第47話 痴話喧嘩
コロナ落ち着きました。ご迷惑おかけしました。
「……んっ……」
ふわりと、黎翔の意識が戻る。
(あ〜、なんかよく寝た気ぃするわ)
今回はやけに寝心地がよかった。というか、現在進行形でとても寝心地がいい。高性能枕でも敷いてあるのだろうか。しかも凄くいい匂いがする。これが新居の力というやつなのだろうか。
……なんてふざけたことを考えている場合では無いと、思い出す。
(ってやばい!敵前睡眠とか死の3秒前じゃねぇか!?)
先程まで、あの突然現れた男と戦っていたこと、その末に敗れて意識を失っていたことに気付いた。
身体を動かそうと、その場でモゾモゾと動いた。
と、上から声が聞こえる。
「んっ、ちょっと。動かれると困るんですけど!」
声の主と思しき者の手が、黎翔の頬をつついた。
(え、なに?)
困惑しつつ、頭と目線を動かして周囲を確認する。
(頭の下には、柔らかい枕……?白いレース付きの。なんか窪みあるけど、特殊な枕だな。横には……これまた白いフリル付きの壁?で、上には……)
チラリと上を見る。と、ある人物と目が合った。
「おはよう。もう、寝起き早々やんちゃだね、キミは!」
「え……っと、御織?」
頬を膨らませて怒る、可愛らしい少女が───
御織の顔が、自身の真上にあった。
「え、え?」
その時点で、自身の状況を何となく理解しかけていた。
しかけていたのだが、あまりにも信じ難い、かつ信じてはならない状況だったため、黎翔は困惑していた。
「あの、えと……御織さん?これは……」
恐る恐る、尋ねる。
「何って。見ての通り、世界最強美少女、暁御織様の膝枕ぞ?どうよ、気持ちいいだろ?」
「ひゅっ─────」
分かっていた。思っていた通りだった。
でも、信じたくなかった。その事実を。その事実だけは。
蒼井黎翔は女性耐性が無い。
故に、膝枕なんてされた日には、喜ぶ暇もなく意識が飛ぶのは不可避である。
はずなのだが……
(なんか、違う……嬉しいけど悔しいが勝つ……)
黎翔は、非常に複雑な心境だった。
まず、ご褒美とされる膝枕を、よく分からない男に敗れた後にされているせいで、ご褒美として素直に受け取れないこと。
次に、相手が年下の少女であること。なんというか、背徳感が拭えない。
そして最後に……視界に、壁と顔しか映ってないこと。
(丘が無いんだよな、2つの丘が。なんていうか、色気が無い。御織はペチャパ、じゃなくて、貧にゅ、も違くて。ほら、膨らみかけなんだよ多分!可愛いけど大人の魅力的なのはまだ早い年齢なんだよ、きっと。そういうことにして、この話はもうやめよう、ヨシ)
あまりにも失礼極まりないなと反省し、その件については一度忘れることにした。
……が、その時になってようやく、上からジトーっという視線が降り注いでいることに気づいた。ゆっくりと、目を逸らす。
「……黎翔、今チョー失礼なこと考えてたでしょ?」
「気のせいだろ」
「うるさい、バカ」
おこ状態の御織に、ぺちりと額を叩かれた。しっかりバレてたらしい。
「はぁ〜あ、せっかくこんな素晴らしい機会を与えてあげたのにさ。ジロジロ胸ばっか見ちゃって」
「わ、悪かったって……」
「へーんだ。黎翔なんてもうミンチの刑だもんねっ!」
「あぁ───いや重すぎだろ!?」
ちょっと叩かれるくらいなら───と思っていたが、まさかの処刑でさすがに驚きの声が出た。慌てて御織の膝上から降りて距離を取る。
「にははっ、ジョーダンじゃないか〜。今回は」
「え?次はマジなの?」
「にははっ☆」
「笑って逃げるな」
他愛のない、下らないやり取りを交わす。
再び、2人の平和が戻ってきたことが実感できた。
……そこに、水を差す声が現れた。
「やかましいなァ、オイ。外でやれやァ」
「っ!?」
その声は、明らかにあの男のものだった。
見ると、黎翔の部屋のベッドの上に胡座をかき、頬杖をついて、不機嫌そうに座っていた。
「なぁっ……!?」
「いちいち叫ぶなやァ、ガキがァ。ムカつくんだよォ、テメェの面ァ見てッとなァ」
男は、ギザギザの歯を見せびらかすように、口を大きく開けて話していた。その舌にはピアスが付いていることに、今更気づいた。
「……俺はお前の話し方も結構イラッとするけど」
「テメェ割といい度胸してんなァぶっ殺す」
「おい流れるように2人して殺すな」
黎翔の言葉が気に食わなかったらしく、元々悪い目つきを更に鋭くさせ、とんでもない形相で黎翔を睨みながら暴言を吐いた。
「フン、まァいいわ。おめェーらが不法侵入じゃねェーなら、ボコす理由が無くなッちまッたからなァ」
「……なに?」
不機嫌そうに呟く男に対し、黎翔は聞き返した。
(そういやコイツ、さっきも不法侵入って言ってたよな。なんの事なんだ?)
男は、黎翔が聞き返したのを知らん振りして黙りこくっていた。なんなら、目も合わせようとしなかった。
仕方なく、今度は御織に視線を送る。こっちはこっちで面倒臭そうな表情だった。
「頼む」
と手を合わせながら頼むと、渋々答えてくれた。
「この子はうちの寮生の子なんだけど……実はうちの寮、不法侵入が禁止されてるの」
「おぅ……まぁ当たり前だな」
「で、この子たちはまだ黎翔が入寮することを知らなかったワケ。アタシが来ることも、ね」
「ほうほう……」
何故知らないのか……とツッコミたくなるのを我慢し、大人しく続きを聞く。
「ほんで、アタシたち玄関に靴脱ぎ捨ててったじゃん?」
「そういえばそうだった……あぁ、なるほど。それで知らん靴2つを見つけて、俺らが不法侵入だと勘違いしたのか」
「そう!だからアタシたちを撃退しようとしてきたってワケ」
ようやく状況を理解した黎翔は、
(じゃあ悪いの、靴脱ぎ捨てた俺らでは?)
と思い直し、未だ目を合わせようとしない男の方を向く。
「あの、この度は紛らわしいことをして申し訳ありません」
と丁寧に謝罪する。が、
「……………………」
結果は無反応。相当キレているようだった。
「謝んなくていいよ、黎翔!アタシたち悪くないもん!」
「テメェは謝れや。なんで新入の知らせ届いてねェーんだよ」
「え、だってサプライズしたいじゃん」
「俺ァ時々マジでおめェーが何言ッてんのか分かんねェーよバカが」
「はー!?アンタより賢いし!バカはあんただしぃー!!」
「あァ〜!?」
突然、2人の痴話喧嘩が始まった。しかも、結構低レベルな。
「バカはテメェーだろォーが!!」
「いーやそっちですぅー!!」
「んだァ!?」
「んにゃ〜ん!?」
「落ち着け御織、それじゃただの猫だ」
くだらない喧嘩を適当に宥めつつ、ため息をつく。
(なんなんだ、コイツら……)
面倒に思いつつ、結局は仲裁役を完遂するのだった。
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「さて、そろそろ夕飯かな」
「もう8時か……」
「そんな時間!?」
男がやってきてからいつの間にか2時間半も経っていたらしく、驚きを禁じ得ない。
「黎翔のことは寮食の時に発表するから。行くよ」
「あ───え、今から!?」
あまりにも急に自身の存在を公にされると伝えられ、再び驚きを禁じ得ない。
「ほれ、行くよ」
「え、え、ちょまっ」
強引に腕を引っ張られ、廊下へ連れ出される。
「な、おいっ!」
「ん?なに?」
物凄い力で黎翔の手首を掴み、ズカズカと歩いていく御織を必死で呼び止めようとする。
「せ、せめてさっ、あの男誰かくらい教えろよ!!」
あれだけ長い間一緒にいたにも関わらず、未だに正体を知らないのは嫌だと思い、時間稼ぎも兼ねて聞く。
と、隣から声が聞こえた。
「んなもん本人に聞きゃァいいだけだろォが。ソイツに聞くまでもなくなァ」
「いやお前もいたんかい!?」
その男は、普通に御織の隣についてきていた。3度目の『驚きを禁じ得ない』、である。
男は、意外と律儀に自己紹介をした。
「俺ァ桐生紀章。勇者候補筆頭にしてェ、蕾種大学上位クラス『四葉組』一年生、つまりテメェと同じクラスだァ。よろしくなァ、クソ生意気なガキよォ!!」
「……は、え!?クラスメイトだったのかよ!?」
まさかの形で、最初の同級生と知り合った。
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蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.17
POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068
INT:0 MP:0 RES:0 Total:3858
職業:狩猟者ハンター 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』発動可能
『野性』パッシブ
『獣殺一閃』発動可能
ステータス補正:物理特化
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