻になっていく。


「それを避けるにはどうすればいい」


「とりあえず魂を休ませるために、しばらく戦わない方がいいわ。ここで経験値を更に得ると症状が更に進行するって」


「……そうか」


 道半ばで倒れるというのはライにとっても望むことではない。ゆえに彼女の言葉に従い、一度足を止めるのもやぶさかではない。

 だが、そうなると気になるのはそれがいつまで続くのか、だ。


「戦わないというのはどのくらいの期間だ?」


「……分からない」


 困ったようにリースはそう言った。

 だが困ったのはライもだ。いつになれば正常に戻るのかも分からないまま戦いを禁じられてはどうしようもない。

 そんなライの不満に気付いたリースは慌てたように言う。


「と、とにかくご主人様にそのあたりを確認しているから、答えが返ってくるまでは戦いを控えて欲しいの」


 つまるところ、リースではさっぱり分からないということらしい。

 ライは思わず舌打ちをしたくなった。


 ライには目的がある。それは人間を皆殺しにして滅ぼすことだ。そのためには数多くの人間を殺して経験値を手に入れ、位階(ランク)を上げなければならない。

 にも関わらずこんなところで足踏みをしなければならないというのか。


 焦りと苛立ちが募るが、それを目の前のリースへぶつけたところで状況が変わる訳ではない。彼女は単に忠告をしてくれただけだ。ライにもそのくらいの理解はあった。だがそれでも彼の内心がその表情に出てしまうのも仕方がないことではあった。


 そんなライをリースは物言いたげに見つめていた。

 しばらく躊躇っていたようだがやがて意を決したのか口を開いた。


「ねえ、ライ……いっそ人間を滅ぼすなんてやめた方がいいんじゃないかな」


「なんだと――?」


 その言葉に対する反応は劇的だった。

 ライは怒りに満ちた形相でリースを睨み付ける。元々の苛立ちもあったはずだが、ライの視線にはそれすら霞むほどの怒りが込められていた。

 今にも溢れだしそうな激情だったが、ライはそれを吐き出す既の所で押さえ込んだ。


 感情をなだめるように呼吸を整える。

 目の前のリースへの怒りを飲み込んだライは、ゆっくりと心中を口にした。


「――俺は人間が憎い、滅ぼしたい。それは以前にも話した通りだ。その想いは薄れたことなどない。……それでもお前は俺に復讐をやめろと、人間を許せというのか」


 淡々と口にしたその言葉。しかしその言葉には溢れんばかりの憎悪が込められていた。

 その憎悪は人間全てに向けられたものだったが、その負の感情を目の当たりにしたリースはわずかに怯む。だがそれでも彼女は自身の意見を口にする。


「別に許せなんて言わないわよ。ライの気持ちはわかる――まあ本当の意味じゃわからないけど、理解はできるし想像も出来る。でも自分たちの群れを人間に襲われたからって、人間全てを憎むっていうのはちょっと……短絡的じゃないかしら」


 別に人間の味方をするわけじゃないけど、と付け加える。


「たしか人間たちって、ライが遭ったような虐殺は禁じていたはず――まあそれも経験値稼ぎの効率化とかの都合だけど。まあ思惑はさておいて、そんなルール破りをするような犯人は人間たちの中でもはぐれ者のはずよ。だからそんなはぐれ者を基準に人間という種族そのものを判断するのはあまりよくないんじゃないかな」


 彼女の言葉に反射的に言い返そうとした言葉をライは自身の自制心を働かせて飲み込み、ライは少し考え込む。

 これまで経験値――殺した人間たちの魂を通して、ライの中には多くの人間の記憶や知識が断片的ながらある。


 そのライがいつの間にか身につけていた知識から、人間にも魔物を狩る際の量などの制限があることなどをライは知った。

 それらの情報から判断すると、彼女の言うように、かつてライの群れを襲った人間たちの一団(パーティ)が、人間たちの定めたルールから外れているというのはたしかにありえることだった。


「復讐をやめろとは言わないけど、憎むべきは人間全体じゃなくて、ライの群れを襲った人間たちだけでいいんじゃないかしら。あたしのご主人様(マスター)は凄いから、きっとそのパーティーの足取りだって追うことができると思うわ」


 そしてそれならば、人間のはぐれ者への憎悪を他の人間全てにぶつけるのは間違いという理屈も正しいかもしれない。


 ――だが、彼女の意図を理解した上で、やはりそれ受け入れられるかどうかは別である。


 人間を許すということを考えると、それだけで心の奥底から怒りが新たに湧き上がってくる。かろうじて平静を保っているが、いっそそんなものをかなぐり捨てて湧き上がる感情のままに怒鳴りつけてしまいたい。


「それに……ライが今、魂の崩壊で危険な状況に陥ってるのも、人間全てを滅ぼすなんて無茶なせいで無理をしているのもあるだろうし。復讐の相手がパーティー一つならもっとペースを整えながらやっていけるはずよ」


 だがそんな感情も、リースの言葉でせき止められる。


 彼女の提案が、ライへの心配が多分に含まれる事を察したからだ。

 無茶な目的のために突き進んで、今まさに身を滅ぼそうとしている自分への。



 しかしそれ察しながら、ライは彼女の提案に頷くことなど出来ない。


 彼女の意図を理解して、その理屈もある程度は認め、それでもなお人間――自分たちの群れを襲った連中以外への憎悪はまるで収まらないのだから。


 そんなライの内心を察したのか、リースは溜息を吐いた。


「まあ、どちらにせよしばらくは戦わない方がいいのは変わらないから、その間にゆっくり自分を見つめ直してほしいかな」


「……考えておこう」


 心中で荒れ狂う感情に振り回されながら、ライはそう口にするのが精いっぱいだった。





      ※      ※      ※




 リースと別れた後、ライは一人悩んでいた。


 ライの頭にあるのは先程のリースとの会話だ。


 憎き人間を皆殺しにする。その一念でライは生きてきた。

 それを果たすために多くの人間を殺して経験値を手に入れ、位階(ランク)を上げなければならない。


 しかしその結果が魂の崩壊の危機である。

 そんなこと知るか、と切って捨ててしまいたいが、それで実際に魂の崩壊とやらで死んでしまえばそれこそ復讐を果たすことが出来ない。

 となるとやはりここは彼女の忠告に従ってしばらく戦いを控えるべきだろう。



 だがそれ以上にライの心を搔き乱すのは、もう一つの提言だ。

 人間への復讐をやめる、というのはライの全てをひっくり返しかねないことであった。

 彼の群れを襲撃した下手人だけを復讐の対象にするというのは確かに理がある。だがそんな妥協案で己が納得できるはずがない。


 己の復讐が間違っているという理屈、そしてこのままその道を貫けば遠からず自滅するという状況。これらが合わさって、どうしてもライの心中に迷いが生まれてしまっていた。



 そんな葛藤を胸に拠点の森へと戻ってきたとき、ライは見知った相手の姿を見つけた。


「ミミネか、何をやっているんだ?」


「あっ、ライ。これはボクもライの真似して特訓してるんだ」


 そこにはミミネがあちこちを走り回ったり、かと思うと突如真上へと跳びあがったりと奇妙な行動をしていた。

 おそらくフットワークなどの練習をしているのだろうか。


「人間を倒して経験値を手に入れたおかげか、だんだん速く動き回れるようになってきたんだ。もしかしたら空からだけじゃなくて地面からも攻撃できるかもしれない」


 そう言って襲いかかるかのように、獲物に見立てた手近な木へと跳びかかる。確かにその動きはこれまでとはまるで違う。

 耳を引きずりながらの鈍重な動きしかできないミミネズミの本来の動きとは雲泥の差だ。もっとも、あくまで普通のミミネズミと比べると動き回れるというだけで、飛び跳ねるように高速で駆け回れるライと比べるとまるで届かない。

 とはいえ成長が実感できて喜ぶミミネの気持ちはライにもよくわかった。


「なんか最近は全然人間が来ないから、その間はライみたいに特訓して強くなるんだ」


 その言葉にそういえばここ数日は人間への襲撃を行っていないことを思い出す。

 襲撃を控えたりしているわけではない。ミミネの言うように人間自体が来ないのだ。


「もっともっと強くなってライに追いつくんだ」


「そんなに強くなりたいのか?」


 ライの言葉には訝しげなものが混じっていた。ライには人間を滅ぼすという目的がある。だからこそ誰よりも強くならなければならない。

 しかし身を守るだけでいいというならばまた話が違ってくる。今のミミネならばこの始まりの草原で人間の襲撃から生き抜くだけの力は持っているのではないかと思う。


 ミミネはそんなライの感情を察したのだろうが、それに首を振る。


「この間、ライとリースの話を聞いたんだ。ライは人間を滅ぼしたくて、そのために強くなりたいって」


 それはミミネたちミミネズミが人間への襲撃を行う日の出来事だった。そしてミミネは、この会話を聞いたことで、人間への襲撃を決意したのだ。


「人間を滅ぼすなんてこと、ボクは考えたことなんて一度もなかった。だけど、ライのその言葉を聞いてボクも思ったんだ――ボクも人間を滅ぼしてしまいたい、って」


 その言葉はライのように憎悪に満ちたものではなかった。だがミミネもライほどではないにしても、人間への負の感情は持っている。自分たち魔物を狩り殺していく人間を好いているはずなどないのだ。

 ミミネはライをしっかりと見据えて、強い意志と共に宣言した。


「だから――ボクにも、ライの手伝いをさせてほしいんだ」


 ミミネの意思を受け止めたライは目を丸くした。

 思いもよらなかった言葉にしばし戸惑い、そして逡巡しながらも口を開こうとする。


 だがその時、彼らの元に一匹のミミネズミが飛び込んできた。チュウヂュウと必死に鳴き声でミミネに何かを訴えかける。ミミネはそのミミネズミに向き直り、その言葉を聞き取る。


「ライ、今草原に人間が久しぶりにやってきたみたい。ボクは行くけど、ライはどうするの?」


「ああ、俺は……今回はやめておく」


 リースの言葉を思い起こし、思わず躊躇ってしまう。

 その様子にミミネは首を傾げるが、調子でも悪いのだろうと一人で納得する。


「じゃあボクたちだけで行くよ。ライの仲間にふさわしいくらいに強くなるから」


 そう言ってミミネは草原へとやってきた人間たちに襲撃をかけるべく、群れの仲間の元へと向かっていった。

 いつかライと一緒に、人間を滅ぼす時のことを夢見ながら。



 今向かっている先にいる人間、それがこれまで以上の強敵であることも知らずに。


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