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第52話 誰よりも美しい者は

予約投稿ミスってて投稿されてませんでした。本当に申し訳ない。

「夜がない……ってのは文字の通りなんだよな」

「うん。1000年前には存在してた真っ暗な時間帯が、この時代には存在しないって意味」


 その話を聞いて、黎翔は目眩がする思いがした。自分の立っている足元が崩れ落ちるような、自分の中にある基軸が揺るがされるような感覚が。



 夜がない───当然のことながら、彼の18年の人生の中でそんな日は一度足りとも存在しなかった。

 太陽が沈み、街に静寂の暗闇が訪れる。労働が終わり、家族の団欒や一人の時間、落ち着いた休息など……日々の喧騒から外れた自由が、そこにはあった。


 山中にある黎翔の家からは、美しい夜空を見ることが出来た。都市の人工的な光に遮られることなく、無数の星々を父や祖父と共に眺めた記憶は、既に懐かしさを帯びている。


 そして、沈んだ陽の代わりに月が世界を眺めていた。大きく満ちた日の光も、暗く陰った日の星々に埋め尽くされる夜空も、鋭く輝く三日月も。どんな形であれ、天に昇る彼の天体は、地球とは切っても切れぬ関係にあった。日常の中に溶け込み、意識せずとも存在していた。



 そんな夜が……無いことを想像出来ない夜が、この時代には無い。


 信じられるはずがなかった。本当に同じ星同じ国なのか疑わしい事実だった。


「……待て、夜がないならお前らはどうやって寝るんだ?こんな明るい中じゃ寝にくくないのか?」


 一旦夜がない事実を無理やり理解し、飲み込み、別の質問をすることにした。

 御織はそれを聞いて、首を傾げながら答えた。


「別に、普通に明るい中で寝るけど……」

「え……寝付けなくね?」

「別に」

「マジか……」


 対策の必要性が無い───という想定外の回答に驚く。


(夜が無いのが当たり前って身体に進化してるってことか?いや、どちらかというと適応が正しいかもな。いずれにせよ、俺の感性で物事を見ちゃダメってことだ……)


 受け入れ難い事実を再び何とか噛み砕き、飲み込む。その行為は、先程よりも更に苦く感じられた。


「……でも、おかしくないか?なんでこんなに明るいんだよ?実際太陽は隠れてて、空を照らすものなんて何も無いじゃねーか」


 再び質問を変える。これ以上一つの内容を深堀りしたくなかった。

 御織は短く「うーん」と考える素振りをした後、口を開いた。


「現時点では、マナの蒸発光によるものだと考えられてるよ」

「蒸発光……」


 そう言われて思い出したのは、死んだボスが太陽の光を浴びて消えていく姿。

 あの時、御織は言っていた。


『マナは、太陽の光を浴びるとゆっくり分解されるの。こんな感じで、紫色に輝きながらね』


 と。


「いや、太陽の光当たってないじゃねーか」

「この辺に直接当たってる訳じゃないよ。太陽の光が各天体によって反射されて、その光で蒸発してるの」


 星のない空を指差しながら、御織は説明した。

 それでも、黎翔は納得出来ていなかった。


「でも、あれは紫だっただろ?でも今は紺って感じの色だし……」

「濃度の差だね。大気中のマナはモンスターの肉体を構成するマナより遥かに少なくて薄い。だから、蒸発する時めっちゃうす〜い紫の光が出るの。で、その光が空間的広がりを持つ大気中で層状に重なることで、紺っぽく見えるワケ」

「ほ、ほ〜ん……」


 途中からあまり聞いていなかったが、雰囲気で理解出来たことにしておこうと思った。


「……本当に、夜が無いんだな」

「無いね」

「……………そうか」


 小さく、低い声で呟いた。


(今までこんな非常識な世界でも全部飲み込んで進んで来られたのは、物理法則の大半が変わってなかったからだ。魔法とかマナとか、ちょっと複雑なのが増えてただけで、生物学的な死の概念や物体の運動、そして……昼の、太陽の存在は変わらなかった。俺の知ってる『地球』だった。だが……『年中白夜(これ)』は、もう俺の知る『地球』じゃねぇ……!!)


 考えれば考えるほど、苦悩が増していく。


(もしかしたら他にも何か違いがあるのか?マナとかモンスターとか、よく考えたらありえない話だし……なんで今まで疑問に思わなかった?俺はなんで受け入れられてきたんだ?俺……今まで、どうやって生きてきてたんだ……?)


 ぐちゃぐちゃと思考が絡み合い、悩みの種は増殖していく。負の思考が負の思考を呼ぶスパイラルの中、黎翔は無意識に声を発していた。


「……俺、生きていけるかな」


 ほぼ諦めたように思考を停止した黎翔の口から漏れたのは、そんな平凡な弱音。弱小な召喚者が、見ず知らずの場所に無理やり呼び出された一般人が持っていて当然の感情である。


 これまで『生きていくしかない』と言い聞かせ、未来の不安を押し隠していた黎翔。

 それにようやく限界が来たのだ。積み重なったストレスが、常識の崩壊という爆弾を引き金に一気に爆発し、弱音をせき止めるダムが決壊した。

 そのせいで、押し殺してきた弱音が漏れてしまったのだ。


(……ダメだな、俺。こんなどうでもいい事でこんな悩んで弱音吐くとか)


 御織の前で弱音を吐いてしまったことを後悔しながら、気持ちを切り替えようと言い聞かせる。

 両手を、爪が手の平に食い込むまで握り締め、唇を噛み締め。その痛みで少しでも不安を和らげようと、努力した。自分の世界に入り込み、ひたすら前を向けと言い聞かせた。


「……黎翔」

「っ!!」


 それを遮ったのは、不意に隣から聞こえた羽のような軽い声だった。


 声の主を見ると、いつからか黎翔の左手を両手で握っていた。優しく、包み込むように。

 その表情はどこか哀しげだった。真っ直ぐ黎翔の瞳を見ているのに、その瞳が映し出しているのは黎翔では無い気がした。

 知らない誰かを、思い出しているような……そんな気がした。


「どう、したんだ?そんな顔して……」


 声を掛けられたのに何も言ってこない御織に対し、黎翔が先に聞く。


(弱音を聞かれた以上、心配かけちまったのは間違いないよな。先んじて謝るか……?)


 次の言葉を考えつつ、御織の様子を伺う。


 僅かな時間、沈黙が流れた。互いに互いを見つめ合い、様子を伺っていた。


(やっぱり、謝ったほうが……)


 と黎翔が声をかけようとした時、御織がようやく口を開いた。


「黎翔、大丈夫だよ」

「………!!」


 告げられたのは、たったそれだけだった。

 短く、ありふれた───否、ありふれすぎて誰も使わないような、シンプルすぎる激励の言葉。根拠も何も無い、単純な単語の羅列。本来ならば誰の胸にも届かないような、無責任極まりない発言だ。


 ───そのごく僅かな言葉の中から、黎翔は見出した。御織が込めた、優しさと真意を。


「……あぁ。あぁ、そうだよな。大丈夫だよな」

「うん、大丈夫。アタシが保証する」


 黎翔の顔に笑顔が戻り、声も明るくなる。それを聞いて、御織も優しく微笑みかけた。


(そうだな、大丈夫に決まってる。だって───世界最強の美少女から、お墨付きを頂いちまったんだから!!)


 そう考えると、一気に心の中が晴れたような気分になった。絡み合った悩みが、全部燃やし尽くされてしまった気がした。


「ありがとな。おかげで自信持てた」

「そいつは良かった」


 黎翔は笑顔で御織にサムズアップしてみせた。御織も、それに応えてニカッと歯を出して笑う。自分より一回り近く小柄なその少女の笑顔は、太陽よりも眩しく思えた。


(やっぱりコイツは凄いな。どんな時でも俺を助けてくれる。まさにヒーローだ)


 黎翔が抱える不安を、たったの一言で解決出来るのは、きっとこの世で御織だけだろう。誰より強く、誰より正しい彼女だからこそ、単純な言葉に重みを持たせられる。その言葉が真実であると思わせられるのだ。

 そんな彼女が、黎翔の瞳には何より眩しく映った。


(……強くなるんだ。俺は、コイツの隣に立ちたい。その為に……俺は、生きるんだ)


 改めて、黎翔は決意を固めた。




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蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.17

POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068

INT:0 MP:0 RES:0  Total:3858


職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』発動可能

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

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読んで頂きありがとうございました。よろしければ、いいね・ブックマーク・感想などよろしくお願いします。飛び跳ねて喜びます。

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