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第51話 ミョウな夜、抱く疑念

「いやぁ〜、マジで美味かったな」

「アタシもひっさびさに食べられて満足だよ〜」


 全員食事を終えたため、4人で揃って食堂を出る。


「御織、明日はどこに集合する?」

「そうねぇ、一旦黎翔の軍服取りに行くつもりだから……9時に騎士団本部集合でいい?」

「ロビーだね、分かった。紀章くんも来てね?」

「……ん」


 紀章は、妃と目線を合わせぬままぶっきらぼうに返事を返した。


((分かりやす……))


 それを、黎翔と御織の2人は呆れ顔で眺める。


「じゃあみんな、また明日ね」

「また明日〜」


 そうして、各々が各々の部屋へと帰っていった。


──────────────────


「……で、だ」


 御織に与えられた自分の部屋へ戻り、黎翔はある一点を見つめながら口を開く。


「……お前はなんでいるんだよ、御織?」


 その目線の先にいるのは……黎翔の部屋のベッドに我が物顔で寝転がる御織だった。


 スマホを弄りながら、ベッドのど真ん中に寝転がる少女の姿は、自由そのものだった。遠慮の欠片も無いその姿にため息が漏れる。


「はぁ、ったく……」

「どしたの?ため息なんかついて」

「いや……ここ、俺の部屋なんだけど?」

「そうだね」


 黎翔が遠回しに「出ていけ」と伝えているにも関わらず、黎翔には退くつもりは無さそうだった。そのため、直接伝えることにした。


「……お前、自分の部屋帰れよ」

「?無理だけど」

「………………」


 何故か即答で拒否され、少しだけイラッとする。その苛立ちのまま、無理やりにでも帰らせようかと思案する。



 ……が、黎翔は御織に対して強く言うことは出来なかった。強気な思考とは裏腹に、実際に言葉にすることは気が引けてしまった。


 理由は簡単。


(ぐ……コイツマジで……なんでこんな無防備なんだよ……ッ!!)


 1つは、その少女があまりにも黎翔の男心をくすぐってくるからだ。


 布団にうつ伏せに転がる少女は、心配になる程に油断しきっていた。

 フリルの付いた可愛らしい白いスカートは、ベッドに飛び込んだ時に着崩れしていた。そのせいで、スカートの下に隠れていた太腿が覗いている。


 年下、しかも自身の恩人に対し、そういった視線を向けてしまっていることへの罪悪感から、とてもじゃないが強く言うことなど出来そうもなかった。


 更に、もう1つ理由があった。


 スカートから覗く太腿は、艶やかでハリがあり、傷一つなかった。とてもエッチだ。彼女の美へのこだわりの現れなのだろう。


 ───そう、傷一つないのだ。傷跡も残っていない。


 黎翔はようやく気づいた。水仙騎士団本部の地下で、『花被片騎士』の2人に付けられた、剣による刺し傷の跡が消えていることに。


(……そうか、副団長に治してもらえたんだな)


 先の『ソルクティス』攻略後、自身の怪我を治してくれた女性を思い出し、きっと彼女が治してくれたのだろうと予想した。他の誰でもない副団長の腕なら……と少し安心する。


 美少女を自称する彼女が自身の美にこだわっていることに、黎翔はずっと気づいていた。他の騎士団員とは異なり、軍服を着用せず、明らかに戦闘に適さないその服装を見た時から。

 そのため、自分のせいで彼女の身体に汚い傷跡が付いてしまったことを密かに悔やみ、心配していた。その心配が杞憂であったとようやく分かったのだ。


 とはいえ、彼女がその美しい身体を傷つけてまで守ろうとした努力を踏みにじった過去は消えない。その罪の意識と恩義故に、彼女に対して強くは言えないのだ。



 そういうわけで、黎翔は複雑な心境で彼女の脚を眺めることしか出来なかった。熱烈な、或いは悲観的な視線を送りながら。


 ……しばらくの沈黙の後、スマホを弄っていた少女も流石に違和感に気づき、反応を示した。


「……黎翔、見すぎ」


 鈍感かつ温厚(と自負している)御織であっても看過できない程に真っ直ぐと突き刺さる視線に、文句を告げる。


「えぁ、わ、悪ぃ」


 黎翔は半分無意識で彼女の脚を眺めていた事を自覚し、またその事実を彼女に知られたことが恥ずかしくなって、即座に目線を逸らした。


「……えっち」

「ご、ごめん……ホントに」


 御織は御織で、年頃の少女らしく恥じらいを見せた。強気な彼女の珍しい表情に、黎翔はかなり動揺した。言葉に詰まり、とりあえずの謝罪を追加する。


「ふんだ!今後黎翔のことムッツリって呼ぶもんねーっ!!」

「そ、それだけはやめてくれ……」


 少し変な雰囲気になった気がしたため、それを誤魔化すために御織はジョーク混じりの強がりを見せた。


 それが強がりだと瞬時に見抜いて尚、その変な雰囲気に呑まれた黎翔は動揺を隠しきれなかった。何も考えられず、ぼそぼそと返答する。女性耐性の無さは健在だ。


「「………………」」


 気まずい雰囲気のまま、時間が止まったように2人とも話さなくなってしまった。互いに互いから視線を外し、御織は天井の隅を、黎翔は窓から外を眺めた。とにかく何か気を紛らわせたかったから。


「……青空だ」


 黎翔が、ぽそりと呟く。


 いつの間にか直っていた窓の外には、綺麗な青空が広がっていた。不純物一つなく、紺に近い濃厚な青だけが無限に続いているようだった。

 比較的空気が綺麗な田舎に住んでいた黎翔でさえ見た事のないような一面の青は───


「……太陽が、無い」


 大きな違和感を孕んでいた。


 どこを見渡しても太陽が無い。見える範囲内には、雲も太陽も存在していなかった。

 自分が今いる場所が屋内である以上、屋根に遮られる死角がある。後ろ側が見えないため、そちらに太陽がある可能性はある。


 だが、死角となる方角には、確認するまでもなく太陽が存在しないことは分かっていた。


 影が、無いのだ。


 正面に広がる道路に映るはずの寮の影が無い。立ち並ぶ木々の奥にあるはずの影が無い。笑いながら外を歩く人の影が無い。


 だから、寮の後ろ側に太陽が無いことは断言出来る。そして、視認可能な範囲に太陽が無いことも確定だ。


(なんで……一体、どういうことなんだ?太陽は一体どこに……)


 自身の常識が再び覆る予感がして、酷く動揺する。思考が停止し、ただ呆然と外を眺める。

 そんな動揺を隠しきれない黎翔に、御織が気づいた。


「……今度は外の景色に浮気?」

「うぇぁっ!?いっ、いや、そういう訳じゃ……てか、別に浮気も何も無いし……!」


 黎翔に気づかれぬように耳元まで近寄り、嫌味を述べる。

 揶揄われた黎翔が割といい反応を示したため、御織は少しご機嫌になった。ニコリと笑って黎翔の隣に立ち、窓の外に広がる蒼天を並んで眺める。


「太陽が無いのが気になるのかな?」

「お、おぅ……よく分かったな」

「ま、懐かしい反応だったからね」

「?」


 少し哀しそうな表情でそう告げられ、黎翔は疑問に思う。


(懐かしい……てことは、この景色に疑問を持った人間が過去にもいたってことか?じゃあ、そいつの正体は多分……っ、待てよ、てことはコイツもしかして……)


 推察を進めるにつれ不安げな表情になる黎翔を見て、御織はくすりと笑う。


「相変わらず君はいい子だねぇ」

「……急にどうしたんだ?」

「別に〜ぃ。で、太陽のこと気になるんでしょ?」

「あぁ。教えてくれるのか?」

「ん〜、ど〜しよっかなぁ〜?教えてあげよ〜かな〜ぁ?」


 どこか上機嫌な御織は、ニヤニヤと焦らすような発言をする。その様子に若干の苛立ちと安心を覚えた黎翔は、


「早く教えろ」


 と優しくデコピンしながら言った。


「……黎翔、アタシのこと舐めてる?」

「?何がだ?」

「手加減しすぎて欠片も痛くないんだけど……まぁいいや。教えてあげるよ」


 弾かれた額に触れながら、御織は再び窓の外に視線を向ける。

 そして……真面目な表情を作った。


「君の疑問は逆なんだよね」

「………?逆?」

「そ。何言ってるか分かんないだろうから、順番に説明したげる」


 そう言うと、御織はスマホを取り出した。そして、慣れた手つきで盤をいじった後黎翔に見せた。

 そこに映されていたのは、世界のどこかのライブ映像と思しきものだった。風に揺れる広大な森林と、天空に昇る眩い太陽が、そこにはあった。


「太陽は今頃、地球の裏側にでもあるんじゃないかな。黎翔も知ってるでしょ、自転と公転」

「……知ってる。知ってるから困ってんだよ」


 当たり前のことを告げられ、少しイラッとする。全く答えになっていない上、半分舐められているような発言だったから。

 しかし、その認識が間違っているとすぐに気づいた。


(……でも、自転と公転のルールは変わってないんだよな?で、太陽は今日本の反対側を照らしている。ここまでは俺の知る常識と何も変わらない。じゃあ……)


 再び、どこまでも広がる空に目を向ける。


「なんで……太陽が無いのに明るいんだ?」


 そう呟いた時、御織はパチンと指を鳴らした。


「そう、そこだよ。黎翔が持つべき疑問は『明るいのに太陽が無い』じゃなくて、『太陽が無いのに明るい』なの。だから逆って言ったんだ」


 御織のその言葉を聞き、黎翔はハッとした。


(そうだ。よく考えたらおかしいじゃねぇか。さっき夕飯を食いに行ったのは大体夜の8時、今は9時くらいのはず。なのに……なんで空が明るいんだ……?いやいや、まさかな。でも考えうる可能性なんて……)


 新たな疑問の発生。それは、黎翔の思考を更に混乱させる。

 僅かな時間で思考した後、黎翔の脳はある答えを導き出した。


「まさか、だ。まさかとは思うが、この時代には……」

「気づいたみたいだし、答え合わせしよっか。黎翔の思ってる通り……この時代には、夜がないんだ」

「………ッ!!」


 自身の常識が、覆る音が聞こえた。




──────────────────

蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.17

POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068

INT:0 MP:0 RES:0  Total:3858


職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』発動可能

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

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