仕事は完了
【とあるカフェの裏側へ──】
レナは花売りに会った。敵意がないので従魔は通した。
(なぜ偽物の花?)と思っていたが受け取り、"紙"花の花弁をくるくると開くと住所が書かれている。
そこに向かえば人気のない寂れたカフェがあり、レナが花を持っていると見るや「大勢様ですからね」と個室に通された。
個室の扉を開けるとなぜか長い廊下があり、新たな扉がある。チリリン、と扉のベルを鳴らしてみると、内側から開いた。
案の定、ガラヌスたちがいる。
室内はまるで民家の中のようだ。
<カフェの裏側の住宅街と繋がっているらしいですね>
(へえ〜。こういうのも、私たちがただの旅人よりも深く滞在してるから、分かっちゃうようになってきたのかも。あっちが深入りさせようとするヒトなら近づいちゃいけない頃合いだし、遠ざけようとしてくれてるなら少し近いくらいがいいはず……。今回は近寄ってもよさそう)
<ええ。マスターレナのよろしいように。御身の危険となれば従魔総出で対抗しますので>
(やば。私が危険にならないようキヲツケマス)
ごくり、レナは唾を飲み込んだ。
それを、恐れさせたかとガラヌスは勘違いしたらしい。
危険なのはお前のほうである。
従魔の目が光ってるぞ。
「お疲れ様です。わざわざ場所の用意までありがとうございます。ところで、カフェの注文はここでもオッケーなかんじです?」
「君なぁ……。なんともふざけた契約人だよ」
「だってカフェに来たんですし〜」
レナの軽口によって場の空気は和んだ。
ガラヌスは部下に言って、カフェのメニューを持ってこさせた。
まさか奥の秘密の部屋で、カフェドリンクを頼むヒトが現れるとは思いもしなかった店長は、ずいぶんと驚いていたそうだ。レナたちが遠慮なく高いものを注文したので、気分よくプリンなどおまけをしてくれた。
(報告の場でプリン…………。しかしなんともよく似合う…………)
ガラヌスはここに来るまでの間にイライラしていたのだが、レナたちののほほんとした様子をみていると、すっかり肩の力が抜けた。
苦手なエスプレッソに、ミルクを入れて堂々と飲んだ。
どうせこのくらいの方がレナパーティには好印象を持たれるのだろうし。案の定、チョココとの話題の種にもなった。従魔はレナにだけ従属しておりガードが堅いが、チョココ・バニラには隙がありそうに見えていた。
ギルティアは妙に隙がなく、赤ちゃんのようにダダをこねたかと思えば冷めた目をしたりと(二面以上ある女は警戒したほうがよい)ガラヌスは距離をとった。色男であることもお子ちゃまには通じない。
和んだ雰囲気でも、報告はしっかりと行われた。
[傍聴]:掃除係
「愛と藍の派閥は上にいくほど方針の違いはあるかもね。下のほうではともに作業をしている同僚だよ。実務の点では同じようなもので、みなさんのためになるようにってね。ただお考えのところに違いがあるそうで……自分にはとてもわからないが……あ、教本が二種類あるんだ。あとでみておいで」
[傍聴]:二つ隣の席
「あの子たちも月光教会に興味があるのかな? いいなあ、あんなふうに綺麗な見た目ならきっと階級が上るのも早い」
「しぃっ、そんな言い方しちゃいけないだろ」
「あ、そうか。でもさぁ、約束された勝利じゃん。身綺麗ってことは貯金があって余裕のある生活で、上のヒトの同僚になるならそんなヒトじゃないとな……。しかし不正選挙だ」
「こら!……」
[傍聴]:キッチン
「料理が足りない! 持ち寄ってきてくれたものもあるのに、出ていく一方だよ。皿が空になっちゃう、うわわわ。急げ〜。藍の方はいいよ、夜を眺めるのを大事にしてるから。愛の方はまずい、愛が空になったら意味がないと叱られる。でもさ、愛があるなら手伝ってほしいのに、現場で働くのはほとんど"こっち"だ……」
[傍聴]:受付
「もしかしてあそこにいるのはシズルじゃない……?でも、ううん、背格好が似ているだけかも……。いや、万が一のことがあれば……」
「気づかなければいいの! せめてあたしたちじゃないようにね。わざわざトラブル拾っちゃだめよ。いい仕事降ろされちゃう」
「う、うん。クビになるわけにはいかないもん」
「同感よ〜。トロックラは最低賃金安いもんね」
他、10枚ほど………………。
「正直に言おう。すごいものだよな〜」
ガラヌス、ついにプリンにも手を伸ばしながら。
背中に冷たい汗が流れているのだが、そのようなこと態度に出しても損なだけである。
「冒険者のクエスト達成力がさすがだ、と言うべきところだが、おそらくこれは君たちでなくては無理だった。あ、その顔、自覚して武器として使ってるな? それでいいよ、その方がおそらく全員幸せだ。君たちが真面目腐って不幸な顔をしていたら運も逃げる、誰も喜ばない。
自分は誰にでも好かれる自信こそあるが、それでも、心を開いて内面を話してもらうのは難しい。
君たちの武器、一見恐ろしくなく人懐っこく、それでいて馬鹿ではないのがいい」
「うちの子たちは本当に可愛いでしょ」
レナの言葉は背後のみんなをカバーする。
してしまう。
気まずそうなのが一人いる。一時的にファミリーにされてしまったシズル・タリアテッレ。性格にも経歴にも可愛げがないのももちろん、13歳と偽りながらも実際のところレナと同じ年齢である。
ガラヌスはそこんとこどーーでもいいので、「はははレナはユニークだな」と適当に肯定した。
(従魔に評価をスライドさせるところは無意識の彼女の自衛かもしれないな。従魔がひとり絆されてもいいが、レナが目をつけられたら詰みだ。従属契約をしているグループ根こそぎもっていかれる。あまりに価値がある。
それをさらしてくれている程度には、仲良くなれているのかね)
ガラヌスは距離を冷静に測る。
しかし、当初のようには近づこうとしない。
レナと自分の間には、階級や経験以外に、とくべつな差があるとわかってしまった。
報告書を眺める。
そして最前列に座るレナを見る。
レナはカフェオレ片手に、返事を待っていた。
(縁ができてる。今はこれでいい)
「クエスト完了だ」
「やったー!…………で、これからどうするんですか?」
「さて、部外者に教えるわけにはいかない。ダンジョンにでも遊びに行ってきなさい」
(やっぱり、ほどよく距離をとってくれるんだ)
レナは、ノアと目を合わせた。
ノアはいたずらっぽく笑っている。
「私たち、今仕事を終わったという事は、友達に戻ったわけじゃないですか? それとも友達だと思っていたのは私たちだけですか?」
「君、ずるいぞ」
「世の中を渡るのに大切なことを従魔に教えています。魔物使いなので」
「知ってる魔物使いはそんな感じじゃないんだが……。
…………。
……報告書をもらった限り、あの組織が立ち行かなくなるのは時間の問題だ。立ち行かなくなる位ならマシだが、街中で爆発されては困る。この国を守らなくちゃいけないんでね。そうなる前に裏から手を回すのさ」
まるで牽制するように。
「君たちは、教会の者たちを助ける義理はないだろう」
「そっちの人々については、まだ仲良くないし、私たちが努力して守るべきとは言えないですね。正義の味方ではないし、信念のためにこんなのはおかしいって暴れるタイプともまた違います」
「じゃあこれ、おやつな」
「お散歩に行かそうとしてます?」
「チップだ」
「何のですか。もう」
「楽しく話してもらってるからな」
「友達やめます。さようなら」
「本当にごめんそんなつもりじゃなかった! 思い切りがよすぎる」
「冒険者ですので」
「いろいろ便利だな」
ふふんという風なレナがどっしりとソファの背もたれにもたれかかったので、そうも話し合ってくれるつもりなのかと、ガラヌスは心底驚いた。
厄介ごととなれば逃げていくヒトばかりであったのに。
「あのね。これまでガラヌス様が決めつけてきた組織のイメージと、私から聞く組織のイメージが違っていて、困っていたんじゃないですか? そんな風に見えてます。もしそうなら今から方針を変えたっていいと思いますけど。変な爆発さえさせなければいいんでしょ?」
「なるほど。俺のためになら頑張ることができると」
「友達は大切にするタイプですが、愛想がつきないようにお願いしますよ? まあ思いがけず早くローランド辺境伯もまたそれなりの仲良しなので、彼の手紙を届けにいってくれるまで責任持ちたいところもあります。この街を安定させてからお城に帰るおつもりのようですから」
「他のものの名を出されると、さすがに少し嫉妬するな。こちらのほうがやる気が出る。──では聞くが、どうすればいいと?」
レナたちは天使みたいに微笑んだ。
それこそガラヌスと護衛も一瞬見惚れるくらいに。
「爆発させたらいいんじゃないですか?」
得意技である。
▽再びハトモデルを使ってみよう!
▽吉兆の場所で混乱を起こそう!
▽[ライト]を使いこなすロマン・ティブを誘おう!
▽[トライ・ワープ]を扱うシズル・タリアテッレを使おう!




