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第59話 最悪の世代と『こっち側』の人間

「そーいやァよォ、黎翔は召喚される前ァ何してたんだァ?学生かァ?」

「一応高校生ではあったよ。ただ、家が猟師の家系だったもんでな、そっちの手伝いをしてた」

「ほォー?てこたァ昨日のあの動きはそれで身についたッてことかァ?」

「いや、流石に獣と肉弾戦したことは無いから多分違う」

「獣と肉弾戦とか初めて聞いたわ、ンだその状況ォ」


 ベンチに男二人で並んで座り、談笑を重ねる。

 恩人兼友人という立場である御織と異なり、完全に対等な立場で友人として接することの出来る紀章は、黎翔にとってかなり貴重な存在だった。この時代で、今のところ唯一気楽に話せる相手だから。


(気ままに話せるっていいな。御織も別に気を遣う必要が無いのは分かってるけど……いかんせんアイツは異性だからな。それもあってちょっと緊張するから……)


 チラリと彼の美少女を見る。

 妃と楽しそうに服を見ているその笑顔は、相も変わらず可愛かった。最早その笑顔だけで死ねる気がした。


 と同時に、隣に立つもう一人の異性にも意識を向ける。


(……普通に楽しそうだな、妃も)


 昨日は比較的大人っぽく冷静そうな印象を受けた妃だが、今日は御織と一緒にとても楽しそうにしていた。笑顔も自然で、昨日のイメージより明るく感じた。


「あ、そだ」


 妃の顔を見ていたら、黎翔はあることを思い出した。


(そういや、妃の言ってた『こっち側』って結局何だったんだ?)


 それは、ここに来る前の妃の発言。

 騎士団本部で合流した時、妃が紀章に


『それにさ、黎翔くんは多分『こっち側』に来てくれると思うよ?紀章くんの働き次第でね』


 と言っていた。

 黎翔は、結局『こっち側』が何を示すのか分かっていないことを思い出したのだ。


(何かは分からんけど、別に隠さなきゃいけないことでも無いだろうし……聞いてみるか)


 そう考え、妃を眺めてニヤニヤしていた顔を紀章の方に向ける。


「なぁ、聞きたいことがあるんだけど」

「 あァ?ンだぁ?」

「さっき妃が言ってた『こっち側』って、なんのことなんだ?」

「あァ……それかァ」


 紀章は、急に声のトーンを落として一瞬チラリと周囲を見渡した。

 すると、紀章は急に真面目な表情になり、黎翔に真っ直ぐな視線を向けて話し始めた。


「そうだなァ、黎翔には言っといてもいいだろォ。話してやる」

「おう」


 紀章がやけに真面目な態度だったため、黎翔も改めて向き合い、姿勢を正した。


「『こっち側』ッてェのを説明する前にィ、いくつか知ッといてもらうことがあンだァ。具体的には、俺たち『一年四葉組』の現状ッてとこだァ。黎翔、これは今後のおめェーの大学生活にとッてマッッッッッジで大事な話だから、よく聞いとけェ」

「お、おう……分かった」


 紀章は、一度深呼吸を挟んだ後、説明を始めた。


「まず、俺と虹崎が所属するクラス───要は黎翔が入る予定のクラスだなァ。このクラスは『四葉組』ッて呼ばれる、蕾種大学で一番優秀なクラスだァ。そのこたァー知ってんだろォ?」

「ああ、御織から聞いた」

「そンだけ知ってりゃァ上等だァ」


 そこまで話すと、紀章はどこか苛ついたように小さく舌打ちした。そして、黎翔から一瞬視線を外しながら、話を続けた。


「早速本題だが……俺達の代、つまり現『一年四葉組』は、過去最悪の世代ッて呼ばれてんだァ」

「過去最悪の世代……?」


 黎翔は首を傾げながら聞き返した。


「なんでそんな呼ばれ方を……」

「今から話すから、黙って聞いてろやァ」

「お、おう」


 そう言う紀章は、随分と不服そうだった。


「前提条件として、蕾種大学は普通の大学じゃねェ。騎士団のお偉いさん共が、モンスターと戦える兵士───騎士を増やす為の場所だァ。だから、ほぼ毎日実戦ッつう形で模擬戦が行われる」

「まぁ何となく想像はつくな」


 錯羅が言っていた『訓練施設』という言葉を思い出しながら、少しだけその光景を想像する。


「その模擬戦は基本クラス内で行う。が……月一で他のクラスや学年の奴らとも戦ンだァ。刺激を取り入れる為になァ」

「ま、そうじゃないと流石に飽きるわな……」

「『四葉組』以外は、な。他学年、他クラスとの交流は『四葉組』のためじゃァねェ。『四葉組』以外の奴らが『四葉組』と触れることで経験値を得ることが目的なンだよォ。『四葉組』同士の模擬戦が目的の一つなのも間違ッちゃァいねェーだろォけどなァ」

「え、そうなのか?」


 少し穿ちすぎでは……と思わないでも無かったが、それだけ『四葉組』が異常なのだろうと黎翔は理解した。


(天才たちは、同じ天才たちとの戦いの中でより速く成長する。だから同じメンツで戦い続けても飽きない……ってことか。バケモンだな)


 感心とドン引きの二つの感情を抱きつつ、紀章の話に意識を戻す。


「『四葉組』ッてェのはその年代で一番の才能達が集まる場所だァ。全員が国に選ばれた天才であり、他の奴らとは次元が違う力を持ッてる。そンな奴らが本気で鍛え合うんだぜェ?飽きる訳ゃァねェーだろォ?だから、上級生であろォーと『四葉組』が他のクラスに負けるなンてこたァー許されなかったし、実際一度も無かったらしいなァ」

「ほう……ん?」


 黎翔は、『今まで』や『らしい』などと他人事のように話していることに違和感を持った。

 それは、一つの可能性を示唆していた。それに、黎翔はすぐに気づいた。


「……まさか」

「あぁ、そうだ。俺たち『一年四葉組』はァ───模擬戦で、『三年二葉組』に負けたァ」


 紀章は、ギリッと歯を食いしばった。余程悔しかったらしい。


「負けた……っていうのは?」

「他クラス交流会の模擬戦は、剣道の団体戦と同じだァ。タイマンで試合して、その試合での勝数が多いクラスの勝ちッてルールで行われる。ウチのクラスは全員で28人いンだが、その日はクラスの上位3人がいなくてなァ。全員で25人だッたんだが……そのうち、23人が負けた」

「負けすぎだろ!?」


 想像以上の数字に、つい態度に出して驚いてしまう。

 失礼な反応をしてしまった……と口を噤みながら後悔する。と同時に、気づいたことがあった。


「あれ、もしかしてその勝った2人って……」

「あァ。クラス4位の俺と、クラス5位の虹崎だァ」

「え……お前らバカ強いじゃん」

「言う程じゃァねェーよ。俺も虹崎も、上位3人の足元にも及ばねェーからな」


 本人はそう謙遜したが、凄いことに違いはない。感心しつつ、会話を続ける。


「にしても……なるほど、そうか。戦いに負けたから最悪って呼ばれてるん───」

「いや、ウチのクラスが過去最悪ッて言われてンのはァ、弱いからじゃァねェ」


 紀章は、黎翔の語を遮るように声を被せた。その声は、更に強い怒りが感じられた。

 両手を握り締めた紀章は、そのままの声で続けた。


「『一年四葉組』が最悪ッて呼ばれてんのは───模擬戦で負けた弱い奴らが、『強くなりたい』ッて思ッてねェーからなンだ」

「強くなりたいと思ってない……?」

「あァ。昔クラス内で色々あッてなァ……全員、心が折れちまッたんだ。講義はマトモに受けねェーわ、模擬戦は適当だわ。正直、今の『四葉組』の熱量は『一葉組』にすら到底及ばねェーだと思ッてる」


 黎翔は、その話を聞いてようやく紀章の怒りの原因を理解した。


(コイツは、弱いクラスメイトに怒ってるんじゃない。やる気のないクラスメイトに怒ってるんだ。そして……)


 再び、紀章の方を向く。


「つまり、お前たちの言う『こっち側』っていうのは……本気で強くなろうと思って、努力出来る奴……だな?」

「そうだ。俺と虹崎は本気で強くなりてェのに、今の『四葉組』じゃァ相手がいなさすぎて話にならねェ。俺たちと、本気で研鑽を積める奴が欲しいんだァ。頼む、協力してくれェ」

「……なるほどな」


 紀章は、座ったまま深々と頭を下げた。

 黎翔は、もう一度まっすぐ紀章を見つめた。


(コイツ、こんなチャラい見た目だけど……実際は真面目で、芯の通った強い奴だったんだな。強くなる目的は分からねぇけど……んなもん、関係ない)


 考えをまとめ、口を開く。


「紀章、俺の方こそ頼む。お前たちと一緒に、強くならせてくれ」

「……!!あァ!よろしくなァ、黎翔ォ!!」


 黎翔の答えを聞いた途端、紀章は嬉しそうに笑って手を差し出してきた。


(うおぉ……なんか青春って感じでいいな)


 黎翔は、少し恥ずかしさも感じつつ、ゆっくり手を差し出した。

 そして、二人で握手を交わす───

 瞬間だった。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン……


「「……ッ!?!?」」


 どこからともなく、不幸の鐘の音が聞こえたのは。




──────────────────

蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.17

POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068

INT:0 MP:0 RES:0  Total:3858


職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』発動可能

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

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