第40話 天子の儀式、明日への一歩
本日より投稿再開致します。2章開始です。お楽しみ頂けたら幸いです。
「……ところでさ、御織」
「ん?どうかした?」
「仕事があるので」と急ぎ足で帰っていった錯羅を見送った黎翔は、右隣で未だに手を振っていた御織に声をかける。
「なんだい?賢いアタシが教えたげる!」
「んむ、助かる。単純な疑問なんだけど……死んだモンスターってどうなるんだ?」
「ん、それは遺体の話?」
「あぁ、そうだ」
真面目な表情で質問すると、御織は「ふむ」と少し考えたのち、
「じゃ、ちょいとついてきて」
と手招きした。
そのまま彼女に連れられ、群青の蒼天に照らされながら少しだけ歩く。
辺りは穴だらけになっており、至る所に瓦礫やコンクリートの破片が散らばっている。血が付いている場所もあり、先の戦闘の激しさを物語っていた。
ふと、御織がピタリと足を止める。そして、
「あれだよ」
と地面に転がる何かを指さしながらそう言った。
「これは……」
その物体は、先程黎翔が殺した『ボス』の遺体……
と、思しき物体だった。
何故『思しき』としか言えないのか?
それは、その物体の概形が掴めなくなっていたため、本当に『ボス』の遺体だ、と認識出来なかったのだ。
特徴的な腕や顎はまだしっかり残っていたが、身体の一部が───否、ほとんど全体が欠損している。
それに加え、もう1つその肉体に変化が見られた。
それは、遺体が紫色の光を放っていたことだ。ソルクティスの空と同じ、深く暗い紫色の光に包まれたその遺体は、既にほとんど見えなくなっていた。
そして、遺体の一部が───というよりは、表皮全体が───紫色の光と共に、粒子となってパラパラと散っていたのだ。
正月に見たどんど焼きの木の燃えカスのように、遺体の皮膚は優しく輝きながら宙を舞う。
輝くその粒子は、少しすると解けるように消滅していく。その光こそが、『ボス』の遺体の欠損と関わっていることは明白だった。
だからなのか、単純にその光に魅了されたのか。その儚い生命の残り香は、黎翔の心を妙に刺激した。
「これが、モンスターの最期。詳しくは省くけど、モンスターの遺体はマナで構成されててね。で、マナは、太陽の光を浴びるとゆっくり分解されるの。こんな感じで、紫色に輝きながらね」
光に見とれる黎翔に、御織が後ろから優しく声をかける。
「太陽の……」
ふと、空を見上げる。
金色に輝く太陽と、相も変わらず雲ひとつない青空は、どこまでも強烈だった。
視界端に僅かに映る淡い紫色の光を───モンスターが生きた最期の証を、儚い散り際を、掻き消さんとする程に眩しい空を見て、黎翔は感慨に耽る。
(モンスターも……一応、ある種の生命なんだよな。見た目も、身体のつくりも、行動理念も……全部普通の動物とは違うけど、生物であることに変わりはないんだよな……)
つい先程まで殺し合いを繰り広げ、散々ボコボコにしてきた『ボス』の遺体。
本来なら、その存在に対して憤りを感じるべき場面だ。事実、黎翔自身も未だに『ボス』に対して不快感を拭いきれたわけではない。
(でも……願わずにはいられない)
思考から現実へと意識を戻す。そして……
左足を引き、膝をつき、右足も同様に折りたたみ……その場に正座する。
全身に、細胞ひとつに至るまで、黎翔の身体に染み付いた美しい所作。父から、祖父から、幾度となく叩き込まれたその動きは……
次なる動作への、枕詞に過ぎない。
(『ボス』。名前のない貴殿を、今はそう呼ばせて頂こうか)
瞳を閉じ、顔の前で両の手を合わせる。そして……祈る。
(……あぁ、懐かしいな)
その間、黎翔の脳内に流れるのは、過去の記憶。
音声として鮮明に蘇るその記憶は、父と祖父と共に告げた、ある人物への哀悼の祝詞。
記憶の中の2人の声に重ねるように、黎翔も言葉を形にして祈りを捧げる。
『せめて安らかに。そして、来世は幸せに。其に天子の祝福があらんことを───』
蒼井家に代々伝承されてきた、奪われた無辜の生命に対する最期の償い。
人として行うべき儀式であり、狩猟者として……命を奪う者として、忘れてはならない贖罪。
本来であれば、それは罪なき命へ向けられる祈りだった。狩猟によって奪われた、人の利益のために消去された、無垢なる魂の救済が目的とされていた。
目の前の死体は、最低一人は殺している。一般人を一人、目の前で食い殺している。
つまり、例の祈りの対象外なのだ。伝承に照らし合わせるのなら、『ボス』の死に与える祝福など存在しないのである。
それを理解した上で……黎翔は、祈った。
(如何なる命も、散れば等価だ。死んでしまえば、全ての命が無価値になるんだから。ならば……俺は祈りたい。だって……骨も残らず消滅し、あまつさえ誰からも悼まれない死なんて……あまりにも、寂しいから)
とても幼稚で、下らない考えだ。本人もそう理解している。
祈りは所詮祈り。その行為がもたらす利益など存在しない以上、時間の無駄以外の何物でもない。
そう、理解しているのだ。しているのだが……
それでも、祈らずにはいられなかった。本能、或いは黎翔自身の本質に逆らえなかった。
「……君は優しいね、黎翔」
ずっと黙って後ろで見守っていた御織が、ふとそう口にした。
「そんなんじゃない。これは俺の自己満。俺が納得するための行動だ。つまるところ、結局は自分のための行いであって、そこに優しさは存在しないんだよ」
祝詞を焚べ終えた黎翔は、手を下ろして立ち上がる。
自己嫌悪に満ちたその言葉を聞き、御織は少しムッとした表情になる。
「んにゃ、黎翔は優しいよ。間違いなく優しい。絶対、ゼーッタイ優しい!アタシが保証する!」
「……そう、かな?」
「そうだよっ!」
「……そうか」
御織が必死に励ます姿を見て、黎翔は少し嬉しく思った。
「ちぃとばかし自信が持てたよ。ありがとな」
「んふふ〜っ!お役に立てて何よりだよ!」
にこりと笑ってみせると、御織も満足気に笑顔を浮かべた。
「よし、そんじゃそろそろ行きますか」
「うぃうぃっ!」
最後に、もう一度だけ『ボス』を一瞥したのち……
2人は、戦場跡地から立ち去った。
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「今日から黎翔にはこの家に住んでもらいまーす!」
「おー、けっこう綺麗〜!」
歩き始めてから1時間ほど、2人はついに黎翔の家にたどり着いた。
といっても……
「アパート?」
「んーん、学生寮」
「じゃあ家ではなくね?」
「うん」
「あ、そう……」
新築のように綺麗なその建物は、明らかにサイズも部屋の数も一人で住む家ではなかった。
黎翔の住んでいた田舎の街には存在しないが…都会ならばいくらでも目にすることが出来るであろう、典型的なコンクリのアパート。
(一軒家、期待してたんだけどなぁ……)
少しガッカリしつつも、滅多に見られない大きな建物(尚、田舎の価値観)に住めること自体は、別に嫌という訳ではなかった。
「見ての通り割と新しいからね〜。中も綺麗だよ?」
「そりゃいいな」
数時間前まで自身が住んでいた家───木造で、所々腐ってさえいる、ふるぼけたボロ家を思い出し、
(あれより遥かに楽できそうだな)
と少し楽しみに思う。
「ま、黎翔は上級クラス入るんだから当然の待遇だよね〜」
「あぁ、そうだな───ん、上級クラス?」
ワクワクに満ちた黎翔は、御織の発言を聞き流そうとして……立ち止まる。
「え、待って?上級クラスってなに?」
「え、文字通りだけど。優秀な子たちが集まる、我が国トップの生徒の集いだよ?」
「はぁ!?」
唐突に投げられた重責に、目眩がしそうになる。
「なんてったってまたそんなヤベェ所に……」
「なーに謙遜してんの。特異職業持ちな上ソロでボス倒してんだから当然だよ?」
肘で横腹をつつきながら、御織は黎翔をいじる。
「言っとくけど、レベル7でボス倒す初心者なんか見たことないからね?普通に異常なんだから!」
「そうなのか?」
「んむ。特に『自己再生』持ちを一撃で殺す火力を、魔法ナシで叩き出してんだもん。ハッキリ言って異次元の強さって感じだから!」
「お、おう……」
唐突にガチテンションでベタ褒めされ、喜びと恥ずかしさで言葉が濁る。
「ま、とにかく黎翔は凄い子だから期待されてんの。字通り、国からねっ!」
「……責任が重い」
「だーいじょーぶだって!黎翔ならできるよっ!」
その励ましに疑念の目を向けながら、ため息をつく。
「まぁとにかく。時間もないし、早速学生寮ん中案内するよ。黎翔の部屋と施設、あとは日程とかやらなきゃ行けないこととかも全部ね!」
「うわっ、ちょ、引っ張んなって……」
御織に手を引っ張られ、無理やり寮の中に連れ込まれる。
(不安だぜ……)
重い気持ちのまま、黎翔は御織に引きずられていった。
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蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.17
POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068
INT:0 MP:0 RES:0 Total:3858
職業:狩猟者ハンター 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』発動可能
『野性』パッシブ
『獣殺一閃』発動可能
ステータス補正:物理特化
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休止期間中も呼んで下さった方が一定数いまして、中にはこんな拙作に☆5評価して下さる方もいました。
本当にめっちゃんこ嬉しかったです。これからも小説書くモチベーションになりました。これからもどうぞ温かく見守って頂きたく思います。




