街中、ハトモデル、蝶の影、甘い花
▽シズル・タリアテッレは羊獣人(嘘)!
▽判定…………通過!
▽ハマルと群れ認定 通過。
▽レナファミリー いっきまーす!
▽空に大きな影が現れた!
▽言い争いしていた5人は 空を見上げた!
▽昼なのに夜が来た?
▽巨大蝶々が 通り過ぎていった!?
▽ハトモデルの やつあたり!!
▽カーーーーーーン!!(ゴング)
(本当にできてしまった……)
本来であれば[トライ・ワープ]は、自分一人が近距離に移動することがせいぜいの、珍しいけれど効果は低い魔法である。
よほどの天才が使えば使い所もあるのだろうが……(月光教会はこれをいずれ[ワープ]に昇格させたいと躍起になっていたものだ)シズルは思い出す。
教会の診療検診をうけたとき適正判明した者が囲い込まれ、過酷な訓練を強制された理由だった。
(──だというのに!)
今使った[トライ・ワープ]は、レナパーティを丸ごと引き連れたうえに強靭な結界をわたぐもか何かのようにすり抜けた。
自分一人だけの力でないことをシズルはすぐにわかった。
まず、自分の隣にいるハマルがこれを牽引したようなのだ。夜空の下で眠気を誘われるような魔力が自分を包んでいた。
それから、自分を結界の中に導くような引力。そこに行くと決めているのは、シズルではなくレナかのような。トライ・ワープを行う決定をのっとられたかのような感覚だった。あらかじめ同意はしていたが……。この感覚は体験したものでないと実感できないだろう。レナの迷いのない決定に従う恍惚感。
(自分一人だけならば、魔法を使うにも、迷いが生じる。本当にやれるのかなって。そこをレナが強烈にサポートして、100%を引き出すかんじ……。
魔物使いが従えるって、つまり、こういうことなのか)
ポンと弾けるように公園にレナたちは現れた。
(──で、この中に来たら、どうすればいいわけ?)
シズルは混乱する。
目の前の光景はと言えば……。
「資金が止められたのは、お前たちがうまくやらないせいだ!!」
「子飼いにしていた手下も従えられなかった、軟弱なそなたには何を言う権利もない!!」
「ああああ、とにかくむしゃくしゃしてるのよ、こういう時にも聖職者のふりをしなければならないのが、ああああうんざりするううう!!」
心の黒いところをぶちまけて言い争いをする幹部たちである。
彼らは対面を取り繕うプロフェッショナル"だった"。その巧みな話術で、悩める者たちにアプローチをかけ、またたくまに自分の懐に入れられる。彼らの本心が明かされることなどなく、教典に沿った心地の良い言葉を美しく演出するヒトのはずだった。
(……うわ。あの本音、マジかよ。およそ察してはいたけどさ。あのヒトたちの言葉と本音が違うことなんて。気に食わない奴の髪の毛をむしって、ジタバタと蹴って暴れるなんて、子供の喧嘩よりひどいぞ。
そのうえ、欲しがっているものが、おもちゃみたいな可愛げのあるものじゃなく、金や権力であることが気分悪すぎだな)
レナの手元でハトモデルの内容液がうごめく。
ハトモデルが最も嫌うもの。
それは、対面的に取り繕われて真実が隠されていること。
黒い液体の元になったモレックは、ずっと、己のことが嫌いだった。その性質こそ、隠された欲望を暴く──という暗闇様の特徴とマッチし、目の前の光景を生んでいるのだ。
またひとつ、ハトモデルの性質が確定した。
暗闇様の場合はさらに、"もともと持っていた悪意を膨張させてしまう"ところもより恐ろしい。
元情報の解明については、研究者ギルドが、やがて黒鏡の研究報告を出すだろう。
まだ、侵入者に気づかず言い争いが続いている。
レナはギルティアの耳を塞いであげていた。
そんなレナの耳はハマルが塞いでいる。
ギルティアは、
「この程度でドン引きするなら、もともとあの組織にいなかったよ。馬鹿にすんな」
と、レナの手をパチンと弾いた。
レナは心配しながらも、受け止めた。
レナの耳を押さえているハマルは、
(ちょっとあまりに汚い言葉が流れてるのでー、聞かせたくないんですよねー。たぶん、クーイズ先輩やリリー先輩でもそーしたんじゃないかなー? ボクもヒトの街に来てから、何がまずいのか体感的にわかるようになっちゃったー。まったくもー。早く、モスラ過ぎ去ってくれないかなあ? ……あ、いなくなったねー)
影が去ると同時に、やっとその手を離した。
レナに見えているのは、立派な格好をした三名の幹部が、その衣装さえハリボテのように掴み合いをしている様子である。
(幼い頃、あんな風に掴み合いの喧嘩もしたことなかったのかな。大人になって初めてそれが現れたみたいに、みんな夢中だ)
直感的にレナが感じたイメージは全くもって正解だ。
金勘定と振る舞いとテクニックだけを教えられた子供たちが、流れついた未来のが目の前である。
──日差しが戻った。
影が通り過ぎたことで、暗闇により増長させられていた悪意ある振る舞いは、抑えられ、3名はハッとして周りを見渡した。
レナパーティーが明らかに結界の中にいることにぎょっとしている。
足をもたつかせながら立ち上がり、威厳を保とうとしたのもつかの間……、表情を切り替えた。ビリビリとした嫌な空気だ。
この程度の人数、しかも小さな子供たち相手ならばすぐに殺して、なかったことにしてしまえる……と認識を改めたらしい。
「ああいう奴をよく知ってるよ」
結界の外でガラヌスが言う。
「君もそうだろう」
「もちろん、あなた様よりもたくさん存じ上げておりますわ」
ロマン・ティブがうんざりしたように言った。
「……切り抜けられるんだよな。なあ?」
「ガラヌス様、あれはSランク級冒険者ですわよ。紛うことなき」
「相手のタチが悪い」
「ええ、この街から見れば、月光教会はさぞ侮れない恐ろしい組織に見えるでしょう。最近は、薬物の運送にワープを使おうだなんて、倫理のタガも外れおぞましいことですわ。
しかしながら、少し遠くからこの街の教団を見てみますと、あのものたちが小物だとも感じますの。なんというか、しょせん想像が及ぶ。それに比べてね、世の中には想像もしないような不思議なことがまだあるんだなぁって──」
ロマン・ティブは、きらめくスライムや、テクニカルな技を持つ幼い魔人族たち、ヒトが悪意ある黒い液体になってしまったこと、研究者ギルドでみた未知なる論文など…………さまざま、頭に思い浮かべて微笑した。
「始まりましたよ! ノアが実況しましょうか?」
「…………、…………、……頼む」
返事が遅れるほどに、ガラヌスの返事が釘付けだった。
「茶色の粉塵、毒じゃないだろうな? 何がどうなってるんだ!? あれは……」
「ココアかな」
「……………………??」
「レナさんたちの肩に蜘蛛がおります。ええ、ココア。甘いスイーツですわ。キラシステムに変わって、ノアが実況いたします」
レナが号令をかけている。
全員、耳にかけていたマスクを鼻まで引き上げて、首にかけていたゴーグルをつけた。
唯一、シズル・タリアテッレだけはカバンからヘルメットを取り出し、頭にかぶる。
その姿を見て、相手たちは狼倍した。
(自分たちの計画が外にばれている!? もしくは、内部から叛逆者が出たというのか……あんなに締めつけたのに! 下層のヒトのなんと裏切りやすいこと……)
自分たちの振る舞いは棚に上げて、憎くシズルを睨んだ。三人ともが。
堂々と携えていた豪奢な杖を、直接ヒトに向ける。なりふりはかまわない。
狙いはシズルだ。
その前までは、1番小さなギルティアから殺そうとしていたが。
さらに、茶色い粉が舞う。
ついには視界を覆うほどだ。
広場はチョコレート色がドーム状になり、どれぐらいの大きさに結界が貼られているのか、はからずとも目視されることになった。
ガラヌスが想定していたどの戦い方とも違いすぎた。
「あれは……その、本当に……?」
「新作のようです」
「高級スイーツのココア?」
「ええ」
「なぜ?」
「あ、レナさんが結界の中で話してますよ。蜘蛛経由で伝わりました。ふむふむ……"粉塵で喉がつぶれたら呪文も唱えられない! 降参するなら動きを止めなさい!"……なるほど。
そして、結界エリアをハッキングして、スウィートワールドにしたのち、ヘルメットをいくつか創造します。
ギルティアさんがツルの鞭でヘルメットを動かす。
シズルさんへ攻撃魔法が当たらないようにしているみたいですね。ちなみにレナさんも手伝っていますが、1番動きがおかしくなっているのがそれです」
「説明されている言葉はわかる。しかし言葉だけだ。どうしてそのようなことになっているのか、理解を頭が拒否している」
「よかった。ノアの代弁は上手なようです」
「中にいるレナたちがおかしいんだろう」
「理解が早くて助かります」
「……。きっと、この現場を見ていなければ、あとで説明されたとて、幹部連中の言い分を誰も信じないのだろうな。レナは図っ…………て、なさそうだ。なんなんだ……」
ロマン・ティブは、昔一度だけ飲んだことがあるコーヒーにココアの風味を足したおいしい飲み物を思い出していた。
(レナちゃんたちといると、楽しいことばかり思い出す)
そして、建物の屋根の上から光景を見下ろしている存在がいることを、素早く察知する。
抜け目なく杖を向けながら、ノアに聞く。
「ノアちゃん、アレ、蜘蛛の巣に通してもいいの?」
「遠くまでよく見ていらっしゃいますね。問題ないですよ。レナさんの熱烈なフォロワーです」
「フォロワー」
「フォローをするファンです」
同じく言葉は頭に入れたものの、理解は追いつかないと思うロマン・ティブであった。
けして仲良くない、ガラヌスとロマンはこのときたしかに共感していた。
「あ、レナさんの鞭が上手くなってきている。えー、鞭が上手いのはレナさんらしくないけど……でも、かっこいいですねー」
▽一抹の不安。
▽レナ・藤堂が成長していくということ。
▽日本の体を忘れてゆくこと。
▽乖離の速度をみきわめなければ。
▽外からの介入には気をつけて過ごそう。
結界の壁に、ヒト型の背中の跡がついた。
ぺったり。
あ、三つ編み。
「「「……」」」
さすがに三人、同じ気持ちである。
「レナさんたらお茶目」
「ノア殿の贔屓目もなかなかのものだな。……! いま、光ったぞ」
「魔物の進化の光です。間違いありません」
「主人のピンチで従魔は本気を出す、って聞いたことはあるけれど?」
「ええ」
「熱烈なフォロワー、とやらもそうなのかしら?」
ロマン・ティブは杖を構える手が震えていた。
(レナパーティの身内だと言うならば、口撃せず、まて、まて、まて、まて……!)内心繰り返して唱える。いっそ、攻撃してしまえたほうがラクなくらいだった。
待機状態で脅威に目を光らせ続けるほど疲れることはない。
今、ドームの中はぐるぐると風が渦巻いていた。
ココアミキシング。
ちょうど、端っこにいるレナの目前でそうなっているようなのだ。
結界があるというのに、そこまでの介入ができるものなのか?
ほかの従魔を、熱烈なフォロワーとやらは犠牲にしたのか?
「あ! 蜘蛛が風酔いでヘロヘロ……」
少なくとも、ノアの蜘蛛の命は奪われていないようである。
『にゃー』
観察者たちは後ろから聞いた。
アヌビスはいつのまにか後ろにいたのだ。
その首根っこをつまんでいるのは、執事服の美青年である。
「もちろん様々な力をもらっている分天秤が片方に偏りがちですが、その反対の天秤をどのようにか重くして均衡を保つならば、自分たちのためだけではなく、世界に対して大きなことをするそのように釣り合いを取ります。先に言わせていただくならば、下心や野心ではなく、もともとのお心づもりで自然と天秤が釣り合うのがレナ様であると言いましょう。もしかしたらこの世には同じように大きな力に恵まれたものがいたけれど、自分のことばかりで周りを助けようとしなかったがために天秤が傾ききってしまい、とんでもない悪にも見舞われた。そのように、消えていた生き物もいたのかもしれませんね。そのような小物とは器が違うのです我らが主人はお分かりになりますかええそうでしょうとも、従えられて見なければけして至ることなどできません」
「……おおーっと! モスラさん! お久しぶりです!」
さすがのノアも出遅れた。
「従魔契約した主人と離れていた期間が長いのでさみしさをたくわえていましたね! ノアにも、何いってたのかよくわからなかったです! でも、愛はありそうですね!」
「君、きゅうに解説が下手になったな……」
「ええー。結界の中、三半規管を乱された幹部のダウンです。きますよ、きますよ……」
▽カーーーーーーン!!!
▽シズル・タリアテッレの勝利!
「あ、他人名義借りてる」
「そのようですね。諸事情あるのでしょう」
「キラさんは間違えませんからね」
「ふふふ」
モスラは警戒を解いた。
キラの判断があるまで待っていたのだろう。
そしてうっとりと、素晴らしい主人を振り返り見た。
ココアまみれである。目と鼻は守ったものの、全身粉まみれなのは当然の結果であった。
そして、茶色の状態で走り寄ってくる。
たたたたたた……!
▽全身茶色なので個人特定はされない!
▽ちょっと不審なだけ!
「ガラヌス様記録とれました!?」
「あ、ああ。幹部の自白も含めて……」
「ロマンさん、片付けと、気つけの光魔法お願いします!」
「やるけどぉ。やるけどねぇ!?」
「ノアちゃん!」
「なんかうまいことしときます!」
「さすがー!」
((軽い!))
レナは当然のように手を伸ばした。
「モスラ、空に連れてって!」
「仰せの通りに、我が主人」
「さらにキマッてるね……! あ、ヒト型のままでだよ。できる?」
「望んで下さるのであれば、やりますとも!」
その日、ミエネット王国トロックラの街の屋根を甘い奇跡が走り抜けた。
茶色の艶やかな花びらがあまりに甘い匂いなので、口に入れた貧しいものは、たちまち元気が湧いてきて体調が整ったという。
[ココアテイスト]……健康効果も高いスウィーツを作る。チョココはナース服になる。
[ココアフラワー]……ほろ苦く甘い花が咲いた。誰かを助けたい思いが込められている。
読んでくれてありがとうございました!
さて、週明け、頑張りましょう!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




