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飛び込んで⭐︎メイド

 

 夜の私室。

 リカドール女王様は、お付きのものにローランド辺境伯からの手紙を読ませた。


「"そちらには我が領からの客人が近々訪れる。魔物使い旅団、と名乗ったのであれば、どうか対応してやってほしい。

 その者たちには我が領も良い影響を受けた。そちらの国にも必ず良い影響があるとは確約できないが、しかしながら、悪い影響は訪れないはずであるとお伝えする"」


 文量はたったこれだけだ。

 しかし、この短い文の中に、貴族間でやりとりされる伏せた真意が多く込められていた。


 まず、"名乗ったのであれば"そして"対応してやってほしい"という所。

 必ず優遇してほしいとまでは書いていない。

 つまりは名乗っていなかったと難癖をつけてひどい罰を与えてしまうこともできる。

 時と場合によっては、そのように処分してほしいと暗に伝える場合にも使われるほどのギリギリを攻める文章だ。


 しかし、その後には自分の経験からなる感想が並べられているところを見れば、ローランド辺境伯は決して排除を望んでいるのではなく、魔物使い旅団を優遇してやってほしいという気持ちだとわかる。

 そのうえで、女王様の顔を潰さないようにも気をつけているから主導権を任せたと受け取れた。


「きっと、リカドール女王様を信用なさっているからですわ」


 本国から連れてきた彼女の優秀なメイド長がそのように声を弾ませていった。


 リカドール女王様は、


「悪い気はしない。それだけ言っておく」


 と、無表情に返した。

  そっと控えめにメイド長は椅子の背に手を添え、リカドール女王様を寝所へうながした。


「さぁ、本日もよく働いていらしたのですから、睡眠を取りましょう。鉄仮面をつけているからお肌が荒れやすいですわね。マッサージを行い、化粧水の一番良いものを使いましょう」


「いつものように」


「はい、直ちに」


 しばらく後、リカドール女王様は眠りに入った。

 ベッドのすぐ脇に鉄仮面を置いて。


 しっかりと頭を下げた礼をした後、メイド長は部屋の外に出た。

 ほっこりと華やいだ口元はスッとまっすぐになり、食いしばられた。柔らかく細められていた目元はまつげの影を落とす。


「……ブツブツ、あの手紙は、どちらかと言えば、魔物の使い旅団の方を信用して書かれていた。失礼しちゃうわ。

 ローランド辺境伯ったら。

 しばらく滞在していたと言うならば、共に過ごす時間は長かったのかもしれない。でもねえ、会う機会が少なかったのだとしても、リカドール女王様の国の運営の手腕は明らかでしょうに。

 リカドール女王様を認めて欲しい。

 リカドール女王様を高めて欲しい。

 リカドール女王様を──……ブツブツ……」


 強い思いは胸に詰まって、階段を降りる彼女の足を急がせた。

 暗闇の中、無茶な早歩きをしたために、足をくじいてしまったそうだ。



 ***



 翌朝、レナたちはどこに観光に行こうかと話し合っていた。

 昨日市場で買ってきた服がある。

 着替えて軽やかな装いになった。


「作業をしやすい服が多かったよね。おー、こんなところにもポケットがある」


 レナは薄手のジャケットの内ポケットに気づいて、嬉しそうに言った。


「リリー姫に会うにはラフだが、散策にはこのほうがいいな。気に入った」

「うーん。私はもっとヒラッとしたのがイイかも……髪が短くてズボンだと男っぽいかな……」

「ギルティアは何を着てても可愛いですし。私だって、何を着ててもプリンスらしくなりますし。ほらっ」


 三人組はわりとファッションに興味がある。

 ハマルが色々と布地についておしえている影響もあるだろう。


「この辺の服ってー、ヤギの毛で織られているみたいなんですよねー。かなり細い糸にしてからー、ギュッと密度を高くするやり方でー、着てるとヤギになった気分ですー」


「羊毛を扱う方が一般的だから、ヤギは珍しいね」


「あとうちのパーティの服は、大体、白金毛糸でできていますしねー。それを染めてさー」


 どやハマル。


「服を買うときに、アルパカの毛のもあったよね。分厚いやつ。冬の夜は冷えるとかで……。でも燃えにくいんだっけ?」


「ボクは店主と少し話しましたよー。商業ギルド繋がりで声をかけやすかったみたいー。なんかねー、この周辺は空気が乾燥しててー、自然の火事がよく起こるんだってー。だからモコモコの動物は防火に魔力を使っててー、毛にもその名残があるみたいー」


「へえ。会話が上手になったねえ……ハー君」


 ハマルはそっと微笑む。


(あの顔は──……夢の中で踏んだり蹴ったりしてほしいって顔だ。最近そういう感じなんだよね。幼い後輩の目を気にしてあげるのはえらいけど)


 隠れてそれを行うことで、より、ディープな領域に足を踏み入れてしまったような、いけない気持ちがするレナであった。


 メイドが部屋に入ってくる。


 そしてレナたちをみて、おろおろと躊躇した。


「どうかされましたか?」


 レナの発音がこの辺とは少し違っていたので、目的としていた旅の人だ……とホッとしている。

 城の従業員は人数が多いため、全員がこの魔物の使い旅団を把握していたわけではないのだ。


 そして、若い彼女は突発的な行動をしてしまうことで先輩に叱られることも多かった。しかし、叱られてでも来なければという勘が電撃のように彼女を貫いていた。

 下級メイドの彼女は[プチラッキー]=自分が強く願ったときに思い浮かぶ突拍子もない考えは大体正解。というギフトを持っていた。


「ワタシなんかが、失礼は承知の上ですっ。先に謝りますっ。あの、朝の早いうちにごめんなさいっ!」


「支度も終わっていたし大丈夫ですよ。何か、話したいことがあって来てくれたんじゃないですか?」


「はいっ!……実は皆さんに相談をしたいんです。あのっ、体を治すためのお薬に詳しかったりしませんか?」


(ぐいぐいと圧がある子だな。なんだろう、けっこう苦手なタイプかも。……薬……)


 レナに思い浮かんだのは、ギルティアの治癒能力であるが、まだ試したことが少なくて不安定であり、この閉鎖的な場所で公にしても良いことにはならないと思った。


「まず事情を聞かせてくれませんか……? 私たちは旅人であり、冒険者でもあります。自分たちの能力は、生活の要。全てさらしてしまうわけにはいきませんが、でも同時に、このように招待していただいているんですから、できるだけ皆さんの力にもなりたいと思っていますよ」


(まあこんなところかな。こういうことを言うのにも慣れたなあ。

 よし、メイドさんが落ち着いてくれて、私も自分のペースで話せるようになった。今の彼女ならそんなに苦手じゃないや。

 今ってさ、多分、はじめから期待してレナパーティに声をかけてくるからびっくりする時があるんだ。もともと気楽だったときには、レナパーティを知らない人にこっちから近づいていけた。自分のペースを保ちやすかった。

 でも貴族に近いヒトはそうもいかなかったり、私たちのギルドランクはどうしても期待させちゃう。

 期待を裏切ったら嫌われちゃうかなって怖気付く気持ちもあるんだ。でも、この重みこそ、地に足つけて生きられてる証でもあるんだと思う。

 私と、従魔たちが、ここに居るって彼女たちの視線が足場を固めてくれている。

 困っているなら、できる範囲で引き受けよう)


「ありがとうございますっ。すっ、すみません、深呼吸をします……すー、はー。落ち着いて話します」


「お水もどうぞ」


 慌て続けているメイドに、レナは水を渡した。

 水を用意してくれたのはチョココだ。

 おもてなしのアレンジ。

 こういうところに気が利くのは、彼らしい成長の一つ。


 水には世にも稀なアレンジが施されていて、みずみずしいフルーツの混ざる香りと、喉の奥までスッとするようなハーブの清涼感がある。

 メイドは感嘆の息を吐いた。


(こんなにすごいものを、ワタシなんかにも用意してくれるんだっ。リカドール女王様がドゴルをすぐに渡したらしいのも、なんか納得って感じ。この人たちなら……!!)


「少し長いけど聞いてください。

 メイド長が怪我をしてしまったんです。足を階段で打ったとか言って、微妙に足を引きずっているのに、本人は頑なに休まないんです。リカドール女王様の日常のことを支えているから休むはずがないって叱られちゃいました……。

 そりゃ先輩は体調不良を隠すのだってお上手ですよ。トシノコウというかっ。

 でも……でも、リカドール女王様は、もしも自分の抱える部下が調子悪いって後で知ったら、きっと悔やむと思うんです。仮面で視界が狭いから気付いてないだけで、鈍いわけじゃないもん。そういう方だからっ! 先輩の怪我も、リカドール女王様のことも、心配なんです。けど、ワタシなんかには治療の心当たりがないんですっ」


「事情はわかりました。……なるほど。私が感じたのは、ただの旅人の私たちが差し出した薬を信用して使ってもらえるのかなあって。それに、ここには専門のお医者さんもいるはずでしょう。その方を飛ばして物事を進めてしまったら、顔をつぶしてしまいませんか?」


 キーユウがグッジョブサインを出している。


「多分……えっと、きっと大丈夫ですっ」


 キーユウがノーサインを出している。

 そして、バトンタッチしてくれた。


「残念ながら、他国の要人の重要な保有物であるメイド長に勝手なことは出来ませんな。レナ殿たちからみれば会ったばかりで詳しく知りもしないヒトだ。持病は? アレルギーは? 自分たちに効く薬とて、特例で毒になってしまうやもしれない。不調を起こして関係が悪くなれば、君がその責任を負うことになるのだよ」


 諭すように伝えたキーユウだが、


「ワタシ構いません。ここをクビになったって!!」


 返って火をつけてしまった。


「ううむ。クビ程度で事は済まない例も多いのだがなあ……リカドール女王様は対外的には厳しくとも、内側には随分と爪の甘いところがあるらしいな」


 皮肉は受け取り手の教養があってこそ効くものだ。


「ワタシは山の貧しい村で生まれたんです。少数民族で頼れるところもなかったから、幼い頃はいつも飢えてました。リカドール女王様がやってきて土地の仕事をくれたし、みんなで稼いだドゴルでご飯を食べられて嬉しかった。ワタシ嬉しくて、恩返しの気持ちでリカドール女王様についてきたんですっ。だから、もうどうなってもいいんですっ」


 キーユウが一番困るのは、打算のない無敵の善意だ。

 このような者たちが暴走すると、そこにあるのは力強い変革か、社会の悪人になってしまうかの2択である。

 この場合だったら後者に近づきやすく、レナたちを巻き込んで信頼関係をぐちゃぐちゃにしてしまい、チュナ帝国飛び地の評判に傷をつける……という本来彼女が望んでいたのと逆の効果を生んでしまうことだろう。

 気持ちはある。

 だが計画の実力が足りないのだ。


「あの、本当に心配でっ、なんだか昨日の夜、先輩の様子が怖かったんです……。これまでにないような重苦しさがあって……」


「夜の苦しさ」


 なんだか嫌な予感がしてきたキーユウである。


 ──友人であるローランド辺境伯は一体どのように手紙を出してくれたのであろうか。キーユウは面白い事は大歓迎だし、仕事ができる友人を信用もしているが、あいつそういえば最近ずいぶん表情が変化していなかったっけ? いい年越えてから心根が変化した男は、行動がころっと変わったりするものだ。

 まさに自分(キーユウ)がそうなのだから。


「それなら引き受けたほうがいいのでは?」


 ノアがレナにこっそりと耳打ちする。

 みんなが沈黙しているから、なんだか心がざわざわして耐えていられなくなったのだ。

 相談をしに来た相手が、はるかに格下のメイドであるという点も、順列が本能に刻まれている魔人族のノアにとっては油断となった。


「引き受けてくださるんですね!?」


 自分のギフトを信じきっているメイドである。


(う〜〜ん、良くない流れだなあ。診察するのは悪いことじゃないんだけど、また相手のペースに巻き込まれているっていう感じ。メイドさんもなんだかんだお城で上流のやりとりに揉まれて、自分のペースにひきこむのが上手いよね? したたかというか。かけひき、私も頑張らなきゃ!)


「メイドさん、お名前を教えてもらえますか?」


「カチューシャです」


「カチューシャさん。私たちは旅をしていますから、旅の途中で怪我をしてしまったときの応急処置の心得はあるんですよ。

 例えば……、そのメイド長さんと一緒にいるときに、私たちが彼女に"応急処置"を施して、その後に医療室できちんと就職しているお医者さんに診てもらう流れはどうでしょうか?」


「それが1番いいですね! 思いつかなかったです……!」


「気が動転してたみたいですもんね。話を聞いた限りだと、メイド長さんは仕事ができる程度の怪我ではあるんですよね。ただ、無理をしていたことが後でばれて女王様が傷つかないかも心配しているという感じで」


「そうです、そうですっ。ワタシ、最初からうまく言えなくってごめんなさい。少数民族生まれで言葉を知らなくて馬鹿だから。でも頑張るからっ」


(そそっかしいところがあるけど、善意いっぱいで気持ちがいいな。眩しい感じがする。アヌビス、一応チェックお願いね)


(ここで俺に振るんかい。やらせてること実質リリーとルーカのジェネリックじゃねーか。まぁ下心はないよ、こいつ。あとはお前が上手くやれるかどうかだけだ。てゆうか、良い時ばっかり使いやがって)


(またかまってあげましょうね〜。よちよち)


(フザケンナ!!!!)


「カチューシャさん。私たち、もともと今日は観光する予定だったけど、どこに行くかは決めていなかったし、お城の中もすごく広くて見るところがたくさんありそう。

 私たちが手を貸せるとしたらそのメイド長さんにうまく会うことができた場合だけど……そういう時を目指して、お城を案内してもらってもいいかな?」


「わーっ! もちろんです! ワタシがんばります。機会だってきっとあります。運がいいんです、ワタシ。もうダメだと思ってからひらめいてギリギリ間に合うんです」


 ポジティブなオーラが溢れている。


 廊下でメイドが働いている音がしていた。


 カチューシャはそれを指差した。


「ワタシはついてきた余分なメイドですから、いなくても仕事は滞りなく進むんです。今日のところは皆さんの案内をさせてもらえるように言ってきます〜」


「それはちょっと良くないよ。みんなが働いてるのはたり前じゃないんだし、メイド長さんみたいに体調不良のことを隠して働いてるヒトがいるかもしれないですよ。いくら余力だって言っても、です。

 女王様のために働く気持ちはあなたもちゃんと持ってるとしても、周りに伝わらなかったら、悲しいことになる。だからね」


 レナは手を取り、言葉を続けた。


「私たちもメイド業を手伝う。そういう話をつけてくれませんか?」


「それならメイド長にお願いしに会いに行きやすいですね。天才です。すごい」


「それほどでも」


 と言いながらも、レナが褒められて従魔の鼻が高くなっているので、なんだか自分まで嬉しくなっちゃうレナであった。



 ▽メイド長にお手伝いを申し出てみよう!


 ▽ハトモデルはおとなしくしていなさい。



読んでくれてありがとうございました!


お待たせしました><


地域の集まりが多くて、そっちに集中していたら、なかなかラナシュ脳に戻ってくることが出来ず苦労しました(。>ㅅ<。) 入り込むのが必要ですからね。


みなさまがラナシュ世界に戻ってきて下さるのも、こんなに長くお付き合いしていただけるのも、本当に稀有ですごいことだなと思います。

ありがとうございます…!


それでは、今週もお疲れ様でした。

良い週末を!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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