教会のフードバザー
報告書を睨むガラヌスを、護衛は(珍しい)と横見する。
ぐるり、周りに他人がいないことを確認して、ずいぶんと砕けた様子で声をかけた。ガラヌスのような仕事に付き合っているのだ、目標を同じくする気心知れた仲間である。
「もう決まったことに対して、あなたがそんなに悩むとは珍しい。レナパーティはもう出発されましたのに」
「そこだ。なぜ、誘わないのだか……」
「と、言わないから」
「……。戦力は多い方がいいはずだろう?」
「Sランク冒険者に?」
「……。俺は魅力的だ」
「潜入捜査に魅力はノイズですよ」
「マイフレンドと言ったくせに」
「あきらかに口車でした」
ププーっと、もう一人の護衛があさっての方を向いたまま吹き出した。
ガラヌスはむすっとしたが、”うまくやられた”ことは自分でもわかっている。
「それにレナ本人にしても、なんだか混乱しやすかった……と、先の会話を思い返していた。俺も精神が浮つくようなところがあり、ハトモデルの”暗い気持ちを増幅する”すなわち精神の乱れを起こすことが関係しているかもしれない」
「では、確認のためにもまた会わないと。彼女らの帰還が楽しみですね」
「周辺に監視は?」
「ありません。ロマン・ティブがミエネット王国に着く前に襲われたという野党、その関係者は彼女らが排除にかかっていますし」
「そっちも報告書を待つか。待ち時間なんて、我ながら珍しい」
「ふつう、誰もやりたがらない仕事ですからね」
「あの子たちが楽しげに出かけて行ったのも、解せない」
出かける前、レナたちはキッチンで料理をしていった。
潜入捜査に必要なものづくりだが、それはそれは楽しそうに見えた。
「暗くくだらない仕事を、そのままにしておかないんだ。驚きだよ。あれは笑う努力をしてる」
「ガラヌス様も見習うとよろしいかと。誰かに笑わせてもらうために夜の街に出かけるよりも」
「今更、昼間のお茶会で微笑むような男だと思うか? ……出がけのティータイムで俺が笑ってみせたのは社交だ」
「「ええ、存じております」」
「あーもう」
別の話をしよう、とガラヌスは再び書類を睨んだ。
「参考人かつ戦力として、レナパーティには、馬車に飛び込んできたという不法侵入者一号をつけた。つけたが……しかし一体どうして、あんな年頃の子たちが『昔犯罪者を預かったことがありますし』なんだよ。しかもギルティアはその一人だったとは、ジーニアレス大陸は野蛮だな。罪人の社会奉仕活動は冒険者ギルド間で連携されているというウソか誠かあやしいくらい例のないルールを話してきたから疑ったが、外交官のノア殿がいうのだし」
「本当でしょうね」
「まあ、ぴったりなんじゃないですか。魔物使いが[従順]にさせるなんて」
「とは言えだ。あの華奢さだぞ」
((このヒトが心配してる……))
いっそ感心しながら、護衛は耳を傾ける。
ガラヌスという人は、人懐っこい性格なのは事実だが、その生い立ちにより誠に信用できるヒトに出会えたことはなかった。賃金と年数のぶん、護衛を信頼しているが、それが限界だった。
そこにちょうど良い友達ができたと思った。
なにせ、相手は金も人脈も戦力もじゅうぶんに持っていて、旅の話は面白く、心が腐ることなく明るい。心清らかさをバカにして搾取されるのではなく、薄暗い気持ちで近づいてくるものを照らして明るみにさらすような頑丈さがあった。
((無くしたくないのだ。そんな友達に出会えたのか))
「いい報告を待ちましょう」
「成功すると思うか?」
「Sランクの実力、みせてもらうとするか」
▽月光教会の食事会に潜り込もう!
トロックラ地区で一番大きな月光協会の建物では、月に1度、食事会が開催される。
わずかな寄付をして参加するか、恥を忍んで貧しいことを伝えたら無料でも参加ができる。
大皿料理は、信者の中から料理の腕自慢たちが持ち寄ってくれる。さまざまな家庭料理が並ぶ。ポテトサラダ、小エビのサラダ、すじ肉の煮込み、ささやかなパン……。
ただし、この時だけは月光教会のスカーフをかぶらなければならないという決まりがある。
教会の建物の前では、わざわざ幹部が立ち、スカーフを道行くヒトに勧めては、このイベントの説明をしていた。
ただし、2人ほどは顔色が悪い。
(参加者が多い、それにしては料理の皿が少ないなぁ。空の皿も増えてきた。となれば空腹の者もいるし、ううむ、士気が盛り下がっている……どうしたものか……。イベントの企画者は"私"なのに、もし失敗したら、幹部を下されるかも? せっかくここまできたのだから下りたくない! こわい……)
▽クエストの確認をします。
「キラ、お願いね。今日は調子が良さそうだね」
<ありがとうございますマスター・レナ。たまにはこうして音声を発しないと、なまりそうですから。準備運動程度ではありますが、ちょこっと話します>
「キラと話せて嬉しいよ」
<従えてーーーーッッッッ>
「こらこら……!」
「キラ先輩に燃料与えたらそうなりますよー」
「レナ様の言葉はチョコレートも溶けそうになりますし」
「いつものやつじゃん。予想しろよな」
「これが、リリー姫が大好きなノリツッコミか……ん? セルフボケ?」
「はい、どうぞ。布を冷やしておきましたので、キラさんの冷却に使ってください」
「ノアちゃん、ありがとう」
興奮状態のキラをなだめた後、続いて話を聞く。
月光教会の建物に近い道の端に、レナたちは雛鳥が巣にいるみたいにぎゅっと集まり、耳を澄ませた。
道ゆくヒトたちからは、子どもたちが”押しくらシュー”(押しくらまんじゅう)の遊びでもしているのだろう、と微笑ましく見られていた。
見守りであろう青年の方を紳士がこづいて「お兄さん。しっかり見ててあげなさいね」と爽やかに言った。
馬車への不法侵入罪で経過観察中のシズル・タリアテッレである。
なにか喋ることは禁止されているため、ひきつった笑みで返事をするしかなかった。
(なんだこれ!?)
気持ちはわかるぜー、と、アヌビスが誰にいうでもなく黒い尻尾を揺らしてあくびした。
▽月光教会の内部調査
[建前]
現状、月光教会の旗が街中に多すぎて、あらゆるところで光が遮られがちである。また清掃が行き届いていないため、道に落ちた旗が道路の脇に山になったところも見られる。信仰深いならば、改めてもらえるよう、いずれ進言をしたい。
[本音]
月光教会には昔からあるグループ[藍]と新しいグループ[愛]が対抗派閥として在り、内部爆発の危険がある。街にまで影響を及ぼさないよう未然に防ぎたい。問題点を口実に、攻め入ることを想定し、内部情報を集める。
▽方法
月光協会内部に潜入する。
▽詳細
一般市民に教会の建物が解放されてトロックラ・メンバーが集まる機会がある。フード・バザーに参加し、信者たちの様子をしっかり観察して届ける。
▽リスク
もし様子のおかしい信者がいたら、(例:[トライ・ワープ]で攫われるなど)むりやり仲間にされることを避けること。
▽受ける者
冒険者ギルド Sランク:レナパーティ
何を話しているのかは、シズル・タリアテッレには聞こえなかった。
何かしらうまいこと調整しているのだろうと、それだけだ。
ノアがレナたちに別れを告げ、紙の手提げ袋に入った料理をもって先に建物に向かった。
(あれ? いつのまに、他の仲間と合流したんだろう。この辺では珍しい水色髪の男だ)
イラ、と、ノアは彼に声をかけていた。
「私たちもいこっか」
(反対側の入り口からでいいの? だから別れたんだよな?)と……ノアたちと建物を指差しながら、シズル・タリアテッレがレナに尋ねる。
指差したが、上着の裾に指先はほとんど埋もれた。オーバーサイズの服を着せられている。傍目には、背が高くて体格のゴツい目つきの悪い男の見守り、のように見えていた。(罪の経過観察中、って印を隠すためにもちょうどいいのかもな)と、悲哀のまなざしをみせる。
(姉さんには迷惑をかけたな……)
(と、こいつ思ってるけど)
アヌビスがレナに言う。
(不幸にもうちの実証実験の第一号にしちゃってごめん!)
これはレナの本音。
(いずれやらかしたとしても、今誘ったのはこっちだからな。今回は罪の記録に残らないように調整してもらえるとはいえ、それはハトモデルの効果が認められてからだ。そのためにも、頑張りましょー)
(思ってても言わなきゃ伝わらんぞ)
(言ったら気にさせちゃうじゃん。黙っているのは心苦しいけど、本人にとって一番ベストなタイミングでちゃんと言うよ)
(私だって心が痛いんですぅって被害者仕草?)
(そーそー。アヌビスにも聞かせちゃってごめんね)
(まったくだ!)
そんなこと隠して、レナはからりと笑うのだった。
(……。異世界人の記憶、薄くなってきてるな。なんだってそんな面倒くさい経歴もってんだ。しかも俺に教えるなよ、面倒臭い。ええい、ここらで一発調整しておかないと、主に俺の予後が悪い! やるか)
▽えー。
(アヌビスの天秤がそうした方がいいって言ってる。俺の意思じゃなくて世界の真理だ)
▽ピンポンパンポーン♫
▽マスター・レナは ファミリーマインドを使った。
「キラ!? 何それ!?」
▽期間限定ファミリーを設定。
▽ノアを フレンドリストへ。
▽ハマル チョココ ギルティア バニラ を弟妹へ。
▽アヌビス をペットへ。
(おい!!!!)
▽シズル・タリアテッレ を兄へ。
「あ、そう言うこと。──シズルお兄ちゃんこの荷物持ってー。重いから手伝ってね」
「!?!?」(どういうこと!?)
▽キラを 天の声へ。
▽なつかしい スマホの案内 日本の夏(字余り)
▽ここで、受付の反応をみていこう。
レナたちは紙袋4つもの料理を差し入れした。このあたりの屋台でよく使われる四角柱の紙皿の中に、コロッケ・焼き茄子ペペロンチーノ・焼き栗、バニラマフィンがそれぞれぎっしり入っていた。
お惣菜としてほどよく贅沢で、かつ取り分けしやすい、気遣いのあるチョイスである。
しかも持ってきてくれた子達が天使のように可愛い!(※天使族とは異なる分類です)
めろめろでスカーフを渡した。
差し出されたのは、藍色のスカーフと、白色のスカーフ。
どちらがレナパーティにより多く受け取ってもらえるか、ばちばちに争いが起こった。
▽バトル、ファイッ!!
▽観察しておきましょうね。記録、記録っと。
読んでくれてありがとうございました!
そこを歩いていくだけで周りの異常を引き起こす、レナパーティ(わりきりのすがた)。ヒビだらけの組織ならば、内部を垣間見ることもできちゃいそうですね。
アヌビスは「将来とりかえしのつかない悪事をはたらく前に、軽犯罪で反省ルートに進めたなら、それはラッキーだったんじゃね。あいつ運がいい」とみております。はたしてアヌビスも「俺運がいい」となれるのでしょうかね。
今週もお疲れ様でした!
よい週末を!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




