第48話 認知式
「はい、あそこ食堂ね〜」
「ねぇ待って!本当に待ってって!!」
つかつかと一直線に歩く御織を呼び止めようと叫ぶ。
ずっと抵抗し続けてはいるものの、御織の力に全く勝てない。『POW』のステータスは低いと言っていたはずだが、少なくとも黎翔よりは高いらしい。
結局、首元を親に噛まれたライオンの赤ちゃんが如く、抵抗虚しく引きずられてきた。食堂の、ほんの目の前まで。
「ねぇ!!心の準備出来てないってぇ!!嫌だよぉ、まだ先輩にも同級生にも会いたくねぇよぉ!!!」
「わがまま言わないの〜。これは定まった運命なんだから!にははっ!」
「諦めるんだなァ、クソガキィ。こうなったコイツァ絶対ェー動かねェーからよォ」
隣についてきていた、金髪の男───最初の同級生である紀章も、その光景を呆れ顔で見ながらついてきていた。
御織はそこそこ早歩きしているが、紀章もわざわざその速度に合わせてついてきており、目的が不明なため少し不気味に感じていた。さっきまで敵対していた分、尚更。
「なぁ、助けてくれたりは……」
「あ〜あ〜、聞こえねェーなァ。なんか言ったかァ?」
「お、同じクラスのよしみだろ?なぁ、頼むよ!」
「いやァ〜まだ同じクラスのヤツかど〜か分かんねェーからなァ。自己紹介も聞いてねェーし」
のらりくらりと躱され、黎翔はイラッときた。
「テメェ、覚えとけよ……」
「キキキッ、まァ覚えといてやらァ。おめェーがコイツにいいようにされてる様をなァ」
「おい、ふざけんな!!」
「こーら、喧嘩しないの」
「テメェのせいだよ!!」
両側からひたすらイジられ、更にイライラが募る。流石に抵抗にも疲れが出始め、それらはだんだんと『めんどくさい』に昇華していく。
(暴れてもどうにもなんねーし、寮の人にはいつかは俺のこと知ってもらわなきゃいけねぇ。そう考えたら……まぁ、運命を受け入れるべきかもな)
暴れながらそう思考し、決断を下した。
(うん、ちゃんと挨拶しよう)
食堂の扉の前にちょうど着いた時、その半ば諦めたような決意は固まった。
「ここが食堂ね。さっきも連れてきたけど」
両開きの扉の前、3人揃って足を止めた状態で御織が話した。
そこは、1階の玄関から正面に進んですぐの場所にある、共同の食堂。
朝と夜は、基本寮生全員がここに集まって食事を取るのだと、さっき寮内探検をした時に教わっていた。
「さて、そんじゃ入りますか〜。黎翔、ちゃんと挨拶するんだよ?」
「分かってるっての。お前は俺の母親かよ」
「いや師匠だけど」
「……あ、そう」
普通に即答で嫌味を否定されて少しムッとしつつも、別に反論する気も起きない完璧な回答が帰ってきて少し嬉しくも思った。
複雑な心境のまま、黎翔は徐に扉に手をかける。
(んー、まぁ緊張するわなぁ……怖)
扉の取っ手を握った瞬間、一気に心臓がバクバクと跳ね始めた。じっとりと汗が湧き、額を滴る感触がする。
(くっ……ええいままよ!!)
覚悟を決め、引き戸を思いっきり引っ張って開ける。そして……
その空間に、足を踏み入れた。
室内は明るかった。廊下が少し薄暗かった事もあり、部屋の明かりがやけに眩しく感じられた。
食事の準備は既に始まっているらしく、多くの人々が席で談笑しながらお盆に乗せた食事を運んでいる。
背が高い人、低い人、男女、年齢、国籍さえも入り乱れ、多種多様な人々がそこにはいた。
(多……こんなにいんのか)
一堂に会した、今後共に生活する仲間たちの顔を見て、黎翔は若干圧倒される。
部屋にごった返す人の波は、大きな活気をまとっていた。愉快で爽やかな、青春の香りを感じさせた。
黎翔が部屋に入ってきた、その瞬間までは。
「「「「………………!!!」」」」
「いぇぁ……………??」
黎翔が部屋に入って1秒もしないうちに、その場の全員の視線が黎翔に向かってきたのを認識する。
それまでの談笑や食事の準備の手は殆どが停止し、静寂が部屋を包む。
動きを止め、黎翔の方を見る数々の視線は───
警戒心、或いは、殺気に近いものさえ孕んでいた。
(いぎ……こ、こわ……)
その恐ろしい視線を感じ、黎翔は戦いていた。手足が震え、膝から崩れ落ちそうな程に恐れを抱いていた。
必死に立とうと努力して、数多の視線から意識を背けて、ようやく立てている現状。
それでも、黎翔は冷静に現状を分析し始めた。
(ここにいるヤツら全員、蕾種大学の超優等生なんだよな。そりゃ怖いわけだよ……)
全視線が集中した瞬間、黎翔は死んだと錯覚したくらいだった。一瞬で血の気が引いてしまうくらい、恐ろしかったのだ。
だが、少しすると、それは少しだけ緩和されたと感じた。
(どうやら、大半の奴らはまだ警戒心を持ってるけど……殺気、とまでは行かない奴がほとんどみたいだな。つまり、最初の一瞬だけ過剰警戒してただけってことか)
刺すような殺気が幾つか感じ取れるだけで、大半は『急に現れた知らない人』への警戒を行っているだけだ、と推測できた。そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった。
(落ち着け、一度冷静になれ。コイツらは多分、知らん奴が急に現れたからビックリしてるだけだ。敵意を持ってる訳じゃない。そもそも、仮に俺に対し敵意を抱いていようが、いきなり殺されるようなことは無いはずだ)
そう考え、深呼吸する。大袈裟に行うことで、少しでも不快な視線から意識を逸らす。
と、後ろから声が聞こえてきた。
「ども〜、おひさおひさ。御織様、久々見参で〜す」
「「「………!!!」」」
御織がいつもよりも更に軽いノリで挨拶をした。それを聞き、一気に室内が騒然とする。
「え、なぁ。あれって暁御織?」
「ホンモノ?なんでこんな所に?」
「さぁ。あの人は自由人だから、私達には推し量れんよ」
突然の最強少女の襲来に、驚いているというより困惑している人が多いようだった。それを見た御織が、「コホン」と咳払いして意識を集める。
「今日ここに来たのは、新入生を連れて来るためでーす。というわけで、ハイ。挨拶して」
「うぇ、こ、こんな急にかよ!?」
気の抜けた感じでバトンパスされ、黎翔も困惑の色を浮かべる。
それを見た人々は、口々に呟いていた。
「うわ、アイツ無茶振りされてる……」
「そういう感じね……」
「なるほど……可哀想に……」
黎翔に対する、同情の言を。
(……あれ、御織って意外と人望ないの?)
部屋全体の雰囲気が、呆れに近いものに変化したのを感じ取り、黎翔は少しだけ驚く。
が、それと同時に、話しやすくなったとも感じた。
(なんか同情されてるっぽいし、受け入れてもらえそうだな)
黎翔も「コホン」と咳払いをして、自身が話す準備を整えた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「えーと、はじめまして。蒼井黎翔って言います。今日から蕾種大学の、えと……皆さんと同じクラス、同じ寮で生活することになります。分からないことも多いんで、そこんとこよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、丁寧さと誠実さをアピールする作戦に出た黎翔は、
(悪くないんじゃないかな?)
と内心少し満足する。
室内では、パラパラと拍手の声が聞こえた。大半はシカトだったが。
(ま、無理もないわな。流石に急すぎだし)
御織が無理に話を進めたせいで、その場にいる大半は状況を飲み込めていないのだろう。ぽかんとしている生徒が何人もいるようだったから。
頭を下げてすぐはそんな感じだった。が、話を聞いていた先住民達は、徐々に口を開き始める。
「……なぁ、もしかして彼が例の……?」
「あぁ〜、あれだろ?ソロでFのボス倒したっていう……」
「眉唾じゃなかったのかよ?レベル7で勝てる訳ないだろ」
「いや、噂だとマジらしいぜ。なんでも特異役職持ちだとか」
「マジ!?やべーじゃねぇか」
どうやら黎翔の存在に心当たりがあるらしく、話す声は次第に広がって大きくなる。
ほとんどの生徒が状況を飲み込めたようで、近くの友人とコソコソ話し始めた。部屋全体にざわめきの波が広がる。
その声を聞くに……色々気になることはあるが、とりあえず自分の存在が既にそれとなく伝わっているのだと理解した。同時に、受け入れて貰えそうで一安心する。
「じゃ、そーゆー訳だから。みんな、これからよろしくね〜」
「よろしくお願いします」
「てなわけで、お時間いただきました〜!解散!」
御織と一緒にもう一度だけ挨拶した後、室内に再び拍手が起きた。今度は、大半の生徒が返してくれたようだった。
そうして黎翔の認知式はサラリと終わり、生徒達は食事の準備に戻って行った。
「「「……………」」」
……その中に数人、嫌な雰囲気を纏う生徒がいたことも、黎翔は見逃してはいなかった。
「黎翔?」
「ん、あぁ悪い。どした?」
少し物思いに耽っていると、御織から呼ばれた。入口で立ち尽くしたままだったことに気づき、慌てて少し入口から離れる。
「アタシたちも準備しよっか」
「りょーかい」
黎翔は、もう一度『彼ら』の存在を確認した後、御織と共に食事の準備をする生徒たちの列に並んだ。
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蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.17
POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068
INT:0 MP:0 RES:0 Total:3858
職業:狩猟者ハンター 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』発動可能
『野性』パッシブ
『獣殺一閃』発動可能
ステータス補正:物理特化
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